『もみの家』 考察とネタバレ:自分の名前は言えても、学校には行きたくないのだ、南沙良

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『もみの家』

不登校の16歳少女が、自立支援組織の共同生活でもみのような硬い殻から解放されていく。南沙良好演。富山の厳しくも美しい自然と善人だらけの環境に囲まれ、野菜作りに励む日々。佐々木すみ江の演技に癒される。

公開:2020 年  時間:105分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:    坂本欣弘

キャスト
本田彩花:  南沙良
佐藤泰利:  緒形直人
佐藤恵:   田中美里
梶原淳平:  中村蒼
本田朋美:  渡辺真起子
本田隆司:  二階堂智
丹保繁:   菅原大吉
太見ハナエ: 佐々木すみ江

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)「もみの家」製作委員会

あらすじ

心に問題を抱えた若者たちを受け入れて自立を支援する「もみの家」に、不登校が続いて半年になる16歳の本田彩花(南沙良)が入所した。

心配する母親(渡辺真起子)に促されうつむきながらやって来た彼女に、もみの家の主である佐藤泰利(緒形直人)は笑顔で声を掛ける。

そこで暮らす人々との出会いや豊かな自然の中で感じ取った大切な何かに突き動かされ、彩花は少しずつ自分自身と向き合うようになっていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

素朴でまじめな富山県ご当地ドラマ

不登校になった少女が自立支援施設<もみの家>に入居しさまざまな出会いを通して成長していくヒューマンドラマ。

富山県が舞台であり、監督の坂本欣弘も富山県の出身だそうだ。文化庁の文化芸術振興費補助を受け、文部科学省の選定作品と聞くと、なるほどと腑に落ちる。

実に素朴な作品であり、よくいえば作為的な作り込みを感じさせない自然さがあり、言い換えれば、刺激や起伏に欠けた印象は否めない。

学校のホームルームで見せられても、違和感がない、いうなればマジメで品のよい作品だ。それが馴染む人には、わりと心地よい映画かもしれない。

(C)「もみの家」製作委員会

キャスティングについて

主演の不登校になった16歳少女・彩花を南沙良が演じる。彼女は不思議な存在感の持ち主だと思う。主演女優として派手さはあまりないが、感情極まったときの彼女の演技はとても心を打つ。

彼女の演技力をアピールした『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』。共演した蒔田彩珠はその後、河瀨直美監督『朝が来る』で妊娠した女子高生役をやり、いろいろな事情を抱えた妊婦たちと共同生活を始める。

本作の南沙良も同様に、いろいろな事情で自立支援が必要な、幅広い世代の若者と共同生活をするのだ。しかも寮母さん(?)の田中美里が妊娠しているので、同作との不思議なつながりを感じる。

奇縁といえば、彩花の母親を演じる渡辺真起子と、父親の二階堂智も、どこかで見た夫婦だと思ったら、中野量太監督『チチを撮りに』でも夫婦役だった。

今回の父親はわりと娘のよき理解者っぽいが、母親は同作のようにもっとさばさばした人物像だったら、娘も不登校にならなかったかも。

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その他の善人の人々

本作は基本的に、善人しか出てこない。人によって、好みが分かれるところだろう。安心感と刺激のどちらを求めるかだ。

もみの家を運営する佐藤泰利(緒形直人)とその妻・恵(田中美里)は、どちらもみるからにいい人で、子供を預ける親も安心できそう。

緒形直人は本作でヨコハマ映画祭助演男優賞。『北の国から』のイメージが残るのか、こういう寒そうな土地柄は似合う。

もみの家で農作業を支援する農家の菅原大吉と卒業生の中村蒼も、ともにいかにも善人なので、こちらも安心。中村蒼の爽やかさも健在だ。彼が中学校教師の職をみつけ、みんなと別れを告げるシーンは結構いい。

そして、村で一人暮らしをしているおばあちゃんの佐々木すみ江。実に心優しく、懐の深い老人なのだが、彼女のおかげで、彩花の心も次第に癒されていく。

佐々木すみ江がいつ意地悪ばあさんになるのか心配していたが、出演者総善人の作品では、彼女さえもいいお婆ちゃんにしてしまうのだった。

本作は彼女の遺作となってしまったが、さすが名女優、90歳という年齢を感じさせない、すばらしい演技だった。

(C)「もみの家」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

硬い殻をかぶったもみが、殻を破るまで

不登校の少女が自立支援施設にいって、自分を見つめ直す作品だ。語らずとも、ストーリーは概ね見えているだろう。最後には自立して学校に行けるようになるに決まっている。

彩花が不登校になった理由は、いまひとつ釈然としない。明らかないじめや失恋や、なにかトリガーがあった訳ではなく、何となく陰キャラ扱いされて、何となく学校に行きたくなくなる。

まあ、不登校に明確な理由など、ないものなのかもしれない。

無理やり、もみの家に入れさせられて、慣れない農作業や共同生活に抵抗感を示すが、次第に環境に適応し、居場所をみつける。

嫌いだったはずの野菜の味、初めて心を開いた先輩(中村蒼)、獅子舞の演者に抜擢され稽古に励み、おはぎ名人のおばあちゃん(佐々木すみ江)との交流。そして、寮母・恵の出産立ち合い。

田植えから稲を育て、硬い殻をかぶったもみを脱穀し、おいしい新米になっていく過程を、四季を通じて追いかける中で、彼女自身も、世間や親に対して、背負っていた殻を破ろうとする。

残念な点がいくつか

伝えたいものはとても良かった。だが、いや、だからこそ、残念な点がいくつか気になった。

まずは、善人デフォルト設定からの脱却。この手の共同生活には、もっと性格のひねくれた同居人が一人は必要。多少それらしい同居人はいたけど、ちょっと迫力不足。

次に、獅子舞の舞台披露。本当は夜祭りとかで撮りたいところだけれど、一生懸命稽古しての披露は、もっと盛り上げて見せてほしかった。観客も少ないし。

また、おばあちゃんの葬式で喪主である長男に彩花がかみつくシーンも、結局この長男も悲しんでいるというオチですぐに落着してしまう。ここは、もう少しおばあちゃんが気の毒になるような不肖の息子の方が、盛り上がるのに。

ここから更にネタバレになるので、未見の方はご留意願います。

いちばんの不満点はこれ

どうしても許せなかったのは、おばあちゃんの死や恵の出産立ち合いで、自分の母親に対する見方を改めた彩花が、母に謝意を伝えて、学校に行こうと思う、と宣言するところだ。

ここは、本作の中で最も肝要なシーンのはず。だが、それをあろうことか、LINEのやりとりですませてしまうのだ。

何と味気ないことだろう。ラストシーンの、彩花の初登校の朝に母親が送ってくるメッセージも同様だ。

たしかに、SNSは日常生活に欠かせないツールではあるが、映画の感動をそのやりとりで実現するためには、相当の努力が必要だと思う(スタンプや文面の作り込み等)。

本作では、渡辺真起子二階堂智の両ベテランが泣きの演技でそれらしくみせて取り繕ってはいたが、観客をLINEで泣かせようとしてほしくない。せめて、母親と娘の電話の会話くらいは聞きたかったのに。