『カリスマ』考察とネタバレ|世界の法則を回復するために、枯れスマに花を咲かせましょう

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『カリスマ』 

お馴染み黒沢清監督と役所広司のコンビによるホラー。枯れ木花を咲かせ世界の法則を回復させるのだ。

公開:1999年  時間:1時間44分  
製作国:日本
  

スタッフ
監督:     黒沢清

キャスト
薮池五郎: 役所広司
桐山直人: 池内博之
中曽根敏: 大杉漣
神保美津子:風吹ジュン
神保千鶴: 洞口依子
猫島:   松重豊

勝手に評点:3.0 
(一見の価値はあり)

ポイント

  • カリスマと呼ばれる周囲を枯死させる特殊な樹木。人質と犯人両方を死なせた刑事の自責の念が、犯人の要求した<世界の法則を回復すること>に自分を駆り立てる。
  • 正直カリスマの樹木はハリボテに見えるが、黒沢ワールドの不穏な雰囲気は出ていて、こういうのも悪くない。

あらすじ

人質籠城事件で犯人と人質を死なせてしまった刑事・薮池五郎(役所広司)が心に傷を負う。

休暇を言い渡された薮池は、山深い森をさまよい、不思議な一本の木を見つける。その木は根から毒素を分泌し、周囲の木々を枯らしてしまうのである。

「カリスマ」と呼ばれるこの木を守ろうとする青年・桐山(池内博之)とともに、薮池はカリスマ伐採を主張する中曽根(大杉漣)達と対立していく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

黒沢と役所のタッグ

もう20年も前の映画だが、黒沢清監督が役所広司と組んで『CURE』『ニンゲン合格』に続く3作目となった作品。『CURE』が東京国際映画祭で高く評価され、その後、二人がタッグを組む作品も多く生まれる。

ホラー映画という意味でも、本作以降、『回路』『ドッペルゲンガー』『LOFT』『叫』などとつながっていき、その点では黒沢映画のひとつのスタイルといえるように思う。

監督の最近の作品でいうと、『旅のおわり世界のはじまり』のように不気味ではあるけれど、ある程度穏やかな心持で観られる作品も中にはある。

だが、本作をはじめ、役所広司主演で撮るホラー系作品は、終始不気味な雰囲気に満ちていて、息苦しくなるのが基本型(いい意味で)。

暗い部屋の奥から、中央の廊下の長椅子に疲れた顔で座る薮池をとらえる冒頭シーンから、両脇が大きく暗闇という閉塞感のある映像。籠城事件で犯人から受け取る紙に書かれたメッセージは、「世界の法則を回復せよ」

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世界の法則は回復できるのか

二人を死なせてしまった末に薮池が放浪する先は、富士の樹海のような森林。開始から10分も経過しないうちに、難解さと不穏さが伝わってくる。

森の夜のシーンの画面があまりに暗くて動きが見えないこともあり、なぜ、突如刑事が山に行ったのか、クルマが燃えたのか、山狩りしている連中は何なのか、と疑問ばかり矢継ぎ早に浮かぶ。

だが、それもやがて気にならなくなる。疑問は湧き続けるが、解答が得られるものもあれば、最後まで謎のままのものもあり、そもそも黒沢監督が全てに答えを用意しているはずがないと気づくからだ。

映画は難解だが、それだけ自分で考えを巡らす余地があるともいえる。

レビュー(ネタバレあり)

夢じゃないよね

さて、<カリスマ>というのが、森全体が枯れそうになっている中で一本頑張って生えている樹のことだというのがまず意外だったが、これが燃やされてしまって、第二のカリスマが登場してくるあたりから、ストーリーは混乱していく。

これら全てに説明がつく万能薬として考えられるものに、夢落ちがある。

実際、薮池は正体不明のキノコをうまそうに食べており、トリップしていたようにも見えるので、夢というか麻薬による幻覚だった、という解釈もあり得る。でも、それだとちょっと面白くない。

カリスマ (1999) 予告編

薮池刑事は、冒頭で人質と犯人両方を救おうとして、どちらも失ってしまう。

その自責の念が、犯人の要求した<世界の法則を回復すること>に自分を駆り立てたか、或いは死に場所をみつけに行ったか、とにかく彼は森に行く。そして、夜闇のなかで桐山に奪われた拳銃を、魂と引き換えに取り戻す。

桐山が護っているカリスマという樹は、周囲の樹々に毒素をまき散らしながら、自分だけが成長していく品種。だから森の生態系を守るために、カリスマは伐採しなければと、植物学の教授・神保美津子(風吹ジュン)は主張する。

だが、強いものが勝って何が悪い。森全体を残して何の意味がある、と桐山は反論する。それが、<森の法則>であるはずだと。

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新しいカリスマ

特別な一本の樹、平凡な森全体の樹々、どちらを救うべきか。

好きにさせればいいのだ。たとえ全滅するとしても、<あるがままに>させる。生態系を犠牲にしても、弱肉強食が森の法則。そして、法則を回復させるには、軍隊を用いて、カリスマを守ってやればいいのだ。

拳銃を持つ薮池も、軍隊のはしくれといえるかもしれない。だから彼は、伐採しようとする中曽根や神保からカリスマを守ろうとする。

カリスマが神保姉妹に燃やされてしまい、桐山は憔悴するが、薮池は二代目のカリスマをみつけ、その樹を保護し始める。

「それはカリスマとは品種が違う、ただの枯木だ」

そう言っていた周囲の連中は、いつしか薮池の言葉を信じ、伐採しようとしたり、カネを払って手に入れようとし始める。つまり、薮池自身が文字通りカリスマになってきたのだ

ニセモノだったはずの枯木からは芽が息吹き、周囲の樹々は枯れ始める。彼は森の法則を取り戻したのだ

次は、いよいよ世界の法則を回復させなければいけない。当然、周囲に毒素をまき散らすカリスマを森から外界に向けて放つのだろう。森の背景に突如現れた巨大なパラボラアンテナは、その暗喩なのだ。

これからが始まりだ

途中から現れた正体不明の軍隊のような傭兵集団。これが何者かは明かされないが、私は、猫島(松重豊)を通じて、大金をはたいてもカリスマを手に入れたい連中の傭兵ではないかと見た。

この集団は伐採派を襲撃し、桐山の差し出す大金にも興味を示さず、人々が脱出できずにもがいている森から、外界を攻めに出て行く。

薮池という新たなカリスマを得て、ミッションも変わったからなのか、傭兵たちは一斉に制帽を投げ捨てる。

「これからが始まりだ」という薮池は、世界の法則を回復するために、周囲に毒素をまき散らそうとしている。

以上、正解などないのだろうが、ラストシーンの、戦闘用ヘリの向かう火の手が各所であがっている夜の街並みをみながら、自分なりに解釈してみた。

この後に黒沢作品で目にする役所広司は、きっと世界の法則を回復させている途上なのだと、思ってしまいそうだ。