『刑事ジョン・ブック 目撃者』
Witness
殺人を目撃した少年を守るために、ハリソン・フォード演じる刑事がアーミッシュの村に身を隠す
公開:1985年 時間:113分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ピーター・ウィアー
キャスト
ジョン・ブック: ハリソン・フォード
レイチェル・ラップ: ケリー・マクギリス
サミュエル・ラップ: ルーカス・ハース
イーライ・ラップ: ヤン・ルーベス
シェイファー本部長: ジョセフ・ソマー
マクフィー警部補: ダニー・グローヴァー
カーター刑事: ブレント・ジェニングス
ダニエル・ホッフライトナー:
アレクサンドル・ゴドゥノフ
モセス・ホッフライトナー:
ヴィゴ・モーテンセン
勝手に評点:
(オススメ!)

コンテンツ
あらすじ
アメリカ・ペンシルバニアの片田舎で、文明社会から距離を置き、17世紀の生活様式を守って暮らすアーミッシュ。その村出身の子供サミュエルがフィラデルフィア駅のトイレで殺人事件を目撃する。
捜査を担当する刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)が、サミュエルと母親のレイチェル(ケリー・マクギリス)を署に連れて聴取を行うことになり、間もなく少年が事件現場で目撃した一人の男が明らかになるが、それは驚くべき人物だった…。
今更レビュー(ネタバレあり)
ハリソン・フォードに人間味キャラ
ピーター・ウィアー監督がオーストラリアからハリウッド進出を果たした一発目。この作品のヒットで、日本でも監督の初期のカルト作『ピクニックatハンギング・ロック』を観る機会に恵まれたのを覚えている。
ハリソン・フォードはハン・ソロ役での大ブレイクからインディアナ・ジョーンズとの人気シリーズ二刀流で、アクションヒーローとして不動の地位を築いたが、本作で久しぶりに人間味のある等身大のキャラクターを演じる。そこがとてもいい。

邦題には「刑事ジョン・ブック」なる枕詞がつくが、原題からも分かるように、メインは「目撃者」。つまり、刑事は出てきても、難事件解決のヒーローものではないのだ。
ハリソン・フォードの主演作は何本も観てきたが、この作品は『ブレードランナー』と甲乙つけがたい愛すべき一本。
思えば、どちらも捜査官という仕事に生きる孤独な影のある男で、レイチェルという女性と禁断の恋におちるところまで似ている。
◇
閑話休題。この映画で描かれるのは、アーミッシュと呼ばれる、近代文明から距離を置いて生活しているドイツ系移民の人々だ。
その集落で暮らしている母子、レイチェル(ケリー・マクギリス)と幼い息子サミュエル(ルーカス・ハース)が、ペンシルバニア州の村からボルチモアに向かう途中、フィラデルフィアの駅で殺人事件に遭遇する。
この導入部分の展開が素晴らしく、一瞬たりとも目が離せない。
指をさすサミュエル少年
以下、ネタバレになるので、未見の方はぜひ先にご観賞いただきたいが、読んだところで、興奮度合いはまったく変わらないほど優れた出来だと思う。
フィラデルフィアの駅のトイレでサミュエル少年が個室に入ると、洗面所で男性が二人組に殺される。目撃者となった少年は見つかりそうになるが、身体が小さいことで難を逃れる(米国はトイレ個室の仕切り板が床までないからね)。
◇
殺されたのは刑事。捜査に乗り出したジョン・ブック(ハリソン・フォード)は、犯人は黒人だったと語るサミュエルに、次々と容疑者リストの顔を確認させる。
だが、最後に少年が犯人の顔として指さしたのは、麻薬捜査課のマクフィー警部補(ダニー・グローヴァー)の顔が載った新聞記事。
それに気づいたジョンはただ頷き、少年の指を隠す。二人とも無言のままの小さなやりとりだが、事の重大さが伝わる。ここまでの演出に痺れっぱなし。

個人的な話になるが、20年以上前に一時ペンシルバニア州で暮らしていたので、殺人事件の舞台となったフィラデルフィア駅の風格のある建造物にもよく行ったし、時にはアーミッシュの人たちを見かけることもあった。
だからといって、贔屓目に評価しているのではなく、この映画のサスペンスタッチな前半の作りは見事だと思う。
アーミッシュとの共同生活
ジョンは少年の目撃証言を上司のシェイファー本部長(ジョセフ・ソマー)に伝え、極秘に捜査を進めるよう言われるが、すぐにマクフィーに命をねらわれる。上司とグルだったわけだ。
そうなると、身柄を姉の家に預けているサミュエルが危ない。すぐに母子を連れて、アーミッシュの村へと向かう。
ここから映画は突然に雰囲気を変える。刑事ドラマを観ていたら、途中で『北の国から』になってしまったような違和感。
人を傷つけることなど御法度の平和な村の中で、撃たれた傷が癒えるまでジョンは、黒いスーツとハットをかぶり、拳銃と弾丸をキッチン戸棚に預け、農作業の手伝いに明け暮れる。
はじめは息子を危険な目に遭わせたジョンを責めていたレイチェルも、村の生活に溶け込もうと努力し、息子の安全を第一に考えてくれるジョンに、次第に心を開いていく。
ケリー・マクギリスと聞くと、どうしても『トップガン』のド派手なブロンドのお姉さんを思い出してしまうが、それ以前にこんなにストイックなアーミッシュ女性を演じていたのだ。同一人物に見えん。
はじめはジョンのことを「信用ならないイングリッシュ(英国人ではなく、アーミッシュは米国人をそう呼んでいるそうだ)」と見ていた村人たちは、一緒に納屋の建築仕事を手伝ううちに、ジョンを信用するようになる。
ヒーローの刑事はいない
一方、シェイファー本部長とマクフィー警部補は、ジョンの相棒刑事カーター(ブレント・ジェニングス)まで殉職させ、ついにはジョンと少年の居場所を突き止める。
このようにしてジョンを始末するために追い詰めてきた警察の悪党たちを、ジョンが待ち構えて返り討ちにするのであれば、この映画は平凡な刑事ドラマで終わっていただろう。
◇
だが、実際はそうならない。ジョンはあの手この手で反撃を仕掛けるのだが、最後にジョンを助けるのは、彼を仲間だと認めたアーミッシュの集団なのである。
ラスボスのシェイファーはジョンを射殺しようとするが、大勢のアーミッシュに囲まれて観念する。こんな勝ち方は刑事ドラマではあり得ない。だからこの映画の原題には「刑事ジョン・ブック」が付かないのだろう。
アーミッシュの二枚目男ダニエル(アレクサンドル・ゴドゥノフ)は、レイチェルを巡ってジョンの恋敵になりそうだったが、結局そうなる前に二人は別れてしまったようだ。
納屋の建築を手伝うダニエルの身内の若者役に、本作が映画デビューとなるヴィゴ・モーテンセン。久々に観直して、今回初めて知った。
◇
刑事仕事は剛腕だが、恋愛には奥手のジョン。覚悟を決めたら、あとは思い切りのよいレイチェル。周囲に祝福されない禁断の恋が実らない点もまた、『ブレードランナー』と重なる点かもしれない。
両想いでも、住む世界が違う二人。寂しさの漂うエンディングがこの作品には似合う。
