『女ざかり』今更レビュー|サユリストには不向きの大林監督作品

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『女ざかり』

大林宣彦監督が丸谷才一のベストセラーを吉永小百合主演で映画化。

公開:1994年 時間:118分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        大林宣彦
原作:        丸谷才一

            『女ざかり』
キャスト
南弓子:      吉永小百合
浦野重三:     三國連太郎
豊崎洋吉:      津川雅彦
渋川健郎:      風間杜夫
南千枝:       藤谷美紀
政治家・榊原善六:  岸部一徳
浅岡平五郎:     高島忠夫
新聞社重役長谷川:  前田武彦
田丸総理大臣:     山﨑努
田丸夫人:      松坂慶子
柳雅子:       月丘夢路

勝手に評点:2.0
 (悪くはないけど)

あらすじ

南弓子(吉永小百合)は大学院生の娘・千枝(藤谷美紀)と二人暮らし、家庭部の記者として新聞社に長年勤めてきて、ついに論説委員になった。

早速任された社説だったが、その内容が思わぬ波紋を広げてしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

最新作『てっぺんの向こうにあなたがいる』(阪本順治監督)が124品目の出演作になるという大女優・吉永小百合

彼女の演じる役柄は、大抵が優等生的で気丈で清純派な美しい女性なのだが、数少ない例外にあたる一本が、大林宣彦監督による本作なのだろう。

だから、公開当時はハレーションも大きかったに違いない。固定観念で映画を観るのもどうかと思うが、私はやはり、この作品の主演に彼女をあてたのは、ミスキャストだったと思う。

丸谷才一による同名原作はその人気から映画化権の奪い合いになったそうだが、松竹がそれを勝ち取り、秀作だった『異人たちとの夏』の縁もあったのか、大林宣彦監督に白羽の矢が立つ。

吉永小百合を主演にと閃いたのは、大林監督本人だったようだ。監督は実験的な映像遊びに走らない真面目な作品を、たまに思い出したように撮るが、本作もその一つ。

吉永小百合が演じる、新聞社勤めの主人公・南弓子は、所属の家庭部記者から念願の論説委員に抜擢され、張り切って新しい部署に向かう。

そこは社説の書き手であるベテランの記者出身者の巣窟。論説委員には、根上淳、高松英郎、峰岸徹、本田博太郎、内藤陳、奥村公延、安田伸等々、豪華な布陣で一癖も二癖もある論客揃いの部署は独特の雰囲気。

問題社員揃いの『ショムニ』ではなく、『失楽園』(森田芳光監督)で役所広司が閑職に追いやられた、出版社の調査室に近いか。

役所広司はそんな枯れた男たちの集団の中にいて、若い女(黒木瞳)との愛欲に走るわけだが、吉永小百合演じる女ざかりの弓子は、そんな環境でどう生きていくのか。

彼女と同時に転入してきた社会部出身の同僚・浦野(三國連太郎)の執筆を手助けする一方で、弓子は初めての社説を書く。

だが、水子供養で儲ける宗教団体を怒らせてしまったようで、その教祖と仲の良い与党の幹事長(岸部一徳)からは、弓子の左遷や、新社屋のための国有地払い下げ許可に待ったがかかる。

こうして物語は広がっていく。

大学院生の娘(藤谷美紀)はいるが、別れた夫は再婚し、喉頭がんで余命わずか。

弓子は最初の社説で、単身赴任用マンションと中年の恋を絡めた文章を書くが、この時点では、真面目で仕事一本の女記者に見える(化粧も控えめで、素顔っぽい見せ方も新鮮)。

だが、『失楽園』役所同様、弓子にも長年の不倫相手がいるのだ。相手は大学教授の豊崎洋吉(津川雅彦)。上京し、ホテルでバスローブ姿の豊崎にしだれかかる弓子。

女ざかりって、こういうことなのか。吉永小百合パブリックイメージとの乖離が凄まじく、絶望的に似合わない。

津川雅彦が不倫に走る中年男に似合い過ぎるだけに、一層、彼女に違和感が目立つ。なお、とってつけたような吉永小百合の入浴シーンは、大林監督の発案で強引に入れられたものだという。

カメラでは背中しか見えないが、バスローブをはずして豊崎が弓子に全身を見せるシーンも素っ裸だったというから、今では考えられないロケ現場だったと知り、さらに嫌悪感が増す。

何で吉永小百合はこういう役を引き受けたのだろう。自分の殻を破りたかったのだろうか。

この作品の主演が、もう少し不倫役も似合う女優だったら、なかなか面白い作品だったように思う。シャイで不器用な三國連太郎というのが、実に良かったからだ。

彼が演じる同僚の浦野は、弓子に好意を抱き、不器用にアプローチする。この二人が最後にうまくいくものと思っていたが、案外あっさりとフラれてしまう。

一人娘の千枝には解剖医の恋人・渋川(風間杜夫)がおり、その叔父で著名な書家(片岡鶴太郎)の伝手を頼って、政界に口利きしてもらおうと画策するが、うまくいかない。

『異人たちとの夏』風間・片岡コンビに、三國連太郎とおでん屋台で語り合う同僚の宍戸錠(ブラックジャック!)、ヤクザ組織の大物親分に高島忠夫、首相に山崎努(侍KIDS!)、その夫人に松坂慶子、それに新聞社上司の前田武彦等々。

大林組常連の岸部一徳なんかはよい味を出していたけれど、その他、カメオ出演の俳優たちが大物すぎて、この連中が次々に登場するのは楽しいというよりも、落ち着かない。これでは、ドラマに集中できないよ。

弓子の伯母(月丘夢路)が銀幕の大女優というリアルな設定で、実際に彼女が主演する昔のモノクロ映画が何度か登場する。

これはアイデアとしては面白かった。私はてっきり朝丘雪路と勘違いしていて、顔が一致せず不思議に思っていたけど。

「女ざかりは過ぎてから気づくものなのよ」

最後に弓子が娘にそう語るのだが、それをいうなら青春時代」では?とツッコんでしまった。

病床にある元夫に会いに仙台行きの列車に乗る吉永小百合は、どうみてもJR東日本「大人の休日倶楽部」っぽいわけだが、やはりそこに、不倫の匂いを漂わせてはいかんなあ。