『マイ・ブルーベリー・ナイツ』
My Blueberry Nights
ウォン・カーウァイ監督がグラミー賞歌手のノラ・ジョーンズ主演で米国えお舞台に撮った恋愛ドラマ。
公開:2007年 時間:95分
製作国:フランス
スタッフ
監督: ウォン・カーウァイ(王家衛)
キャスト
エリザベス: ノラ・ジョーンズ
ジェレミー: ジュード・ロウ
アーニー: デヴィッド・ストラザーン
スー・リン: レイチェル・ワイズ
レスリー: ナタリー・ポートマン
カティア: シャーン・マーシャル
トラヴィス: フランキー・フェイソン
サンディ: エイドリアン・レノックス
アロハ: マイケル・メイ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
ニューヨークのとあるカフェ。恋人の心変わりで失恋してしまったエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、この店のオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)が焼くブルーベリー・パイを食べて心癒されていた。
それでも、なかなか別れた恋人のことが忘れられない彼女は、ついにあてのない旅へ出ることに。
仕事をしながらメンフィス、ラスベガスとアメリカを横断していくエリザベス。彼女はその先々で、それぞれに愛を求め愛に傷つく人々と出会い、彼らと束の間の時間を共有していく中で自分自身を見つめ直していくのだが…。
今更レビュー(ネタバレあり)
売れ残るブルーベリー・パイ
今のところ、ウォン・カーウァイ監督の撮った唯一の英語劇。ハリウッド進出なのだと思っていたが、香港とフランスの合作だった。
メインとなる舞台はマンハッタン。失恋した主人公エリザベス(ノラ・ジョーンズ)が、元カレが女といたはずのカフェのオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)に癒されるうちに、親しくなっていく物語。
「なぜか、こいつだけはいつも売れ残るんだ」とジェレミーが薦めるブルーベリー・パイをもらい、「悪くないわよ」と返すエリザベス。
店には、客が置き忘れていった鍵がいくつも保管され、その一つ一つの思い出をジェレミーは彼女に語る。

本作が主演デビューのノラ・ジョーンズが、行動力があって激情型のエリザベスを自然体で演じている。全体の雰囲気を盛り上げる音楽も彼女自身が手掛けているので、当然ながら相性はバッチリ。
ウォン・カーウァイはこの音楽で映画を撮りたかったから、ノラ・ジョーンズを主演にし、わざわざ米国に出向いたのだ。

香港の若者たちの生き様を撮って我々を魅了してきたウォン・カーウァイが、米国で映画を撮ることには一つ大きな不安材料があった。
盟友ともいえる撮影監督のクリストファー・ドイルが、この映画には参加していないのだ。
ウォン・カーウァイ監督作の特徴といえる、香港の夜を大胆に切り取った色鮮やかな映像美は、クリストファー・ドイルの仕事の賜物に違いないと思っていた。
だが、意外なことに、本作のマンハッタンの夜景、地下鉄の灯の動きなどにも、これまでと同じように、ハッとするような映像がインサートされる。
撮影は、デヴィッド・フィンチャー作品にも重用されるダリウス・コンジ。これも負けていない。
ジュード・ロウの色気
公開以来17~8年ぶりに観て、この夜景の切り取り方の美しさしか覚えていなかったのだが、ジェレミー役のジュード・ロウが、カッコいい。
何をするでもない、ただのカフェのオーナーなのだが、平凡な存在がかえって彼の魅力を引き出しているように感じる。
この男女がすぐに恋仲になったらあまりに短絡的だが、エリザベスはある日突然、何も言わずにバス旅でメンフィスに向かう。
◇
お金を貯めてクルマを買おう。不眠症のエリザベスは、昼はダイナー、夜はバーで働き、せっせとチップを稼ぐ毎日。
バー常連のアル中の男がアーニー(デヴィッド・ストラザーン)、メンフィスで警官をやっている。別居中の妻スー・リン(レイチェル・ワイズ)を愛しているが、彼女は彼に愛想を尽かし、他の男と付き合っている。
『ボーン・レガシー』でも共演のデヴィッド・ストラザーンとレイチェル・ワイズ、さすがにエリザベスより役者としては一枚上手で、メンフィスのパートでは、この二人の夫婦喧嘩に引き込まれる。

アーニーはバーで妻にまで銃を向けるが、結局飲酒運転で事故死。その後、スー・リンは長年の禁酒を解き、亡き夫に盃を向ける。
警官制服姿のアーニーが、一瞬『恋する惑星』のトニー・レオンを彷彿とさせるが、エリザベスと恋愛感情を持つわけではない。
エリザベスはまめに日々の出来事を手紙にして、ジェレミーに送っている。ジェレミーは彼女を探すが、メンフィスに電話をかけまくっても見つからない。

負けてもジャガーの好条件
エリザベスは新たな街で賭け事好きのレスリー(ナタリー・ポートマン)と出会う。
勝負に負けて掛け金を失ったレスリーは、エリザベスがクルマの購入資金を貯めていると聞き、「賭け金2000ドルを貸してくれたら、儲けを配分する。もし負けても、私のジャガーの新車をあげるわ」と持ち掛ける。
どう考えても、負けた方が得な気がしたが、結果的にエリザベスはジャガーを譲り受け、そこにレスリーを乗せラスベガスに行くことになる。

レスリーの父親の死をめぐって、二人は人を信じるべきかどうかで対立する。「ジャガーは死んだ父のクルマだから、やはり譲れない」と言い出すレスリー。
だが、実は賭け事には勝っていたのだと白状し、貰った取り分でエリザベスは念願の中古車を手に入れる。本人は喜んでいるが、損得勘定的にはジャガーだろうに。
◇
愛車を駆って、エリザベスはNYに戻り、300日ぶりにジェレミーの店を訪ねて再会する。カウンターにはエリザベスの定位置が予約席として確保されている。さすが色男は気が利くぜ。

長旅で疲れたのか、飲んでブルーベリー・パイ食べてカウンターで眠りこけるエリザベスの口の周りについたクリームにジェレミーがキスをする。
◇
こんな感じのいい雰囲気で映画は幕を閉じる。小粋な恋愛ドラマではある。でも、やっぱウォン・カーウァイの青春映画は香港と密接不可分なのだ。北米大陸ではダメなのよ。
音楽だって、「夢のカリフォルニア」よりもノラ・ジョーンズの曲のがお洒落だろうし、この映画のキャストだって香港俳優勢に負けていないのだけれど、何か一味足らない。
これは理屈ではなく、ノスタルジーと笑わば笑えと開き直ってしまうが、ジュード・ロウの洗練も、金城武の野暮ったい「君を1万年愛す」には及ばないのだ。