『この夏の星を見る』考察とネタバレ|くたばれ、ステイホーム!

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『この夏の星を見る』

茨城・長崎・東京。コロナが奪ったかけがえのない時間を、スターキャッチコンテストで取り戻すんだ!

公開:2025年 時間:126分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         山元環
脚本:      森野マッシュ
原作:        辻村深月
     『この夏の星を見る』
キャスト
<茨城県立砂浦高校>
溪本亜紗:     桜田ひより
飯塚凛久:     水沢林太郎
山崎晴菜:       河村花
広瀬彩佳:      増井湖々
深野木乃美:     安達木乃
飯塚花楓:       工藤遥
綿引先生:     岡部たかし
<長崎県立泉水高校>
佐々野円華:     中野有紗
武藤柊:        和田庵
小山友悟:       蒼井旬
福田小春:       早瀬憩
輿凌士:        萩原護
才津館長:      近藤芳正
<東京・ひばり森中学校>
安藤真宙:      黒川想矢
中井天音:     星乃あんな
森村先生:      上川周作
<東京・御崎台高校>
柳数生:       秋谷郁甫
市野先生:      朝倉あき

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

あらすじ

2020年。新型コロナウイルスの感染拡大により登校や部活動が制限されるなか、茨城県立砂浦高校の天文部に所属する2年生・溪本亜紗(桜田ひより)の提案で、リモート会議を活用し、各地で同時に天体観測をする競技「オンラインスターキャッチコンテスト」が実施されることになる。

長崎の五島列島や東京都心の生徒たちも参加してスタートしたこの活動はやがて全国へと拡がり、ある奇跡を起こす。

レビュー(まずはネタバレなし)

公開から数週間経っているというのに、意外なほど劇場の席が埋まっていた。作品の人気のせいもあるが、スクリーン数が少ないことも一因だろう。

『鬼滅』に劇場が席巻されるのはビジネスだから仕方ないとはいえ、こういう優れた作品にも、ぜひ上もっと上映回数を与えてほしいと願う。

辻村深月原作の映画は読んでから観るパターンが多いのだが、今回は原作未読。監督の山元環は本作が長編としては初監督作。原作に寄り添った映画になっているか不安がない訳ではなかったが、そんなものは開始早々に解消された。

暗い夜空にうかぶ星々を誇張することなく映し出す作風にも好感が持てたし、ドラマ展開のテンポも初々しさの残る生徒たちの芝居もいい。読む前だというのに、真摯に辻村深月原作に向き合っている制作姿勢が感じ取れる。

辻村原作映画のイチオシはこれまで『ハケンアニメ』だったけど、本作もそれに比肩する出来ばえだ。東映辻村深月は相性がいいのかも。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

舞台は茨城・長崎・東京と分かれるが、メインとなるのは茨城の県立砂浦高校。

子どもの頃から女性宇宙飛行士・花井うみか(堀田茜)に憧れていた溪本亜紗(桜田ひより)と、ナスミス式望遠鏡制作に執念を燃やす飯塚凛久(水沢林太郎)がともに天文部に入部。

顧問の綿引先生(岡部たかし)が出題する星を望遠鏡でとらえる速さを競う<スターキャッチコンテスト>を毎年楽しみにしてきたが、亜紗たちが高2となった2020年、世界中がコロナの影響を受ける。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

学校生活への制約は日に日にエスカレートし、夏合宿もとりやめ。部長(河村花)にとっても高校最後の夏であり、くすぶる思いをぶつける何かができないか。亜紗は茨城以外の学校の参加者を募り、オンラインのスターキャッチコンテストを発案する。

都内のひばり森中学校では、理科部の中井天音(星乃あんな)に強引に勧誘されている、孤独なサッカー少年の安藤真宙(黒川想矢)が、ひょんなことから二人で大会に参加することに。

長崎・五島列島では実家の旅館が県外の客を受け容れているため、町の人々にコロナ差別を受けている佐々野円華(中野有紗)が、スポーツの特待生として島にきている同級生(和田庵、蒼井旬)らと一緒に参加する。

こうして、茨城・長崎・東京の中高生有志が、みんなで<この夏の星を見る>ことで盛りあがる。

望遠鏡で星をキャッチするイベントが映画として盛り上がるのか疑問だったが、望遠鏡を材料から手作業でこしらえ、夜空に見える星の名前や位置を頭に叩き込み、星の名前が出題されると一斉に望遠鏡を回転させる様子は、『ちはやふる』のかるたとりのような興奮を呼ぶ。

土星や木星といった標的をきちんと小さな画像で見せてくれるのも、リアルで楽しい。このあたりは映像で見せられる分、原作より有利なのではないか。ほんのわずかの動きで大きくブレる天体望遠鏡で目標物をとらえる難しさも、相応に伝わってくる。

等級の低い(明るくないため見つけにくい)星ほど高得点だというから、東京の参加者は明らかに不利だろうが、実のところどこの学校が優勝するかには、あまり重きが置かれていない。みんなが夢中になる時間を共有することに意味があるのだ。

普通にスターキャッチコンテストだけでも、中高生の青春ものとして楽しめる内容になったとは思うが、コロナ禍という時代背景を持ってきたところがこのドラマのよく出来ているところだ。

コロナで発症する人がでてくるわけではない。だが、不要不急の外出は避けるように言われ、誰かとの濃厚接触などはもってのほかで、一斉臨時休校が終わったあとも課外活動は禁止される。

この一年をおとなしく過ごせば、この騒動も終息しているのかもしれない。大人は来年を待つことができるだろう。でも、中学・高校のかけがえのない時間を犠牲にせざるを得ない彼ら彼女らには、この一年が無駄ではなかったと思える、何かが欲しい。

主人公たちと同じように、このコロナの時代に不自由な高校生活を過ごした娘を持つ親の目線として、この世代の切実な思いに共感できた。

恋愛も淡くからめてはいるが、それらは添え物で、不完全燃焼の悔しさをきちんと描ききっているところがよい。

日本でコロナ禍を描いた作品としては、真正面から向き合った『フロントライン』が力作だと思うが、医療従事者や入院患者が登場しない本作もまた、別な切り口からコロナ禍の時代の本質をとらえることに成功している。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

唯一残念だったのは、出演者たちがみな、この時代の象徴であるマスクをきちんと着用していること。というのも、生徒たちの顔があまり見えないのだ。

演出上仕方ないとはいえ、これは勿体なかった。全編マスクなしで演じていたら、更に感情が伝わってきたに違いない。

主演の桜田ひよりも、チャームポイントである口元が途中から隠れてしまうのが惜しい。マスク姿で元気な声と派手な動きをする彼女は、若い頃の吉高由里子に見えてしまって。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意ください。

オンラインスターキャッチコンテストは、もっと準備に時間をかけてクライマックスに持ってくるのかと思ったが、割と早い段階に開催されてしまう。

そうなると後半に何が登場するのか。これが冒頭に登場する女性宇宙飛行士の乗船している国際宇宙ステーション(ISS)なのである。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

コンテストで知り合いになった仲間たちに、今度はISSをキャッチしようと提案する亜紗。星図で星の位置を覚えられたコンテストと違い、今回は限られた時間に流れ星のように天空を横切る<動く標的>だ。

キャッチする難易度は各段に高まる。これに多くの学校が賛同し、みんながオンラインでつながる様子は感動を呼ぶ。

東京のひばり森中学校から参加のメガネ女子の天音とサッカー小僧の真宙もちょっといい雰囲気になり、長崎・五島列島の円華は男子二人から唐突に告られる。

(C)2025「この夏の星を見る」製作委員会

一方、茨城県立砂浦高校では、凛久が親の離婚で転校することになる(これもコロナ起因だ)。

ともに高い志を持って天文部に入った亜紗とは意識しあっていたと思うが、「俺、転校したくねえよ」とクールに見えた凛久が感極まって一瞬だけ取り乱す。この匙加減がいい。

二人がベタベタの相思相愛にならないからこそ、この映画はユニークな青春映画になり得ている。