『ボーン・スプレマシー』一気通貫レビュー②|知りたくなかった過去

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『ボーン・スプレマシー』
 The Bourne Supremacy

ジェイソン・ボーンのシリーズ第二弾。

公開:2004年 時間:108分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:     ポール・グリーングラス
脚本:        トニー・ギルロイ
       ブライアン・ヘルゲランド
原作:       ロバート・ラドラム
          『殺戮のオデッセイ』


キャスト
ジェイソン・ボーン: マット・デイモン
マリー・クルーツ: フランカ・ポテンテ
パメラ・ランディ:  ジョアン・アレン
キリル:       カール・アーバン
コンクリン:     クリス・クーパー
アボット:    ブライアン・コックス
ニッキー:    ジュリア・スタイルズ
マーシャル次官:   トーマス・アラナ
ダニー・ゾーン    ガブリエル・マン
グレトコフ:     カレル・ローデン
ジャーダ:   マートン・チョーカシュ

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

あらすじ

元CIA諜報員のジェイソン・ボーン(マット・デイモン)はいまだに記憶を取り戻せないまま、恋人マリー(フランカ・ポテンテ)とインドでひっそりと暮らしていた。

ところが、突然現れた殺し屋キリル(カール・アーバン)に命を狙われ、マリーが犠牲となってしまう。ボーンは自分を始末しようとするCIAの仕業だと考え、復讐に立ちあがる。

一方、ベルリンでCIA内部の不正に関する調査を行なっていた諜報員が何者かに暗殺される事件が発生。犯行現場にはボーンの指紋が残されていたことから、CIA捜査官のパメラ・ランディ(ジョアン・アレン)は彼を容疑者として追い始める。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ヒット作『ボーン・アイデンティティー』から2年後の設定の続編。監督はポール・グリーングラスにバトンタッチ。ロバート・ラドラムの小説は原作とはなっているが、前作よりも更にかけ離れてしまったようで、もう映画は独自世界となっている。

二匹目のドジョウで、監督も変更となったことで、記憶をなくした凄腕の殺し屋、派手さだけが取り柄のエンタメ系スパイ・アクションとの差別化といった前作の持ち味が失われることが危惧されたが、その辺は見事に踏襲されている。これは嬉しい。

前作の最後でめでたく再会を果たしたジェイソン・ボーン(マット・デイモン)と恋人マリー(フランカ・ポテンテ)

ボーンは今も思い出せない過去からくる悪夢にうなされる日々だが、二人は幸福そうにインドで人知れず暮らしている。だが、そんな平穏な生活が続いたら、映画にならない。

ベルリンでは、CIA捜査官パメラ・ランディ(ジョアン・アレン)配下のエージェントが、CIAから2千万ドルが盗まれた事案に関する「ネスキー・ファイル」を入手するため、ロシア人の情報屋と取引しようとする。

しかし、ロシアの石油王グレトコフ(カレル・ローデン)の手先キリル(カール・アーバン)がCIAと情報屋を殺害してファイルと金を盗み、現場にボーンの指紋を残して彼に罪を着せる。

そうとは知らずランディはボーンの参画していたトレッドストーン作戦について調べるため、長官のアボット(ブライアン・コックス)を問い詰める。

部下を殺されたランディがメンツをかけてボーンを追うのは無理もないが、こうしてボーンは無実の罪で、再びトラブルに巻き込まれることになる。

グレトコフにとっては、罪をなすりつけたボーンがそのまま死ぬのが都合がよく、キリルをインドに差し向ける。持ち前の勘の良さで、瞬時に刺客の存在に気づくボーン。

すぐにマリーとクルマで逃走するのだが、キリルはなかなか腕の立つ殺し屋で、彼の銃撃を受け二人を乗せたクルマは橋の上から海に沈む。そしてまさかの序盤でのマリーの溺死。恋人が目前で水死する『007 カジノ・ロワイヤル』を思わせる。

無言で悲嘆にくれながらも、マリーの写真やパスポートを燃やして痕跡を消し、キリルから逃亡するボーンに哀愁が漂う。マリーが序盤で退場となるのは寂しいが、ドラマ的には必然の流れだ。

なぜCIAが自分を追いかけるのか見当もつかないボーンが、あの手この手で敵の内情をつかみ、復讐のためにランディを遠くから狙撃しようとするところまでの展開が魅せる。

前作同様、飛行機からのスカイダイブも列車の上でのバトルも秘密兵器もない。あるのは優れた判断力に身の回り品の応用による攻撃、そして電光石火の早業で相手を仕留めるスピードと強靭な肉体か。これでボーンは敵に立ち向かっていく。

囚われの身から一瞬で形勢逆転する瞬発力や、トレッドストーン作戦の同僚ジャーダ(マートン・チョーカシュ)との室内バトルは、本シリーズならではの興奮。悪役の方がモッサリ系のボーンより洗練されててカッコいいのは、前作と同様。

そもそも、前作から主人公の設定にも戦いっぷりにも大きな変化がないのに、飽きさせない作品に仕上げているのは大したものだ。

今回の敵は、眼光鋭いCIA上官のランディ女史だと思っていたが、途中から様相が変わってくる。もともとトレッドストーン作戦に携わっていたアボット長官が、前作以上に腹黒い本性をあらわす。

思えば前作で部下のコンクリン(クリス・クーパー)を始末するよう指示したのもアボットだったな。ブライアン・コックス、この手の役をやらせたら天下一品。彼のおかげで、ランディが少し善人キャラに見えてくる。

トレッドストーン作戦の元サポート担当ニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)が、本作ではボーンを誘き出す役として登場。

また、前作でコンクリンの部下だったダニー(ガブリエル・マン)は今回、ボーンが濡れ衣を着せられていることに気づくが、それを告げた途端にアボットに刺し殺される。

その他、ランディに仕えるCIAのメンバーに、まだブレイク前のミシェル・モナハンがいるので驚く。その後、まさか『ミッション・インポッシブル3』同業者イーサンの婚約者になるとはなあ。

アボットはボーンに銃を突き付けられ観念するが、「お前を殺してもマリーは喜ばないから、生かしておいてやる」と放置される。

だが、結局2千万ドル横領の罪が発覚しそうなアボットは、ランディの眼前で自分の頭を吹き飛ばす。もはや、ボーンの過去を知るCIAのメンバーはニッキーくらいか。

マリーを殺しボーンを追い続ける殺し屋キリルが本作で最強の敵ということになりそうだが、モスクワでのボロいクルマでの迫力あふれるカーバトルの末に、ついにキリルは絶命する。マリーの復讐を果たすという感じではない。結果的に死んだのだ。

さて、ボーンは悩まされていた夢の真相を思い出す。彼はコンクリンの命令で、アボットの悪事が発覚しないように政治家ネスキーを殺し、居合わせたその妻に罪を着せて、自殺に見せかけて殺したのだった。

思い出すのが怖いと言っていた過去で、ボーンは善良な市民殺しに手を染めていたのだ。

彼は終盤にネスキーの娘イレーナ(オクサナ・アキンシナ)に会い謝罪するが、この十字架を背負い、1枚だけ残したマリーの写真とともに生きていく。