『僕らのごはんは明日で待ってる』
瀬尾まい子の同名原作を、市井昌秀監督が中島裕翔と新木優子の共演で映画化。
公開:2017年 時間:110分
製作国:日本
スタッフ
監督: 市井昌秀
原作: 瀬尾まいこ
『僕らのごはんは明日で待ってる』
キャスト
葉山亮太: 中島裕翔
上村小春: 新木優子
鈴原えみり: 美山加恋
塚原優介: 岡山天音
山崎真喜子: 片桐はいり
上村芽衣子: 松原智恵子
安藤美生: 松岡佑実
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
無口な草食男子の高校生・葉山亮太(中島裕翔)は、同じクラスの女子生徒で、明るくて思ったことを何でも言う上村小春(新木優子)と一緒に、体育祭の競技「米袋ジャンプ」に出場。これをきっかけに、二人は付き合うことになる。
小春は、鶏肉嫌いだがフライドチキンが大好きで、二人はたびたびファーストフードで食事をして恋を育んでいく。やがて別々の大学に進学し、ファミレスで他愛もない会話を楽しんでいたある日、小春が突然別れを切り出す。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
中島裕翔と新木優子
瀬尾まい子原作の映画化作品を遡っていったら、こんな作品に出会った。
前年の傑作『ピンクとグレー』に続く主演映画となるHey! Say! JUMPの中島裕翔とゼクシーのCMやドラマ『いつかティファニーで朝食を』などで人気上昇中の新木優子の共演。この二人は、その後に弁護士ドラマ『SUITS』でも共演か。
監督は星野源初主演の『箱入り息子の恋』を手掛けた市井昌秀。瀬尾まい子原作だけあって、いつものように、複雑な家庭事情にめげずに生きている高校生男女が主人公の、ちょっと泣かせるラブコメである。

近年の『#マンホール』なんかを観た後だと、中島裕翔がまだ初々しい純朴そうな若造なのに驚く。対する新木優子は、キリリと涼し気な目元と気の強そうなキャラはこの当時からしっかりと感じられ、さほどキャラの変化は感じない。
◇
体育祭の総合リレーで米袋ジャンプの出場選手に任命される葉山亮太(中島裕翔)。男女ペアの相手は体育委員の上村小春(新木優子)。
誰とも話さないネクラな亮太のペアに成り手はなく、小春が手を上げた。こんな可愛い娘と米袋に入って練習するだけで、亮太が羨ましい学園生活。
亮太は中学で兄を亡くして以来、塞ぎ込んで、死んだ人の出てくる小説を読んでばかり。だが真面目な彼は競技に打ち込み、レースのあとに小春に告白される。
優柔不断でも女々しくもないが兄の死から内向的な亮太と、正反対に太陽のように明るくて思ったことをずけずけと言う小春。ここまで切れ味鋭い主人公女子は、瀬尾まい子の小説の中でも珍しいかも。新木優子ぴったり。

別れる理由?総合評価ってことで
はじめは困惑し固辞した亮太だが、次第に彼女の明るさに惹かれて付き合い始める。
ポカリスエット愛から、ケンタのチキン愛、このあたりは原作と同じだが、ホントに商品名使うとは。ファミレスにガストを使ったのは、新木優子がCM出演していた縁だろうか。
『幸福な食卓』のカップルは、北乃きいを勝地涼がリードしていたけれど、本作は完全に女性主導。
小春と同じ大学を目指すと決めた亮太は、女子短大に進んだ彼女とは違う道を歩み大学で親友・塚原(岡山天音)と出会うが、無事に交際は続いていた。
だが、両親のいない小春の祖母(松原智恵子)に挨拶にいった亮太はやや冷たい反応に落胆し、そしてある日突然、小春はガストで彼に別れを切り出す。
「理由?そうだな、3年以上付き合ったし、総合評価ってことで。それに亮太、年下だし(同学年だけど)、同じ大学に入るって嘘ついたし」
まあ、なかなか強情な別れっぷりで、新木優子じゃなければ、炎上しそうなキャラだが、それは後半にどう展開していくのか。

出会いの米袋リレーから、キャンパスでイエス・キリスト呼ばわりされる亮太の善人キャラ、KFCチキンの自家製チャレンジに、一人で参加のタイツアー旅行など。
市井昌秀監督は原作を手際よくまとめ、しかも説明的にならずにメリハリが効いていた印象。
この映画、終盤までの話運びはなかなか良かった。原作にない演出も冴えていたし、だが、クライマックスで大きくつまずいてしまう。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意ください。
彼女が別れを切り出した理由
小春にフラれた亮太だが、すぐに後輩のえみり(美山加恋)という新しいカノジョができる。「3週間しか、たそがれなかった」「お前、落ち込む長さを誰かと競ってるのか?」と塚原。
献身的で亮太ラブのえみり。美山加恋って『ラーメン大好き小泉さん』で早見あかりを慕っていた女子高生の娘だ。
彼女はいい子なのだが、どうしても小春を忘れられない亮太は、きっぱりと別れを告げて、小春に再アタック。だが意外にも撃沈する。そこまで拒む理由は何か。
小春は祖母から、身内を亡くした亮太とは「陰を抱えた者同士で付き合っても幸福になれない」と言われた。両親に捨てられお祖母ちゃん子の彼女にとって、その言葉は絶対服従の憲法だ。
だが、ある日亮太は、小春が入院したことを知る。子宮筋腫で摘出手術をするのだという。
まだ交際していた頃、亮太と結婚し三人の子供を作るのを楽しみにしていた小春は、全摘手術することになる可能性を考え、傷つけないように何も言わずに彼を遠ざけたのだ。
病室で相部屋の女性(片桐はいり)と語るうち、亮太はようやくそれを悟る。
カーネル・サンダースの呪いかよ
最後まで気丈で何も言わない小春。遠く離れたビルから観光望遠鏡を覗く亮太は、病院の屋上でひとり号泣する小春をみつける。勿論、音声はない。そこがいい。
「(めったに泣かない)私が泣いてるときは、相当弱ってるんだから、助けにきてよね」

小春が昔語っていた言葉がよみがえり、亮太は走り出す。ここまではとても良かった。映画オリジナルの展開だ。
◇
だが、亮太の次の行動がそれを帳消しにする。何と彼は、KFCの店頭からカーネル・サンダースの像を拝借し、それを抱きかかえて病室まで走ってくるのだ。小春と握手させ、彼女を元気づけるために。
動機はともかく、映像的には完全にコントであり、ただの迷惑な若者の暴走行為だ。手術前の患者のいる病室に、不衛生なカーネルおじさん像を持ち込むのも非常識だし、ここで泣けといわれてもなあ。

こんな展開、原作にはなかったのでは。二人は結婚して、「子どものことなんかより、きみが大切だから手術を受けてくれ。二人でいいんだ」と慰められて小春が手術に臨むんじゃなかったかな。
二人で毎日を幸福に暮らそう。僕らのごはんは明日で待ってる。そういう文脈だったように記憶するが、カーネル・サンダースでつまずいてから、米袋ジャンプは立ち直れずに終わった。