『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』
Mary Queen of Scots
スコットランド女王メアリーとイングランド女王エリザベスⅠ世、王位継承戦前に山川の世界史を読もう。シアーシャ・ローナンは本物が降臨したようにしかみえない。マーゴット・ロビーはジョーカーのようだ。
公開:2019 年 時間:124分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ジョージー・ルーク 脚本: ジョン・ガイ 『Queen of Scots: The True Life of Mary Stuart』 キャスト メアリー・スチュアート: シアーシャ・ローナン エリザベスⅠ世: マーゴット・ロビー ヘンリー・スチュアート(ダーンリー卿) ジャック・ロウデン ロバート・ダドリー(レスター伯): ジョー・アルウィン ウィリアム・セシル(バーリー男爵): ガイ・ピアース ジェームズ・スチュアート(マリ伯): ジェームズ・マクアードル ジョン・ノックス: デヴィッド・テナント ジョン・メイトランド: イアン・ハート
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
スコットランドでイングランドの王位継承権を持ちながら、カトリックとして生まれたメアリー・スチュアート(シアーシャ・ローナン)は、16歳でフランス王妃に、18歳で未亡人となり、母国スコットランドで王位に戻る。
スコットランドではプロテスタント教徒たちが勢力を拡大していた。
摂政として国を統治していた異母兄マリ伯(ジェームズ・マクアードル)、プロテスタント長老派の指導者ジョン・ノックス(デヴィッド・テナント)、国務大臣メイトランド(イアン・ハート)らはカトリックの女王を快く思わず、何度も陰謀や内乱を画策した。
◇
一方、イングランドでは、エリザベスⅠ世(マーゴット・ロビー)が25歳で即位、宰相ウィリアム・セシル(ガイ・ピアース)や、エリザベスが心を寄せるレスター伯ロバート・ダドリー(ジョー・アルウィン)ら枢密院たちが彼女を支えていた。
エリザベスは日々、早く世継ぎを産むようプレッシャーをかけられていた。
メアリーはダーンリー卿ヘンリー・スチュアート(ジャック・ロウデン)と結婚し、息子ジェームズを出産する。
正当なイングランドとスコットランドの王位継承権を持つ子供の誕生はスコットランド宮廷のみならず、イングランド宮廷とエリザベスの心をざわつかせた。
◇
メアリー・スチュアートは生まれた時からエリザベスⅠ世の王位継承権のライバルだった。ふたりの女王はお互いに意識し合い、同時に魅せられていた。
女性として世を治めるとはどういうことなのかは、このふたりにしか理解できなかった。
誰よりも理解し合えたはずのふたりの女王。ある時、お互いを恐れ続けたふたりの運命が交差する。
レビュー(ほぼネタバレなし)
冒頭『スターウォーズ』なみに歴史の説明あり
スコットランド女王メアリー・スチュアートと、イングランド女王エリザベスⅠ世、16世紀英国に生きる二人の女王を描く歴史ドラマ。
結構史実に忠実に作られているようなので、ネタバレ有無を気にするものではないのかもしれない。私は世界史に疎いので、恥ずかしながら予備知識なしで観賞できた。先が読めない面白味もあるが、反面、話を追うのにやっとで、ゆっくり楽しめないジレンマもある。
◇
映画を観終わってから、世界史について復習することが多い。今回もそうだ。前回は確か『女王陛下のお気に入り』だった。奇しくも、最後のイングランド王国・スコットランド王国だったアン女王の話だ。
あの映画は女王陛下の寵愛を得ようと争う女同士を愛憎たっぷりに描いたドラマで、フィクションではあるが、なかなか面白かった。
本作は歴史に忠実な作りゆえ、重厚さはある一方で、ドラマとしての盛り上がりは少々物足らない。
キャスティングあれこれ
邦題は『ふたりの女王』だが、原題や原作ではメアリー・スチュアートがメインである。この女王を演じたシアーシャ・ローナンが、まさに彼女以外に考えられないハマリ役だ。
0歳でスコットランド女王、16歳でフランス王妃となった経歴がもたらす気品と気丈さ。そして若さと美貌。そのメアリーをきちんと演じきっているシアーシャ・ローナンは、本物のメアリーの肖像画(下の書籍の表紙)を見ても、とても良く似ていて驚く。
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のあの笑顔が封印気味だったのは残念。
◇
一方のエリザベスⅠ世を演じたマーゴット・ロビーは、観たばかりの『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の彼女とは大きく違う印象に衝撃。
ただ、エリザベスⅠ世は結婚もあきらめ国政の為に生きた女王で、容姿にもコンプレックスがあった人。
天然痘発症のあとから、顔が大きく変貌してしまい、黄色いカツラと白塗りの顔は、ハーレイ・クインではなくジョーカー、いや色合い的にはマックのドナルドに近い(下の書籍の表紙を見ると、割と忠実)。
ここまで顔を崩すのだったら、正直、彼女が演じる必要があるのか疑問。でも、映画宣材には、美しい顔を使っているのがズルい。マーゴット・ロビーのファンには、つらい作品ではないかと同情してしまう。
メアリーの再婚相手で、子供の父親であるダーンリー卿にジャック・ロウデン。
世間的には『ダンケルク』のパイロット役が有名だが、私には『ファイティング・ファミリー』のプロレスラー兄妹で、フローレンス・ピューの兄役が記憶に新しい。シアーシャ・ローナンは『ストーリー・オブ・マイライフ』でフローレンスの姉役だったので、私の脳内では勝手につながっている印象。
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ウィリアム・セシルのガイ・ピアースはいい感じで年を取ってきたが、変わらず渋い。今回は、エリザベス女王と長く国政を支えた名パートナーと言われる役柄。
なお、監督にはイギリス演劇界のトップ女性演出家ジョージー・ルーク。長篇映画は初監督らしい。
コインの表と裏のような関係
王位継承を求めて激しく対立しているように見えたふたりの女王だが、実はあれこれと奸計をめぐらせて、慌ただしく動き回っているのは、周囲の男性貴族連中だ。
男性連中のなかで、まともに見えるのはウィリアム・セシルくらいだろうか。あとは総じて腰抜けの悪党揃いのようで、その分、ふたりの女王が際立って見える。
◇
初婚では処女のまま夫を亡くし、再婚し世継ぎを産み、若さも美貌もあるメアリー。それを羨む気持ちを断ち切り、「自分は国政と結婚する」と独身を貫くエリザベス。
宗教も領土も、女性としての生き方も大きく異なる二人だが、女王同士でしか理解できないものがある。そう、ふたりは互いを心底憎んでいる訳ではないのだ。
二時間の映画の中で、ふたりが同じ場で密会し、会話をする場面は一つだけだ。
主演の二人が同じシーンになかなか登場しないのは、まるで『ヒート』のパチーノとデ・ニーロのようではないか。そういえば、あの映画の二人も、コインの表と裏のような関係だった。
◇
冒頭のシーンでもあり、ネタバレではないと思うが、最後には、エリザベス女王の暗殺計画に加担した罪で、メアリーは斬首刑となる。抵抗しながらも、彼女の処刑書類にサインをせざるを得ないエリザベス女王。
だが、メアリーの望んだとおり、息子ジェームズは、スコットランドとイングランドを統治する最初の国王となるのだ。このナレーションだけでも、少し救われた。