『バビロン』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『バビロン』考察とネタバレ|「バベル⇒バビロン⇒バービー」の三段活用

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『バビロン』
Babylon

サイレントからトーキーへと大きな変化を迎えた時代の映画界をデイミアン・チャゼル監督が笑いとお下劣で描く。

公開:2023 年  時間:185分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:    デイミアン・チャゼル

キャスト
ジャック・コンラッド: ブラッド・ピット
ネリー・ラロイ:   マーゴット・ロビー
マニー・トレス:    ディエゴ・カルバ
エリノア・セントジョン:ジーン・スマート
シドニー・パーマー: ジョヴァン・アデポ
レディ・フェイ:   リー・ジュン・リー
ジェームズ・マッケイ:トビー・マグワイア
ジョージ・マン:    ルーカス・ハース
ルース・アドラー:オリヴィア・ハミルトン
ドン・ウォラック:   ジェフ・ガーリン

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

あらすじ

夢を抱いてハリウッドへやって来た青年マニー(ディエゴ・カルバ)と、彼と意気投合した新進女優ネリー(マーゴット・ロビー)

サイレント映画で業界を牽引してきた大物ジャック(ブラッド・ピット)との出会いにより、彼らの運命は大きく動き出す。

恐れ知らずで美しいネリーは多くの人々を魅了し、スターの階段を駆け上がっていく。やがて、トーキー映画の革命の波が業界に押し寄せる。

レビュー(ネタバレあり)

観る前からネガティブじゃいかんのだが

1920年代のハリウッドを描いたデイミアン・チャゼル監督の渾身の一作。

これまでの才能溢れるフィルモグラフィから大いに期待したいのは事実だが、多くの映画監督がよく気分転換に撮りたがる、この古き良き映画業界の内幕暴露のようなお祭り騒ぎ映画は、気に入った試しがない。

ことにハリウッドのスタジオシステムの話となれば、時代も国もはるか遠く感じられ、勝手に内輪で盛り上がってくれといいたくなる。そんなネガティブな先入観に加え、185分の大作というのもひっかかる。

別にデイミアン・チャゼル監督のせいではないが、近年の映画の長時間化には辟易する。

配信サービスの台頭やシネコンの普及によって、映画は安易に150分を超えるようになってきた。勿論、それに相応しい作品ならばよいが、頭を抱える長尺作品も少なくない。

贅肉を削ぎ落すことで映画は輝くものではないのか。3時間超の作品を公開する際には、インドのエンタメ傑作『RRR』に比肩する充実度があるかをぜひ自問自答してもらいたい(そりゃ酷か)。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

のっけから乱痴気騒ぎ

そんな気構えで本作を観始めると、冒頭の馬専用のトラックで象を運搬するエピソードから意気消沈。別に下ネタは気にならないのだが、このダルな笑いとノリで幕開けとは前途多難だ。

そして老若男女が入り乱れてのバカ騒ぎの乱交パーティ。

盛大な会場にゾウを闖入させたり、相当お下品なギャグを差し込んだりと、手間とヒマとカネがかかっていることは理解できるが、長く観ていられるほど楽しいシーンでもない。こんな乱痴気騒ぎばかり3時間も続いたら、精神が持たないぞと不安になる。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

この盛大なパーティは、映画業界で頻繁に行われているもの。メキシコ系アメリカ人のマニー(ディエゴ・カルバ)は、キノスコープ重役ドン・ウォラック(ジェフ・ガーリン)の邸宅でスタッフとして働いていた。

大女優だと偽りパーティに潜入を企んだ新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)が警備員と揉めているのを助け、親しくなる。

パーティには中国系歌手のレディ・フェイ・ジュー(リー・ジュン・リー)や黒人ジャズマンのシドニー・パーマー(ジョヴァン・アデポ)なども場を盛り上げ、ネリーの狂ったようなダンスが周囲の注目を集める。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

結局ラ・ラ・ランドかよ

肥満男に聖水を浴びせてた若い女優がドラッグ大量摂取で死亡。ウォラックは目に留まったネリーに翌日の撮影の代役を依頼する。

一方、マニーは、泥酔した大スターのジャック・コンラッド(ブラッド・ピット)を介抱したことで、彼の付き人として雇われることに。ここでようやくタイトルだ。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

随分とまあ凝りに凝ったアヴァンタイトルだが、要は、この盛大なパーティで、マニーとネリーは親しくなり、それぞれ念願だった映画業界で働く糸口をつかむのだ。

実は、このあたりから、濃厚にデイミアン・チャゼル監督の大ヒット作『ラ・ラ・ランド』っぽい雰囲気になる。

どっちも映画スタジオに憧れる主人公を描いているが、それだけが理由ではない。マニーとネリーの共演シーン等で流れ始めるテーマ曲が、あまりに『ラ・ラ・ランド』なのだ。

音楽は『ラ・ラ・ランド』と同じくジャスティン・ハーウィッツ

ジャズを始め本作の歌って踊る曲はどれも素晴らしいのだが、ちょっとセンチメンタルな<マニーとネリーのテーマ>だけはいただけない。曲の善し悪しでなく、誰もが、「これ<ラ・ラ・ランド>でしょ?」っていうはずだ。間違いない。

サイレント時代の展開は楽しい

本作は185分の作品全体としてはイマイチな評価だが、もしも序盤の乱痴気騒ぎや全体の無駄を取って二時間ちょっとの作品になっていれば、結構イケてる作品だったのにと思う。世間で言うほどダメじゃない(言ってないか)。

特に私が面白かったのは、撮影仕事の初日のマニーとネリーそれぞれのエピソード。

まずはネリー。「代役をよこすって<平ら胸>女じゃないか!」と女性監督が不機嫌になる(『勇者ヨシヒコ』か)。ちなみに、監督役のオリヴィア・ハミルトンは本作の製作も手掛ける、デイミアン・チャゼル監督のパートナー。男勝りで結構いい味だしてた。

はじめは相手にされなかったネリーだが、バーカウンターの上で披露するセクシーダンスや、いつでも何度でも泣けるという特技が監督に気に入られ、一気に人気者に。このノリノリの展開は楽しい。

一方のマニーも負けてない。大勢が戦うスペクタクルな戦闘シーンの撮影途上で急遽カメラが必要になり、離れた場所まで借りに行く。

ところが店には在庫がなく、数時間後に返却された直後のカメラを、救急車を借りだして激走して現場に持ち帰る。まさに美しい夕日が沈む直前、監督はじめ一同が絶望する中にカメラとともに登場するマニーは一躍英雄になる。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

カツベン!の明るさが欲しい

どのエピソードもまだ、夢に満ちていた。だが、時代はやがてサイレントからトーキーへと移り変わる。環境変化に順応できるか。

人々は『ジャズ・シンガー』に大興奮している。これからは演奏者をフィーチャーしたミュージカルだ。マニーは時代の流れを先取りし、次第に業界の中で地位を上げていく。

だが、サイレント時代なら受けたが、トーキーでは声が冴えなかったネリーや、そもそも過去の時代の俳優としてクソ映画にしかお呼びのかからないジャック、見た目重視のために黒人なのに顔に靴墨を塗らされるトランぺッターのシドニー。みんな時代の変化で痛手を負う。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

トーキー時代は同録なので、スタジオでみんながゴム底の靴を履き、扇風機を止めて汗だくになり、天井のマイク位置からズレないように気を付けながら、台詞をいって芝居をする。

これまでとの勝手の違いに、ネリーやスタッフ一同は、何十もテイクを重ねて、死にそうになりながら撮影を完了させる。ここだけは盛り上がったものの、トーキーになってからの映画全体のトーンは陰鬱としている。

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

サイレント時代の映画人にとっては、環境適合ができない。邦画ではあるが、成田凌『カツベン!』(2020、周防正行監督)を思い出した。

活動弁士というのは日本固有の職業だが、当然トーキー時代にはお払い箱になる。その時代のカツベンを描いた作品では暗くなってしまうので、周防監督はその少し前の、夢のあったギリギリの時代を選んでいる。慧眼だ。

だから、あの映画は明るい。本作もトーキーになる直前くらいで終わらせたら、もう少し楽しい映画になっただろうに。

現在までフィルムが繋がったのか

終盤に登場するギャングのボス、ジェームズ・マッケイトビー・マグワイアが演じているのがめちゃめちゃウケる。およそ彼ほどギャングが似合わない役者はいないのに。

いつも善人のトビーが、赤ら顔になぜか白塗りを繰り返して不気味さを醸す。そんな彼にマニーは、ネリーのこしらえたギャンブルの負けを払いに行く。

とはいえ自分も金がなく、映画業界の友人に用立ててもらったカネだ。小道具係が用立ててくれたのは、当然、小道具の紙幣ということになり、それをマニーはギャングの面前で知るというナンセンスな展開はちょっと笑えた。

本作は映画好きならニンマリするような小ネタやオマージュに満ちているような気もした(私も、いくつかは気づいたが)。だが、そんな小手先の芸で映画好きが満足する作品とも思えない。

ラストの映画名シーンつなぎも、サイレントから現代にバトンを渡したつもりなのかもしれないが、説得力はない。

デイミアン・チャゼル監督には、こういう複数主人公で拡散する構成よりも、『セッション』『ファースト・マン』のような、シンプルな一本線のストーリーの方が合うのではないか。

主演三人の中では、ダントツにマーゴット・ロビーが光っていたな。ブラピの出演作は『バベル』から『バビロン』に、マーゴット・ロビー『バビロン』から新作が『バービー』と、まるで三段活用のようだ。