『旅のおわり世界のはじまり』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『旅のおわり世界のはじまり』今更レビュー|黒沢版サウンドオブミュージック

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『旅のおわり世界のはじまり』

随所に黒沢清監督作品の不穏な空気が漂うが、それは思い込みか。いつもの作品とはやや毛色が違う気が。ウズベキスタンで現地レポートを撮る撮影クルー。美しい劇場で、高い山の上で、歌姫として絶唱する前田敦子。

公開:2019 年  時間:120分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:        黒沢清

キャスト
葉子:       前田敦子
吉岡:       染谷将太
佐々木:      柄本時生
テルム:アディズ・ラジャボフ
岩尾:        加瀬亮

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

あらすじ

いつか舞台で歌を歌うことという夢を胸に秘めたテレビ番組レポーターの葉子は、巨大な湖に潜む幻の怪魚を探すという番組制作のため、かつてシルクロードの中心として栄えたウズベキスタンを訪れる。

早速、番組収録を始めた葉子たちだったが、思うようにいかない異国の地でのロケに、番組クルーたちもいらだちを募らせていく。

そんなある日、撮影が終わり、ひとり町に出た葉子は、かすかな歌声に導かれ、美しい装飾の施された劇場に迷い込む。

備忘録(ネタバレあり)

ウズベキスタンに滞在し、世界の果てまで系の現地レポートを撮影するクルー。

体を張って番組を盛り上げる女性レポーター葉子(前田敦子)、冷酷なディレクター(染谷奨太)、常識人のカメラマン(加瀬亮)、言いなりのAD(柄本時生)、そして優しいコーディネータ(アディズ・ラジャボフ)

いかにも楽しそうに現場の様子を伝えるレポートの裏側で、湖の巨大魚を探したり、生煮えの料理を食べたり、街の遊園地の絶叫マシン連続体験で吐いたりと、ボロボロになっている葉子。

ここは、観ている側もつらい。前田敦子『Seventh Code』黒沢清監督と組んでいるのだが、残念ながら私はまだ観ていない。

怪しい風がホテルの部屋のカーテンをはためかせ、随所に黒沢印の不穏な空気が漂う気もするが、それは思い込みなのかもしれない。いつもの黒沢清を期待すると、今回はちょっと毛色が違うのだ。

不穏分子なのは、クルーの中ではディレクターただひとり。染谷奨太のわがままで考えが読めないところは、三池崇史監督の『初恋』や大河ドラマ『麒麟がくる』の信長でもお馴染みになってきている。

カメラマンの加瀬亮がいい人そうで、ほっとする。

やや暗めな画面のせいか、一人で寂しい夜の旧市街をさまよう葉子。現地語の分からない街歩きには字幕もないため、彼女と同様に観客にも異国での不安をあおる。この先の展開が読めない。

首都タシケントに入り、偶然迷い込んだ美しい劇場で、葉子は自分の中にある、私は歌いたかったのだという感情を思い出す。曲はエディット・ピアフ「愛の賛歌」

ここは、終戦後旧ソ連の日本人抑留者が建設を手掛けたナボイ劇場。AKB48劇場ではないから、振付も衣装もない。それに、まだ歌に気持ちが入らない。

(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

だが終盤で、遠く離れた東京でおきた湾岸の大火災により、彼女の感情が呼び起こされる。

そして、ついにラストでは、自分が逃がしてやった山羊とも再会を果たし、高き山に囲まれながら標高2443メートルの山の頂上で高らかに歌いあげるのだ、「愛の賛歌」を。

歌い方も普段のステージとは違うのだろうが、前田敦子、気合が入っている。

最近観た邦画ファンタジー『町田くんの世界』(石井裕也監督)は現代版メリーポピンズのようだったが、本作は黒沢版『サウンド・オブ・ミュージック』といえる。