『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
The Suicide Squad
スーサイド・スクワッド2。鬼才ジェームズ・ガンに撮らせると、スースクはこんなにエッジが効いた作品になるのだ。
公開:2021 年 時間:132分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ジェームズ・ガン 原作: ジョン・オストランダー 『スーサイド・スクワッド』 キャスト ハーレイ・クイン: マーゴット・ロビー ブラッドスポート: イドリス・エルバ ラットキャッチャー2: ダニエラ・メルシオール ピース・メイカー: ジョン・シナ ポルカドットマン: デヴィッド・ダストマルチャン リック・フラッグ大佐: ジョエル・キナマン シンカー: ピーター・カパルディ サバント: マイケル・ルーカー キャプテン・ブーメラン: ジェイ・コートニー ブラックガード: ピート・デイヴィッドソン T.D.K.: ネイサン・フィリオン ウィーゼル: ショーン・ガン ジャベリン: フルーラ・ボルク モンガル: メイリン・ン アマンダ・ウォラー: ヴィオラ・デイヴィス ジョン・エコノモス: ソル・ソリア シルヴィオ・ルナ将軍: フアン・ディエゴ・ボト
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ジョーカーと別れて彼氏募集中の身になり、ますますクレイジーになったハーレイ・クインを筆頭に、最強スナイパーのブラッドスポート、虹色のスーツに身を包んだ陰キャのポルカドットマン、平和のためには暴力もいとわないという矛盾な生き様のピース・メイカー、ネズミを操って戦うラットキャッチャー2、そして食欲以外に興味のないキング・シャーク。
いずれも強烈な個性をもった悪党たちが、減刑と引き換えに、危険な独裁国家から世界を救うという決死のミッションに挑む。
レビュー(まずはネタバレなし)
Theがつく真正スースク
死刑や終身刑となった悪党たちが、減刑と引き換えに特殊部隊を結成させられ、自殺同然の決死のミッションに挑むさまを描いた「スーサイド・スクワッド」(2016)。
そのフォーマットを再び使い、もはやジョーカーの元恋人という枕詞も不要なほどメジャーキャラになったハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)はじめ、一部メンバーは前作からの続投なれど、映画のノリとしては全く別物。ジェームズ・ガン監督のこだわりがガンガンに効いている(ダジャレではないよ)。
◇
ガン監督といえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『同・リミックス』をはじめ、マーベルMCU作品でヒットを飛ばした人物。
だが、Twitterでの不謹慎なジョークが原因で三作目の監督を突如降板させられる(関係修復したらしいけど)。そんなジェームズ・ガンが、マーベルの宿敵DCの映画である本作の監督として、反撃にでようというのだ。
◇
それにしても、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』っていう邦題が、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』みたいに、二作目かどうかも分かりにくくって困るよ。などと思っていたら、原題はもっとマニアックだ。
前作が<Suicide Squad>、今回は<The Suicide Squad>だって? ふざけてんのかって感じだが、完成度も面白味もイマイチだった前作を、「オレがテコ入れしてやるぜ」というジェームズ・ガン監督の気合いが、この<The>に込められているに違いない。
いきなりスタメンから総取り替え
本作は冒頭から<スースク>のノリなのか、ジェームズ・ガン監督のノリなのか分からない、ブラックジョークの効いた痛快アクションになっている。
長年刑務所に収容されている牢名主のような接近戦の達人サバント(マイケル・ルーカー)。この渋い老兵が主人公か。よくみたら、『ガーディアンズ~』のヨンドゥじゃないか、顔が青くないから気付かなかった。
◇
サバントは刑期短縮をエサに、特殊ミッションに参加させられる。
チームは、前作の<スースク>からのメンバーのリック・フラッグ大佐(ジョエル・キナマン)、キャプテン・ブーメラン(ジェイ・コートニー)それにハーレイ・クイン。あとは新顔として、イタチ人間のウィーゼル(ショーン・ガン)や、両腕をもいで遠隔捜査できるT.D.K.(ネイサン・フィリオン)ほか数名。
こいつらが皆、南米の島国コルト・マルテーゼに攻め込むが、内通者のせいで待ち伏せされ激しい反撃を受ける。
正直ハーレイとサバント以外のキャラはほぼポンコツに見えてしまい、なかなか見分けがつかんなあと思っていたのだが、このフラッグ大佐率いるメンバーは、敵の攻撃でほぼ戦死してしまう。
ここまで主役級の扱いだったサバントまで、戦意喪失で脱走したことから殺される。女上司のアマンダ・ウォラー司令官(ヴィオラ・デイヴィス)が、彼の脳内の起爆装置を作動させたのだ。
なんと、冒頭数分で早くも主役交代とは。既成概念にとらわれないジェームズ・ガンの流儀を早くも見せつけてくる。
そして今回のスースク・メンバー
実は、特殊ミッションにはほかにもタスクフォースが参加していた。最強スナイパーのブラッドスポート(イドリス・エルバ)は、ウォラー司令官に娘を逮捕すると脅迫され、嫌々<スースク>のリーダーに。こいつが新たな主人公っぽい。
イドリス・エルバといえば、私の中では『マイティ・ソー』シリーズでいぶし銀の活躍の門番ヘイムダル。本作でも渋いぜ。
チームメンバーは、マッチョな射撃の名手のピース・メイカー(ジョン・シナ)。ブラッドスポートと能力被りの、平和のためならヒーローも殺す男だ。
次に、ネズミを自在に操る女・ラットキャッチャー2(ダニエラ・メルシオール)。小動物操作系の能力は『アントマン』っぽい。
そして、サメ人間のナナウエ(声:シルヴェスター・スタローン)は、サメに手足があるというふざけたキャラで、人間もムシャムシャ食べてしまう。会話が殆ど成り立たないのは、『ガーディアンズ~』のグルートと近い。
そしてポルカドットマン(デヴィッド・ダストマルチャン)は、水玉のようなチップを全身から射出し攻撃能力は高いが、気弱でおどおどしている陰気キャラ。
デヴィッド・ダストマルチャンは『DUNE/デューン 砂の惑星』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)にもメンター役で出ていた。
◇
ブラッドスポートはこの変わり者揃いのメンバーを統率し、コルト・マルテーゼの町に潜入し、フラッグ大佐と合流する。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
今回も主役はやはりハーレイ・クイン
彼らのミッションは、コルト・マルテーゼで秘密裡に行われている「スターフィッシュ計画」、凶悪な宇宙怪獣スターロを利用した非人道的な実験の阻止である。
米国にとって脅威となりえるネタは早期に潰そうというものだ。だが、その任務遂行の前に、まずはコルト・マルテーゼ軍に捕縛されたハーレイ・クインを救出しなければ。
◇
独裁者であるシルヴィオ・ルナ将軍(フアン・ディエゴ・ボト)は捕縛されたハーレイの反米的な言動に共感し、彼女を妻として迎え入れる。
一気に甘い雰囲気になるのだが、将軍の独裁的な発言が気に障った彼女は、この男を即射殺。気持ちよいほど迷いがない。
その後、牢で拷問を受けるハーレイだが、その気になれば瞬く間に反撃して全員皆殺し。脱出後に仲間が助けにきて、「もう一回戻る?」と感激するのもカワイイが、まあ彼女には手助けは無用だわな。
◇
ハーレイによる殺傷沙汰には、血しぶきの代わりに花が咲き、蝶が舞う。この辺は『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』からのお約束。だけど、彼女のファンなら、スピンオフ企画の同作の方がドラマもアクションも見どころが多いかな。
戦隊ヒーロー、怪獣と戦う
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』が全員女子メンバーの<セーラームーン>的なノリなのに対し、本作には男女混合の<戦隊ヒーロー>ものの面白さがある。追い詰められた敵が最後には巨大化して町を破壊するパターンも踏襲。
この宇宙生命体のスターロという巨大ヒトデは、日本初のカラーSF映画として歴史に名を刻む大映映画『宇宙人東京に現わる』(1956)の完全パクリな造形と思う。
だが、どうしたって着ぐるみにしか見えないゆるキャラぶりと、しっかりKAIJU(怪獣)と呼んでいるあたりに、ジェームズ・ガンのジャパニーズカルチャー愛を感じる。
総力戦で巨大ヒトデと戦う<スースク>。サメ人間ナナウエに、「あれはナムナム(ご馳走)だぞ」と言ったり、ポルカドットマンに「あれはお前の(憎んでいる)ママだぞ」と言ったり、ブラッドスポートはあの手この手で扱いづらいメンバーを戦力化する。ラットキャッチャー2の膨大な数のドブネズミ攻撃も凄かった。
◇
今回の<スースク>メンバーは新顔揃いでも、死ぬメンバーや裏切り者などよく練られており、MCUの『エターナルズ』なみに全員キャラ立ちしている。
悪党どもが義賊になって平和を守るストーリーは、『ガーディアンズ~』からのジェームズ・ガンの得意分野なのだ。彼の作風好きなら、観ておいて損はない。