『ヒンド・ラジャブの声』新作レビュー|必ず救い出す

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銃火の中から救いを求める少女の実際の音声データから作り上げた魂のドラマ

公開:2026年 時間:89分  
製作国:チュニジア

スタッフ 
監督:    カウテール・ベン・ハニア


キャスト
ラナー:     サジャー・キラーニー
オマール:      モタズ・マリース
マフディ:    アーメル・ヘリーヘル
ニスリン:     クラーラ・フーリー

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

©MIME FILMS — TANIT FILMS

あらすじ

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続いていた2024年1月29日、パレスチナの人道支援組織「パレスチナ赤新月社」のボランティアチームが緊急通報を受ける。

それは、銃撃下の車内に閉じ込められた6歳の少女ヒンド・ラジャブからのものだった。

ガザから避難しようとしていたヒンドとその家族は、乗っていた車がイスラエル軍に攻撃され、ヒンドをのぞく全員が命を落としていた。

赤新月社のボランティアチームは、残された彼女を救出するため、電話をつないだままあらゆる手段を尽くすが…。

レビュー(若干ネタバレあり)

思っていた以上に緊迫感のある映画だった。ガザで実際に起きた事件が題材になっている。

ヒンド・ラジャブとは、ガザ地区で銃撃された車内に隠れている6歳の少女の名前だ。でもタイトルロールだというのに、彼女の名はキャスト表にない。

そう、この映画で彼女は電話の声としてしか登場しない。しかも、その肉声は、実際にこの少女の声が録音されたものなのだ。

©MIME FILMS — TANIT FILMS

監督のカウテール・ベン・ハニアは、本来ドキュメンタリー畑の監督である。本作のベースとなっているこの音声データがあれば、当然ドキュメンタリーを撮る選択肢もあっただろう。

だが、この監督はあえてフィクションも混ぜた内容の作品を選ぶ。この物語をただの過去の出来事としてではなく、明日につながる進行形の話として成立させたかったからだという。

家族と乗った車がイスラエル軍に襲撃されたパレスチナの少女からの通話を、ガザ支援をしている赤新月社の事務所にいるオマールが受けるところから物語が始まる。

同乗していた者たちはみな銃撃で亡くなり、一人でクルマに隠れている少女ヒンドが受話器の向こうで救いを求める

少女の声は、受電する機械の画面上で波形となって表示される。あとは少女の肉声のみ。顔が映し出されるでもなく、まして銃撃を受けた車内の様子が映し出されるでもない。

©MIME FILMS — TANIT FILMS

映画は最後の数分を除き、本編中の殆どがこの赤新月社の事務所内でのシーンとヒンドとの通話で構成される。映像的な変化は乏しいと言わざるを得ない。

だが、それに退屈することはない。というより、緊迫したムードの連続で息つく暇もないといった方が正確だ。

少女の隠れているクルマまですぐにでも救急医療の車両を送りたい。距離にしてわずか8分の場所に救急車は待機している。だが、勝手に行動できない。

移動中の救急車がイスラエル軍に襲撃されないように、安全な承認ルートを確保すべく、赤新月社は外交ルートを通じて軍と交渉する必要があるのだ。この調整作業には何時間もかかり、赤新月社のメンバーはみなもがき苦しむことになる。

©MIME FILMS — TANIT FILMS

少女と直接通話をして彼女の不安を解消しようと懸命に話しかけ続けるラナーとオマールは、何時間たっても救急車派遣の調整がつかないことで気が狂わんばかりにいきり立っている。

一方、調整作業の責任者であるマフディは、調整未了のままで救急車を出すことを絶対に認めない。これまでに多くの救急医療メンバーを失ってきており、これ以上スタッフに犠牲者は出したくない。

少女を救出したい思いは誰も同じだが、事務所内のメンバーの意見はぶつかり合う。事件は現場で起きているのに、会議室だけで展開しているこのドラマ。だが、戦時中だという緊迫感は半端ない。

©MIME FILMS — TANIT FILMS

2026年公開の作品では、観る者を戦場に閉じ込めるという触れ込みだった、アレックス・ガーランド『ウォーフェア 戦地最前線』が超ド級の迫力だったが、銃火も瓦礫の山も、まして死傷者の姿も見せずに同じインパクトを与える本作は、只者ではない。

いよいよ救急車が出動できる段になっても、車両がガザを移動するカットは登場しない。かわりに地図アプリの上をナビのように車両アイコンが動いていくカットが登場するのだ。

こんなもの、他の映画でみかけたら、何たる手抜きかと喝を入れるところだが、この映画だけは違う。野外のショットを撮れないことが、かえって恐怖感を募らせるのだ。