『ツナグ』今更レビュー|死んだ人に会えるのは人生で一度だけ

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『ツナグ』

辻村深月の原作を松坂桃李の単独初主演で映画化した、再会したい死者とツナグ、ファンタジー。

公開:2012年 時間:129分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          平川雄一朗
原作            辻村深月

              『ツナグ』
キャスト
渋谷歩美:        松坂桃李
渋谷アイ子:       樹木希林
畠田靖彦:        遠藤憲一
畠田ツル:        八千草薫
嵐美砂:          橋本愛
御園奈津:        大野いと
土谷功一:        佐藤隆太
日向キラリ:       桐谷美玲
渋谷亮介:        別所哲也
渋谷香澄:       本上まなみ

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2012「ツナグ」製作委員会

あらすじ

たったひとりと一度だけ、死者との再会を叶えてくれる案内人の使者「ツナグ」。

一見するとごく普通の男子高校生・歩美(松坂桃李)は、祖母アイ子(樹木希林)からツナグを引き継ぐ見習いとして、死者との再会を望むさまざまな人と出会っていく。

しかし、死者との再会が救いになるのか、人生は変わるのか、次第に自身の行為に疑問を抱くようになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

大切な人を亡くした者と死者を一度だけ再会させる力を持つ仲介人「ツナグ」という仕事を、祖母から受け継ぐ青年が主人公のファンタジー。辻村深月の同名原作を平川雄一朗監督で映画化。

もう13年前の松坂桃李の単独初主演作品になる。平川監督は本作に続き、『想いのこし』でも、成仏できない死者を扱い、この手のジャンルは手慣れた感があるのだが、言い換えれば、演出に新鮮味は少ない。

幼い頃に両親を亡くした高校生の歩美(松坂桃李)は、祖母アイ子(樹木希林)と二人で暮らしており、ツナグの仕事を受け継ぐべく、仕事を少しずつ任されている。

依頼人がツナグに仕事を依頼し、アイ子が死者と交渉、まだ見習いの歩美は、再会までの段取りや当日の対応を担当する。

  • がんで亡くなった母親(八千草薫)との再会を願う中年男性・畠田(遠藤憲一)
  • ケンカ別れをしたまま事故死してしまった親友・奈津(大野いと)に会いたいという女子高生の美砂(橋本愛)
  • 7年前に失踪してしまった婚約者・キラリ(桐谷美玲)の消息を知りたいサラリーマンの土谷(佐藤隆太)
(C)2012「ツナグ」製作委員会

原作にはこの他、死んだ女性アイドルに会いたい女性ファンのエピソードがあるが、映画では割愛。上映時間を考えれば、好判断かもしれない。

ただ、原作ではそれぞれ独立した挿話となって進む構成を、映画では全てを同時進行的に見せている。原作スタイルを踏襲すると間延びして勢いがでないからなのだろうが、次々に仕事が舞い込んでくるようで慌ただしい。

原作では、アイ子が歩美にツナグの仕事の重要さと危うさを継承しようとしていることや、彼の両親がなぜ死んだか(世間では浮気していた父が母を殺して自害と噂)などが、終章で明かされる。

つまり、それまでは、歩美は不思議な能力を持つミステリアスな少年として書かれているのだ。

(C)2012「ツナグ」製作委員会

映画では、それを最初に開陳してしまったので、この風合いは薄れてしまった。最初のツナグの成功体験である<アイドルとの再会>を割愛してしまったのも、全体のリズムを狂わせる。

いきなり、ツナグを詐欺だと疑うクレーマー(遠藤憲一)に歩美が早口に説明するので、観る方も余裕をもってルールを理解しづらいのだ。

  • 死者に会うのに、費用は一切かからない
  • 場所は品川のバンドホテル901号室
  • 日時は満月の夜から夜明けまで
  • 生きている方も、死んでいる方も、再会の権利は一度のみで、他の人とはもう会えない。そのため、死者に拒絶されることもある。
(C)2012「ツナグ」製作委員会

死者を呼び出して交渉するのは、ツナグのアイ子の役目であり、その際に使う青銅鏡を他の者が覗き込むと、その者と、所有者のツナグは死んでしまうという。ツナグの継承者は常に一人であり、見習いの歩美はまだこれを見てはいけない。

こういったルールが次々と説明される。

品川のホテルとなっているが、映像をみると、エレベーターやロビーはホテル・ニューグランドで、外観は日本大通りだから、ロケ地は横浜だ。雰囲気としては、モダンな高級ホテルよりずっと合っていてよい。

死んだ母(八千草薫)に再会する、家業の工務店社長(遠藤憲一)の話は、さすがにベテランの二人だけあって、泣かせる。演技のほど良い匙加減が分かっている。

自分だったら、ツナグに誰と会わせてくれと依頼するか考えさせられた。本作で存在感のあった、八千草薫樹木希林も、今や鬼籍に入ってしまった。

(C)2012「ツナグ」製作委員会

高校の演劇部仲間で親友の奈津(大野いと)が事故死したのは、主役の座を奪われた妬みで坂道に水を撒き凍結させた自分のせいだと苦悩する美砂(橋本愛)

ただ、美沙が奈津との再会を依頼するのは、自分の犯行が他人に露呈しないように、美沙のツナグ利用機会を先取りしようという魂胆から。『デスノート』みたいな深読みだ。

この二人は後に朝ドラ『あまちゃん』でも共演するが、大野いとの善人キャラは今回も安定感あり。「(美砂は)あたしには敵わないよ」という陰口を奈津がいうはずがないことは十分想像できる。

(C)2012「ツナグ」製作委員会

何年も前に失踪した婚約者(桐谷美玲)の消息を知りたい社会人(佐藤隆太)

ツナグで会えるということは、彼女が死んでいたということで、男は傷つくが、それで会うのが怖いという選択肢はないだろう。

田舎からの家出ギャルに桐谷美玲、気弱な純情男の佐藤隆太配役として無理があったのではないか。再会シーンがあまりに甘すぎて、バラエティ番組の再現ドラマの域。

(C)2012「ツナグ」製作委員会

主演の松坂桃李は単独初主演で頑張っていたし、ツナグの雰囲気もあるのだけれど、ジュンヤ・ワタナベのコートを着こなすお洒落な高校生キャラかと言われると、ちょっと原作イメージと違っていた。まあ、ここは人によって意見が分かれるだろうが。

基本的に原作小説を忠実に映像化しようとしているのは伝わったが、文字ではあまり気にならなかったものが、映像でみると結構陳腐にみえるものだと思った。

  • 例えば、キラリ(桐谷美玲)が大事に持っていた、初めての映画館デートで美味しさに感激したポップコーンの箱
  • 或いは、美砂(橋本愛)が犯行に使う、他人宅の庭先の水道ホース(序盤の登場シーンが不自然すぎて)
  • 歩美の両親(別所哲也・本上まなみ)が居間でうつ伏せで倒れて死んでいる姿も、あまりにチープで嘘くさい

全体を振り返ると、変な小細工抜きで原作通り全5話構成でドラマ化したら、もっと面白いものになったのではないかと想像してしまう。