『ベイビー・ドライバー』
Baby Driver
エドガー・ライト監督が笑いを封印して撮った天才逃がし屋ドライバーの犯罪アクション。
公開:2017年 時間:113分
製作国:イギリス
スタッフ
監督: エドガー・ライト
キャスト
ベイビー: アンセル・エルゴート
デボラ: リリー・ジェームズ
ドク: ケヴィン・スペイシー
バディ/ ジェイソン: ジョン・ハム
ダーリン/ モニカ: エイザ・ゴンザレス
バッツ/ レオン:ジェイミー・フォックス
グリフ: ジョン・バーンサル
鼻なしエディ: フリー
J.D.: ラニー・ジューン
ジョー: CJ・ジョーンズ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
天才的なドラインビングテクニックで犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビー(アンセル・エルゴート)。
彼は子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、音楽によって外界から遮断さえることで耳鳴りが消え、驚くべき運転能力を発揮することができる。そのため、こだわりのプレイリストが揃ったiPodが仕事の必需品だった。
ある日、運命の女性デボラ(リリー・ジェームズ)と出会ったベイビーは、逃がし屋から足を洗うことを決めるが、ベイビーの才能を惜しむ犯罪組織のボス、ドク(ケヴィン・スペイシー)に脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。
今更レビュー(ネタバレあり)
逃がし屋の天才ドライバー
銀行強盗たちを逃がし屋として手助けする、驚異のドライビングテクニックを発揮する若者を描いたクライム・アクション。監督はエドガー・ライト。
1978年のウォルター・ヒル監督のハードボイルド、ライアン・オニール主演の『ザ・ドライバー』にインスパイアされた作品。
◇
裏稼業のドライバーが主人公というと、同じような逃走専門のライアン・ゴズリングの『ドライヴ』だったり、ヤバいブツでも必ず届けるジェイソン・ステイサムの『トランスポーター』だったりと秀作が多い印象。
だが、エドガー・ライト監督も負けてない。主人公はベイビーを名乗る柔和な外見の若者。演じるのは、本作以降、スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』で主役を射止めるアンセル・エルゴート。
この寡黙な若者はかつて母親を失った交通事故の後遺症で耳鳴りが消えず、それをかき消すために常にロックミュージックを聴いている。
片時も携帯音楽プレイヤーを手離さず、ひたすら古いロックを聴きまくるとなれば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主人公スターロード、あるいは『20世紀少年』の少女カンナのように、カセットテープでウォークマンが定番だった。
だが、ベイビーはiPod派だ(いいのか、Sony Picturesなのに)。今や音楽はスマホで配信されるのが当たり前だが、クリックホイールのiPodは映画の小道具としてもサマになると再認識。
街の遊撃手かよ
銀行強盗団を乗せ、スバル・インプレッサWRXを駆って警察車両から逃げまくるベイビーの華麗なドラテクに序盤から釘付けだ。

コンマ1秒のズレで大事故に繋がりそうなギリギリのカースタントながら、舞うようにドリフトして対向車を縫って走るスバルには優雅さが感じられる。いすゞジェミニがスケートダンスのように路上を舞った「街の遊撃手」の懐CMを思い出した。
◇
強盗仕事はしなくても、分け前は均等。犯罪を仕切っているのはボスのドク(ケヴィン・スペイシー)。あとのメンバーは仕事のたびに入れ替わる仕組みだが、腕を買われたベイビーにはいつも声がかかる。
けして悪人には見えないベイビーがこの裏稼業に参加しているのにはわけがある。ドクに借金があるのだ。仕事の取り分の殆どがその返済にあてられる。

だが、次の仕事でそれも完済になり、ようやく悪事から足抜けできる。不吉な予感しかしない展開。次の銀行強盗は不運に見舞われ、海兵隊に追いかけられるわ、渋滞につかまるわで、切羽詰まった状況だったが、どうにか生還。
◇
仲間が海兵隊員を射殺しようとした際にわざと邪魔をしたり、逃亡中に奪ったクルマの中の赤ん坊を母親に返したりと、ベイビーの善人キャラが垣間見える。
しくじった仲間の一人は殺されてしまうが、これで返済を終えたベイビーは最後の仕事にその死体処理をさせられ、足抜けする。
◇
馴染みのダイナーでウェイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)と親しくなり、やがて二人は相思相愛に。トリコロールの衣類が回転するコインランドリーのデート場面が美しい。
エドガーライト監督の新機軸
ベイビーは得意のドラテクを活かしピザ配達員になり、普通の生活を手に入れようとする。だが、ドクが優秀な逃がし屋を手離すはずがない。
そう簡単に足抜けさせてもらえないのは、任侠の世界だけでなく、万国共通。結局ベイビーは郵便局を襲う計画に下調べから付き合わされることに。
今回アサインされたメンバーは、短気でクレイジーなバッツ(ジェイミー・フォックス)、凶暴すぎる夫婦のバディ(ジョン・ハム)とダーリン(エイザ・ゴンザレス)。
いずれも過去にベイビーと組んだことのある連中だが、特にバッツはすぐにベイビーに噛みついてきて、敵対心旺盛。

計画準備段階で銃器を調達するための取引現場で、売人(実は警察)を皆殺しにしてしまう無謀な男。勝手な行動にドクが実行中止を言い出すなど、犯罪計画は錯綜する。
それにしても、エドガー・ライト監督が、こんなに笑い控えめのシリアス路線の犯罪アクションを撮るとは思わなかった。
だってこれまでの監督作は『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホット・ファズ』、『ワールズ・エンド』の三部作に『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』だよ。どれも完全にコメディじゃないか。
でも、笑いだけじゃない彼の多才ぶりは、本作で路線変更したあとの『ラストナイト・イン・ソーホー』でも実証済。

最後の大仕事
襲撃計画を実行するぞという仲間うちの会話を録音していたことが発覚し、ベイビーに突如、警察のスパイ容疑がかけられる。
「録音した会話をミキシングして音楽にするのが趣味なんだ」
「そんな下手な言い訳あるか!」
だが、自宅から押収したテープを再生すると、確かに会話がラップのように音楽に。この場面なんて、これまでのエドガー・ライトなら抱腹絶倒シーンにしていたはずだが、本作では緊迫感を維持。

そして計画実行の日。郵便局の前に駐車してメンバーの戻りを待つベイビーは、顔馴染みになった窓口担当の女性が歩いてきたのを、無言で追い返す。ここも彼の親切心だ。
だが、襲撃後に店から出てきたバッツが、女性の連れてきた警備員と鉢合わせしすぐに銃撃。それが気に入らないベイビーは、クルマをわざとぶつけて助手席のバッツを殺す。
◇
ここからの展開は想像を超えた。結局ベイビーはバディとダーリンの犯罪者夫婦もドクも敵に回して暴れまくるのだが、そりゃやりすぎじゃないのと思える過激さ。
一応最後まで善人キャラを貫いているベイビーに正義があるのかもしれない。
だが、バディ役のジョン・ハム好きな私としては、ベイビーが裏切って逃がし屋仕事を放棄したせいで愛妻が殺されたことをバディが逆恨みするのには、同情票をあげたくなる。
最後はデボラと逃げようとして、結局FBIに投降するベイビー。ただ、彼の善人ぶりが認められ、数年で出所でき、出迎えるデボラと抱き合いハッピーエンド。
使われた楽曲を知っていれば、もっと楽しめたに違いないが、殆ど分からなかったのが悔しい。