『シュリ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『シュリ』今更レビュー|なるほど、韓流の原点にして頂点

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『シュリ』
 쉬리

遂にデジタルリマスターが実現した、幻の名作諜報アクション『シュリ』。ここから韓流の時代が動き出した。

公開:1999 年  時間:124分  
製作国:韓国

スタッフ 
監督・脚本:     カン・ジェギュ

キャスト
ユ・ジュンウォン:  ハン・ソッキュ
イ・ミョンヒョン:  キム・ユンジン
パク・ムヨン:    チェ・ミンシク
イ・ジャンギル:    ソン・ガンホ
コ・ジャンソク局長: ユン・ジュサン
オ・ソンシク:     パク・ヨンウ

勝手に評点:3.5
 (一見の価値はあり)

(C)Samsung Entertainment

あらすじ

1998年、結婚を間近に控える韓国情報部のユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)は、相棒のイ・ジャンギル(ソン・ガンホ)とともに、多発する暗殺事件の捜査を進めていた。

犯人と目される北朝鮮の女性工作員イ・バンヒを追うなかで、驚異的な破壊力をもった液体爆弾CTXを用いたテロ計画の存在を突き止めるジュンウォン。

同じころ、ソウルのスタジアムでは韓国と北朝鮮の両国首脳が列席するサッカー南北交流試合の準備が進んでいた。

今更レビュー(ネタバレあり)

現在の韓流の始祖とも言われ、韓国映画としては空前のヒットとなったスパイアクション大作。1999年製作で日本公開は2000年1月。世界的にはY2K問題で不安を煽られた挙句、大きな問題はなかったねと脱力していた頃か。

当時、私は仕事に追われ忙しく、本作を見逃がしたまま四半世紀が過ぎてしまっていたが、9月にデジタルリマスターが公開されたので、ついに鑑賞。

アクション映画としてのレベルの高さに驚く。今見ても時代遅れと感じさせないのは、ハリウッド映画に遜色のないものを作ろうという製作陣の意気込みと、しっかりとした韓国映画の製作体制によるものか。

同年代に公開されたスパイアクションといえば、ミッション:インポッシブル2』『007/ ワールド・イズ・ノット・イナフ』といった定番シリーズ。

トム・クルーズブロズナンによる軽妙・痛快な娯楽大作に比べ、本作は南北の特殊部隊要員の背負う覚悟や悲哀をきちんと描いたうえでの諜報アクションだ。ただのエンタメ作品にしていないところに、韓国映画の矜持を感じさせる。

(C)Samsung Entertainment

ちなみに、2000年の日本の興行収入では、『シュリ』が18億で『007/ ワールド~』とほぼ拮抗、トップは『M:I-2』の97億。邦画でアクション映画のトップは織田裕二『ホワイトアウト』の42億。

売上では後塵を拝するも、完成度としては本作に軍配が上がるだろう。

今でこそ差が縮まってはきたが、ハリウッド式を標榜する当時の韓国映画に、邦画は品質的にもシステム的にも見劣りしていたように思う。

本作は、韓国秘密情報機関O.Pユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)イ・ジャンギル(ソン・ガンホ)のバディムービーのスタイルをとっている。

これまでに何回も政府要人を狙撃し彼らに辛酸を舐めさせてきた、北朝鮮特殊8軍団の女狙撃兵イ・バンヒが再び動き出したことで、二人は警戒を強める。

ソン・ガンホがまだ若く、精悍だ。『殺人の追憶』での破天荒な捜査や荒っぽい言動の刑事役イメージが強いが、本作ではまだ良識あるキャラクター。

(C)Samsung Entertainment

今でこそ大物俳優だが、本作における主演はハン・ソッキュの方。日本でも人気を博した『8月のクリスマス』からは、アクション映画の主演向きではないと思ったが、堂々の主役。しかも韓国俳優では歴代最高のギャラだったそうだ。

彼が演じるジュンウォンは熱帯魚店を営む女性イ・ミョンヒョン(キム・ユンジン)と恋仲にあり、魚の泳ぐ水槽前でのキスシーンはじめ、任務の傍らでロマンティックなシーンも随所にあり。

恋愛描写の甘さ加減もまた韓流テイストであり、すぐにベッドインするジェームズ・ボンドとはお国柄が違うようだ。なお、キム・ユンジンは本作でスクリーンデビューした後、米国ドラマ『LOST』に抜擢されてハリウッドに進出。

ミョンヒョンが熱帯魚店を営んでいるせいか、本作には随所に熱帯魚が象徴的に使われている。

タイトルの『シュリ』は南北統一のためのテロ作戦やスパイのコードネームとして登場するが、本来は朝鮮半島に生息する淡水魚の名前

また、キッシンググラミーという名の魚も、一匹が死ぬと相方も死んでしまうという仲睦まじい存在として紹介される。

韓国秘密情報機関のオフィスにも、各ブースに魚の水槽があり、コネ入社のオ・ソンシク(パク・ヨンウ)が水を替えている。こんな手間のかかる代物を諜報部が置くわけがないが、この魚は後半の伏線となっている。

さて、情報部に情報提供を申し出た武器密売商が彼らと接触する寸前にイ・バンヒに狙撃される。次には、密売商とつながりのあった研究員が殺害される。

彼らの動きや情報が敵に筒抜けになっている。情報部にスパイがいるに違いない。それは誰だ。ジュンウォンもジャンギルも、相棒を信じられなくなる中で、次の情報漏えいが起きる。

北朝鮮特殊8軍団のねらいは、国防科学技術研究所で開発された新素材液体爆弾CTXだとジュンウォンは目をつける。無色無臭の液体は探知されずにどこにでも持ちこめ、一定の光と熱を与えると、驚異的な破壊力で爆発する

これが敵の手に渡れば、脅威は甚大だ。だが、二人の眼前で、移送中のCTXが奪われる。

(C)Samsung Entertainment

実行犯のリーダーは、パク・ムヨン(チェ・ミンシク)軍服姿にロン毛でベレー帽がサマになる、『オールドボーイ』チェ・ミンシク。こういうキャラがいないと、スパイアクションは盛り上がらない。

町がひとつ吹っ飛ぶくらいのCTXを強奪され、ソウルに10か所仕掛けたと情報部に脅迫してくるムヨン。まずは30分後に1つ目。

指定の地域を探索するよう、柳葉敏郎っぽい見た目のOP局長(ユン・ジュサン)が指示するが、ビルが大破し多くの被害者が出る。この辺は王道の展開で盛り上げる。

北朝鮮特殊8軍団の目的は何か。それがカネであるのなら、CTX奪うより銀行を襲った方が手っ取り早いというジュンウォンの意見は正しく、また敵が金銭目的と分かると、この手の映画の興奮度は少しトーンダウンするものだ。

ここで1998年という時代設定が生きてくる。2002年のサッカーワールドカップ日韓共同開催に向けて、南北統一の機運が高まっている。

だが、耳障りのいい南北統一という言葉に騙され続けて50年、貧困や苦難を強いられてきた北朝鮮の国民感情を背負い、北朝鮮特殊8軍団はこの茶番を阻止しようとしている。

その舞台は、韓国大統領と北朝鮮主席が並んで観戦するサッカー南北交流戦のスタジアム。彼らはそこにCTXを仕掛けているのだ。

(C)Samsung Entertainment

スタジアムとテロ行為を組み合わせた映画は、『パニック・イン・スタジアム』『ブラック・サンデー』など、70年代にすでに存在したが、米国映画なのでアメフト試合だ。本作ではサッカー。ろくに試合内容は出てこないが、会場は本物っぽく見える。

CTXを爆破させるには光と熱が必要。デイゲームなのに照明を貴賓席に照らすことで、実行犯は起爆を試みる。はたして計画を阻止することができるのか。いっても、これで両国のトップが死んでしまったら映画にならないだろうけど。

南のジュンウォンとジャンギル、北のバンヒとムヨンの、誰が最後まで生き残れるかという、安易な想像を許さない展開もある。更にそこには、バンヒの正体が誰だったのかという、いかにも韓流ドラマらしい盛り上がりも含まれている。

(C)Samsung Entertainment

これだけ盛り沢山で二時間に収めているというのも、優秀だと思う。スパイアクションで2時間半あったら胃がもたれるところだが、本作には無駄がない。

テロリスト相手に同情の余地はないが、バンヒやムヨンの悲哀もきちんと描かれ、作品に深みを与えている。名作は色褪せないものだ。