『親切なクムジャさん』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『親切なクムジャさん』今更レビュー|小さな親切、大きな恨み

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『親切なクムジャさん』
친절한 금자씨
 Lady Vendetta

パク・チャヌク監督の復讐三部作の完結編。この主演とタイトルからは想像できない展開。

公開:2005 年  時間:114分  
製作国:韓国

スタッフ 
監督:         パク・チャヌク

キャスト
イ・クムジャ:       イ・ヨンエ
ペク・ハンサン先生:  チェ・ミンシク
ジェニー:      クォン・イェヨン
クンシク:         キム・シフ
チャン氏:         オ・ダルス
伝導師:       キム・ビョンオク
パク・イジョン:     イ・スンシン
チェ刑事:         ナム・イル
魔女:            コ・スヒ
コ・ソンスク:      キム・ジング
ウ・ソヨン:       キム・ブソン
オ・スヒ:         ラ・ミラン
キム・ヤンヒ:      ソ・ヨンジュ

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2005 CJ Entertainment Inc,& Moho Film All Rights Reserved.

ポイント

  • パク・チャヌク監督の復讐三部作と一括りにするには、過去作とは随分風合いが異なる。美しき復讐者、親切なクムジャさん。
  • 誘拐殺人犯の罪を13年の服役で償い、次に彼女が狙う獲物は誰なのか。グロいけど、美しく、そして切ない。三作の中では、もっとも心安らかに観ていられる作品。

あらすじ

6歳の少年が誘拐されて殺された事件で犯人とされた女性クムジャ(イ・ヨンエ)は、13年の服役を終えて出所。

刑務所では優しい人柄から“親切なクムジャさん”と呼ばれた彼女だが、本当は真犯人を知っていて、ずっと復讐を目指していた。

彼女の標的は13年前、クムジャの娘ジェニー(クォン・イェヨン)を殺すといってクムジャを脅し、自分の代わりに彼女を自首させたペク(チェ・ミンシク)

クムジャは養子に出されていたジェニーと再会すると、ペクへの復讐を開始していく。

今更レビュー(ネタバレあり)

チャングムからクムジャへ

『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』に続くパク・チャヌク監督の<復讐三部作>の完結編、『親切なクムジャさん』

原題と同じなのか分からないが、このタイトルは秀逸だと思う。うちのカミさんと本作を観たのは18年前だが、内容はすっかり忘れているであろう今でも、彼女は日常会話で「親切な」と言う時「クムジャさん」と付け足すほど印象に残っている。

しかもポスタービジュアルは主演のイ・ヨンエの少女コミックから抜け出たような麗しい姿。日本ではNHKでドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』が放映されていたこともあり、よもや復讐者となる女囚役を演じるとは思わなかっただろう。

(C)2005 CJ Entertainment Inc,& Moho Film All Rights Reserved.

だが、このギャップを楽しむかのように、イ・ヨンエは主人公クムジャを溌剌と演じる。出所する彼女を刑務所の前で迎える伝導師(キム・ビョンオク)と信者の集団。

「13年のお勤めご苦労さまでした」

出所者が豆腐を食べて身を清める韓国お馴染みの風習。だが、差し出された豆腐を振り払い、クムジャは元受刑者仲間のもとへ走る。

美人すぎる凶悪誘拐殺人犯

13年前の男児誘拐殺人事件。当時20歳のクムジャは、美人すぎる殺人犯として世間の注目を浴びた。極悪非道な犯行と騒がれながら、彼女の着ていた水玉のワンピースは流行し、映画化の案まで出た。

(C)2005 CJ Entertainment Inc,& Moho Film All Rights Reserved.

そして刑務所では表向き模範囚として日々祈りを捧げ、恐ろしい牢名主の魔女(コ・スヒ)を退治したり、仲間に腎臓を提供したり、或いは囚人同士で愛を交わしたり、あの手この手でクムジャは巧みに、女囚仲間の人心を掌握する。

こうしていつしか彼女は、<親切なクムジャさん>と呼ばれるようになる。刑務所内で次第に存在感をましていく様子は、まるで『ショーシャンク』の空似、いやクドカン『監獄のお姫さま』に、更にバイオレンスを足したような雰囲気。

出所後のクムジャは、次々と昔の女囚仲間を訪ねては協力を仰いでいく。

彼女には長年練ってきた大きな計画があった。まずは、彼女が殺した子供の両親の家を訪れ、謝罪の意を伝えようと自分の小指を切り落とす。これはまた、パク・チャヌク監督好みな過激展開だ。両親も驚きで言葉が返せない。

次に、昔刑務所で世話になったチャン氏(オ・ダルス)が経営するパン屋で働き、店主の息子クンシク(キム・シフ)と親しくなる。その店に客として、かつて彼女を逮捕したチェ刑事(ナム・イル)がやってくる。

このあたりから、ようやくクムジャの計画が明らかになってくる。以下、ネタバレになるので未見の方はご留意願います。

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良い誘拐、悪い誘拐

子供相手に英語教室をやっている男性教師ペク・ハンサン(チェ・ミンシク)

優しそうな先生が、家に帰ると元受刑者の妻パク・イジョン(イ・スンシン)と無言で食卓を囲み、食事中に突然、有無を言わさずバックから妻との性行為に走る。

二面性のあるこの人物こそ、クムジャの復讐計画の標的だった。

「世の中には良い誘拐と悪い誘拐があるの。裕福な家から身代金を取って子供を無事に返せば、金銭的なダメージも少なく、むしろ家族の愛情は深まるので、良い誘拐。でも、殺してしまえば、それは悪い誘拐」

生きていれば殺した子と同じ年齢のクンシクに、クムジャはそう語る。

だが、実は彼女は男児を殺していない。男児を殺してしまった共犯者ペクの罪をかぶって逮捕されたのだ。クムジャの赤ちゃんを誘拐したペクが、彼女に自首するよう脅迫した。

誘拐犯が我が子を誘拐される。本作は13年の服役を終え、その復讐をする物語なのである。

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  • ボーイフレンドの子を妊娠してしまった高校生のクムジャが、英語教室のペク先生に相談する。
  • 無事に出産はできたようだが、その後、二人は共犯で裕福な子を誘拐して、良い誘拐を企てる。
  • だが、男児を殺してしまったペクは、赤ん坊を誘拐して脅し、クムジャを自首させる。
  • クムジャは逮捕され、赤ん坊は養子に出されてしまう。

時系列を組みかえて、話をやや複雑に見せて深みを与えているが、シンプルに並べるとこういうことだ。

逮捕時、彼女の犯行を疑ったチェ刑事が男児の持っていたビー玉の色を尋ねる。卓球台の上で尋問しているのは、黄緑色と誤答した彼女に、オレンジ色のピンポン玉を転がしてみせるためだ。

この場面に説明的な台詞はないのだが、終盤でペクの携帯ストラップからオレンジ色のビー玉がみつかる。情報のチラ見せ具合がいい。

《予告編》 親切なクムジャさん

娘との言葉の壁

出所したクムジャは娘ジェニー(クォン・イェヨン)の養子先を苦労して突き止める。それはオーストラリア。

はるばる会いに行くと、13歳になっていたジェニーは、韓国語も分からないのに、一緒にソウルに戻る。殺伐とした雰囲気の本作で、この豪州の里親とのシーンはなぜかコミックリリーフ的扱い。

さて、帰国したクムジャは、女囚仲間の夫の毛ムクジャラさんに作らせた自家製の拳銃を持って、用心棒を倒しペクを監禁する。

(C)2005 CJ Entertainment Inc,& Moho Film All Rights Reserved.

ジェニーが母であるクムジャに書いた手紙には「私をどうして捨てたのか教えてほしい」とあり、彼女はペクに自分の韓国語を通訳させて、自分の思いとこれまでの経緯を娘に伝える。

この不思議な関係は興味深い。実の母娘が、言葉の壁で互いの意思疎通がうまくいかず、その原因を作った男に通訳をさせるしかないのだ。このアイロニーともどかしさ。

パク・チャヌク監督は最新作『別れる決心』で韓国語と中国語の意思疎通の不便さをうまく活用していたが、その原型ともいえる。

Lady Vengeance trailer

白い心で、白く生きて

クムジャはこのままペクを射殺することもできたが、携帯ストラップにいくつもぶら下がる勲章のようなアイテムから余罪を確信し、彼が隠していた誘拐殺人のビデオテープを、何組もの被害者家族を集めて鑑賞させる。

このシーンはかなり胸が痛む。10年以上前に殺された我が子の最期の姿に慟哭する親たち。そして、当然の帰着として、無能な警察にかわり、みんなでペクを処刑しようという流れになる。

満場一致でないところに深みを感じたが、それでも多数決で処刑は決行され、とどめをさすのが子供用のハサミというシュールな展開。

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『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』パク・チャヌク監督の復讐三部作の過去二作は、いずれも主人公が憎き相手に復讐するだけの物語ではなく、相手もまた、主人公に積年の怨嗟を抱えていた。双方に言い分があり、そのために後味の悪い結末を迎えた。

だが本作にはそれがない。三部作は完結編にして、ようやく復讐の連鎖が途切れたといえそうだ。

ペクにはクムジャを恨むだけの理由がない。彼女を恨むとすれば、捨てられた娘のジェニーだろう。はじめは母を殺したいほど恨んでいたジェニーだが、最後には打ち解け合っている。

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「白い心で白く生きて」

そう伝えてクムジャが娘にあげる手製の真っ白な四角いケーキ。これは冒頭に出てきた出所時の豆腐が姿を変えたものか。

それを口にした娘は、母にも食べてほしいと渡す。だが、母はそれを口にせず、パイ投げのように自ら顔を付けるのだ。そうまでしないと、誘拐に加担した自分の罪は清められないという思いなのだろう。