『パシフィック・リム』
Pacific Rim
ギレルモ・デル・トロ監督がありったけの日本アニメ・特撮愛を注入したロボットSF。
公開:2013 年 時間:132分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ギレルモ・デル・トロ 原案・脚本: トラヴィス・ビーチャム キャスト ローリー・ベケット: チャーリー・ハナム 森マコ: 菊地凛子(幼少期:芦田愛菜) スタッカー・ペントコスト: イドリス・エルバ ハンニバル・チャウ: ロン・パールマン <環太平洋防衛軍 (PPDC)> ニュートン・ガイズラー:チャーリー・デイ ハーマン・ゴットリーブ:バーン・ゴーマン テンドー・チョイ: クリフトン・コリンズ・Jr <イェーガーのパイロット> ハーク・ハンセン:マックス・マーティーニ チャック・ハンセン: ロバート・カジンスキー タン三兄弟: チャールズ、ランス、マーク・ルー サーシャ・カイダノフスキー: ロバート・マイエ アレクシス・カイダノフスキー: ヘザー・ドークセン ヤンシー・ベケット: ディエゴ・クラテンホフ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
2013年8月11日、太平洋の深海の裂け目から超高層ビル並の巨体をもった怪物が突如出現し、サンフランシスコ湾を襲撃。「KAIJU」と名付けられたその怪物によって、わずか6日間で3つの都市が壊滅する。
人類は存亡をかけて団結し、環太平洋沿岸諸国は英知を結集して人型巨大兵器イェーガーを開発。KAIJUとの戦いに乗り出す。
それから10年が過ぎ、人類とKAIJUの戦いは続いていた。
かつてKAIJUにより兄を亡くし、失意のどん底にいたイェーガーのパイロット、ローリー(チャーリー・ハナム)は再び立ち上がることを決意。日本人研究者の森マコ(菊地凛子)とともに旧式イェーガーに搭乗し、KAIJUと戦う。
今更レビュー(ネタバレあり)
オールKAIJU大進撃
日本のアニメや特撮が大好きなギレルモ・デル・トロ監督がロボットSFの実写映画としては破格の製作費をもとに夢を具現化したような作品。文字通りKAIJU映画である。
『パンズ・ラビリンス』や『ナイトメア・アリ―』や『シェイプ・オブ・ウォーター』に代表される、ダークファンタジーの鬼才のイメージを持って本作を観てはいけない。どちらかといえば『ヘルボーイ』系列のノリ。
イェーガーという名の戦闘ロボットとKAIJUとのバトルを素直に楽しむのがお作法のエンタメ作品。乗組員の人物像を描いたサイドストーリーはあってないようなものだが、問題はない。
2013年、グアム沖の深海に異世界と繋がる割れ目が生じ、そこから現れたKAIJUがサンフランシスコを襲撃。
その後もKAIJUの襲来は続き、被害を受ける環太平洋沿岸諸国は「環太平洋防衛軍 (PPDC)」を設立し、巨人兵器イェーガーで敵を迎撃するようになる。
イェーガーは複数機あるが、操縦にはパイロットの神経とマシンを接続する「ドリフト」という工程が必要。
また、脳神経への負荷軽減から、パイロット二名がそれぞれ右脳と左脳と役割を分担し「ブレイン・ハンドシェイク」で意識を同調させるため、息の合うバディが不可欠となる。
いかにも日本の特撮やアニメっぽい設定が、何とも懐かしい。
太平洋沿岸を守るイェーガーたち
主人公ローリー・ベケット(チャーリー・ハナム)は米国アンカレッジ出身のイェーガーのエースパイロットだが、KAIJUとの戦いで兄ヤンシー(ディエゴ・クラテンホフ)を亡くす。
戦いには勝ったものの、その後ローリーは戦線を離れる。ここまでがアヴァンタイトル。
KAIJUの襲来頻度が増えてきたことで、PPDCは劣勢となり、莫大な金のかかるイェーガー計画は沿岸に防護壁を建設する計画にシフトした。
◇
PPDCの司令官スタッカー・ペントコスト(イドリス・エルバ)は残存するイェーガーを集めてレジスタンスとなり、KAIJUとの勝負に挑む。
そして貴重なパイロットの一人として、ローリーを呼び戻す。ざっと、こんな感じで2025年の戦いが始まろうとしている。
残存しているイェーガーはわずか四体だ。
- 中国人のタン三兄弟(チャールズ・ルー、ランス・ルー、マーク・ルー)が操縦する、手が三本あるカンフーアクションのイェーガー
- ロシア人のサーシャ・カイダノフスキー(ロバート・マイエ)と妻アレクシス(ヘザー・ドークセン)の歴戦の勇士の夫婦パイロットのイェーガー
- シドニーの元空軍パイロット、ハーク・ハンセン(マックス・マーティーニ)と血気盛んな息子チャック(ロバート・カジンスキー)の父子イェーガー
- そして兄を失ったローリーは、ペントコスト司令官の秘蔵っ子でまだ訓練生の森マコ(菊地凛子)をパートナーに選び、旧型のイェーガーに乗り込む
三兄弟、夫婦、父子、そして出会ったばかりの男女と、バラエティに富む組み合わせ。はたして何組が生き残ることができるのか。
随所に日本サブカルへのオマージュ
KAIJUは万国共通語となり、襲ってくるKAIJUたちの名も日本語由来。菊地凛子の重要ポジションへのキャスティング(しかも幼少期には芦田愛菜だお)からも、デル・トロ監督の日本好きが窺える。
ニュート博士(チャーリー・デイ)が「メガネ、メガネ!」と床を手探りする場面まで、横山やすし由来のギャグに思えてしまう。
イェーガーの造形やパイロットとシステムとのシンクロ率が重要な点はエヴァに通じる気もするし、ロケットパンチはマジンガーZだし、KAIJUとの戦いは円谷プロっぽい。
観る人それぞれに自分が観てきた日本のアニメ・特撮との類似点が見つけられそう。
機械を装着したパイロットと同じポーズを巨大ロボットがとる仕組みで、B級ヒーローのジャンボーグエースを思い出す。エースと言えば、男女の主人公がシンクロしてヒーローになる点は、ウルトラマンエースか。
◇
KAIJUの死骸はカネになると秘かに収集する闇商人のハンニバル・チャウ(『ヘルボーイ』のロン・パールマン)。その着眼点は、菊地凛子も出ていた異色作『大怪獣のあとしまつ』の先を行く。あっちの死骸は銀杏の匂い、こっちは死んだナマズの匂いらしいが。
気になった点
ケチをつけたい点はいくつかある。
KAIJUがいっぱい登場するのは嬉しいが、どれも個性に欠け、観終わってどんな敵だったかが個別に思い出せない。ウルトラマンの怪獣なら、そんなことにはならない。
◇
同様に、四体しかないイェーガーも没個性で印象が薄い。ただこれは、メカニカルデザインのせいというよりは、夜の決闘シーンがほとんどだったことによるのだろう。
いや、確かに、夜の太平洋や香港のビル街で戦うのは、周囲のネオンが反射したり、イェーガー自身あちこち点滅したりと、絵的には美しい。それを『ブレードランナー』的効果といえなくもない。
ただ、あれは製作費不足を補う苦肉の策が奏功したものだ。本作のように潤沢に予算があるのなら、ちっとは陽の当たる所で戦わんかい!
そうは言って見たものの、イェーガーやKAIJUの姿を白日の下に晒す場合には、見せ方に工夫がほしい。かつて『エイリアン3』(デヴィッド・フィンチャー監督)で怪物の全身を冒頭にあっさり見せられて、拍子抜けしたことがある。
それに、イェーガーがあまりにピカピカで美しいと、『トランスフォーマー』に堕落してしまう懸念もある。
ちなみに、イェーガーの風貌や動きは、どこかヒュー・ジャックマンの『リアルスティール』(2011)のようだというのが公開当時の私の雑感だった。
それでも日本愛だろ、愛
難点はあるものの、ギレルモ・デル・トロ監督が日本のサブカル好きで撮っている幸福感とレスペクトが伝わってくるので、全体的には好感が持てる。難しい理屈抜きに、童心に帰って観ればいいのかもしれない。
潤沢な予算で世界を舞台に怪獣映画が作れるなんて、なんてすばらしく、また、羨ましいんだろう。
「ハリウッドではエイリアンたちはみんなニューヨークの地図しか持ってないみたいだけど、そんなのおかしいだろ(笑)?」
とデル・トロは言うけど、こちらでは怪獣も怪人も基本は東京近郊しか襲わないから、バランスはとれている。
◇
ラストはまるで過酷な任務を終え、上司の命令を無視して美女と抱擁を楽しむジェームズ・ボンドのようで、ギレルモ・デル・トロにしては大味。
なお、続編『パシフィック・リム:アップライジング』は、延期となった撮影スケジュールが『シェイプ・オブ・ウォーター』と重なったためデル・トロは監督降板。残念ではある。