『レディ・バード』
Lady Bird
グレタ・ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナンの最強女子タッグで贈る、誰もが共感の青春あるあるムービー。
公開:2017 年 時間:94分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: グレタ・ガーウィグ キャスト <マクファーソン家> クリスティン(レディ・バード): シアーシャ・ローナン マリオン(母): ローリー・メトカーフ ラリー(父): トレイシー・レッツ ミゲル(兄): ジョーダン・ロドリゲス シェリー・ユハン: マリエル・スコット <その他> ジュリー: ビーニー・フェルドスタイン ダニー・オニール: ルーカス・ヘッジズ カイル・シャイブル:ティモシー・シャラメ ジェナ・ウォルトン: オデイア・ラッシュ リバイアッチ神父: スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン シスター・サラ・ジョアン:ロイス・スミス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 世代・性別・国境を越えて、誰もがなぜか共感してしまう青春あるあるムービー。こんなの撮らせたらもはや無敵のグレタ・ガーウィグ監督が、世界に存在をアピールした本作。
- 気丈だが傷つきやすいレディ・バードは、シアーシャ・ローナンでしかありえないハマリ役。サクラメントを有名にした一作。
あらすじ
2002年、カリフォルニア州サクラメント。高校生活最後の年を迎えた17歳の多感な女子高生レディ・バード(シアーシャ・ローナン)は、NYの大学への進学を希望し、地元の大学に行かせたいと願う母親と大ゲンカ。
かんしゃくを起こし、走行中の車の助手席から衝動的に飛び降りたレディ・バードは右腕を骨折し、ギブスをはめて高校に通うはめに。
今更レビュー(ネタバレあり)
サクラメントに来てごらんよ
グレタ・ガーウィグ監督の最新作『バービー』の公開にあたって、彼女の自伝的作品でもあり、高い評価と大ヒットを手に入れた本作を観直した。
カリフォルニア州が快楽主義で満ちていると誤解しているひとは、サクラメントのクリスマスを見てごらんなさい。
冒頭にそう紹介されるほど、グレタ・ガーウィグ監督の出身地であり本作の舞台、サクラメントは質素で古臭い田舎町らしい。
主人公の17歳の女の子は、クリスティンという名を使わず家でも学校でもレディ・バードという自称で通す。家には失業寸前の父ラリー(トレイシー・レッツ)と、UCバークレー校まで卒業しながらスーパーのレジ打ちをする兄ミゲル(ジョーダン・ロドリゲス)。
だから生計を支える看護師の母マリオン(ローリー・メトカーフ)は、金銭面に口うるさいし、年頃の娘であろうが何事にも厳しい。
◇
大学見学の帰りの車中、助成金の出るカリフォルニア州の大学ではなく、東海岸に進学したいという望みを全否定されたレディ・バードは、うるさい母親に反発すべく、走行中のクルマから飛び降りて、以降、腕には” Fuck mum”と書いたギプスの生活。
シアーシャしか考えられない
保守的な田舎町の息苦しさが耐えきれず、都会に憧れる女子の青春映画。元気で多感で繊細なレディ・バードは、グレタ・ガーウィグが若き日の自身を投影したキャラなのだろう。
女優としてのグレタが、パートナーであるノア・バームバック監督作『フランシス・ハ』(2012)で演じた、活発な主人公フランシスの青春期にも見える。
本作でそのレディ・バードを演じるシアーシャ・ローナンは、台本読み合わせで監督が即決したほどの惚れこみよう。確かに、観終わると本作の主人公は彼女以外にもはや思い浮かばないフィット感。
シアーシャ・ローナンは13歳の頃の『つぐない』(2007)から若手女優として注目されて以来、『ラブリーボーン』・『ハンナ』そして『ブルックリン』と、途切れずに良い作品に出会えている。
◇
1950年代の『ブルックリン』で塀の前に佇む彼女が、18歳の誕生日に煙草とヌード雑誌を買ってドラッグストアの前に立つ、2003年の『レディ・バード』とオーバーラップする(画像上:『ブルックリン』下:『レディ・バード』)。
そこでバトンを受けたかのように、グレタ・ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナンの最強女子タッグから、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)という傑作が生まれる。
スマホの浸透してない時代の青春
レディ・バードはけして優等生キャラではない。親友のジュリー(ビーニー・フェルドスタイン)とは自慰行為談義に花を咲かせるし、学校の演劇で親しくなった男子生徒ダニー(ルーカス・ヘッジズ)とも交際を始める。
勉強もそれなりには頑張るけれど、女同士の付き合いも大事だし、恋愛にも精を出す。セックスへの関心だって人一倍高い。
ちょっとしたハプニングで、実はダニーがゲイだったことを知ってしまうレディ・バードは傷つくが、すぐにイケメン青年のカイル(ティモシー・シャラメ)と新たな出会いがあり、部屋の壁に書いた好きな人の名前を書き替える。
◇
一歩間違えば、ただのちょっとお下劣で軽薄な青春女子ムービーのカテゴリーに放り込まれてしまう題材。
だがそれを、グレタ・ガーウィグ監督の脚本力と、シアーシャ・ローナンの品格を備えた演技で、誰もが、ああそんな青春時代があったなと共感できる、気になる作品に仕上げている。
レディ・バード(てんとう虫)という名にこだわる主人公クリスティン。この言葉に特に意味はないそうだ。
「何でレディ・バードと呼んでくれないの? 約束したじゃない」
脚本の最初に置いたこの台詞から、グレタ・ガーウィグ監督は構想を膨らましていったのだ。
一方、2002年という時代には意味があったという。物語にスマホを採り入れたくなかったのだ。これはとてもよく分かる。スマホがなくて成立する現代劇というと、この辺がギリギリか。
以降の世界では、スマホや、時代によってはマスク、ChatGPTなんかがないと映画にならなくなる。それは映画にとって幸福なことだろうか。
共演者陣も充実
何事にも反発したくなる毎日、好きな男の子、ガールズトーク、厳しすぎる母との口論、それを優しく見守る父。男子校で青春期を過ごした私でさえ多少の共感を覚えるのだから、女性ならもっとシンクロ率が高いことは想像に難くない。
以前に観た時はあまり気づかなかったが、シアーシャ・ローナン以外の共演者の充実していること。
カイル役のティモシー・シャラメはもはやメジャー俳優だが、最新作『ボーンズ アンド オール』(2023)に比べると本作の頃はまだあどけなさもあり、ドキッとするほどの顔立ちの良さ。
もう一人のBFのダニー役はゲイの性癖を悩む良家の坊ちゃんだが、ルーカス・ヘッジズが適任。彼は本作の前年に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)でも繊細な若者を演じて高い評価を得ている。
◇
忘れちゃならない親友ジュリー役のビーニー・フェルドスタイン。
その後、同様にプロムナイトを題材にした青春ムービー『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』でも、本作のような元気な女子高生を演じているのだが、彼女が登場するだけで、作品から明るさと活気、そしてちょっと笑いが生まれる。
母との確執とその後
あとは母親役のローリー・メトカーフ。あいにく出演作はあまり目にしたことがないのだけれど、ベテラン女優であることは、本作の演技からも窺える。
いつも厳しく、節約生活にこだわる保守的な女性であり、娘を愛しているが、自分を曲げられず、優しい言葉もかけられない。
意地を張り合う母子のやりとりは見ていてつらい。ラストに空港でレディ・バードを見送ることができるのか、ハラハラさせる。あそこまで我を貫くこともなかろうに。
映画は最後、晴れてNYの大学に補欠合格を果たしたレディ・バードは、新天地でその自称を捨て、親に授かったクリスティンという名前で暮らしていく決意をする。
退屈だった故郷も、その町を出た時から、美しい思い出にかわるのだ。免許を取って初めてサクラメントを運転した彼女の感動と、それを母に伝えるメッセージがちょっと胸を打つ。