『ボーンズ アンド オール』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ボーンズ アンド オール』考察とネタバレ|ねえ初めての人って誰だった?

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『ボーンズ アンド オール』
Bones and All

愛は血の味がした。人喰いの若者の哀しい恋愛ストーリー。

公開:2023 年  時間:130分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:      ルカ・グァダニーノ
脚本:   デヴィッド・カイガニック
原作:   カミール・デアンジェリス
           『Bones & All』
キャスト
マレン:     テイラー・ラッセル
リー:     ティモシー・シャラメ
サリー:     マーク・ライランス
マレンの父:   アンドレ・ホランド
ジャネル(母): クロエ・セヴィニー
ジェイク: マイケル・スタールバーグ
ブラッド:
   デヴィッド・ゴードン・グリーン
バーバラ(母の養母):
         ジェシカ・ハーパー
ケイラ(リーの妹):  アンナ・コブ
遊園地の男: ジェイク・ホロウィッツ

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ポイント

  • 人喰いの血を受け継ぐ者のホラーというには、あまりに繊細で美しい若者のラブストーリー。
  • テイラー・ラッセルとティモシー・シャラメの組み合わせもよいし、そこに絡んでくる名優マーク・ライランスのちょっと不気味な善人キャラもいい。新時代の『ぼくのエリ』の登場といえる力作。

あらすじ

人を食べてしまう衝動を抑えられない18歳の少女マレン(テイラー・ラッセル)は、同じ秘密を抱える青年リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。

自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた二人は次第にひかれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリー(マーク・ライランス)の出現をきっかけに、危険な逃避行へと身を投じていく。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

マン・イーターの恋バナ

『君の名前で僕を呼んで』(2018)のルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメの再タッグとなればまたもや恋愛ものだろう。主演が『WAVES ウェイブス』テイラー・ラッセルというから、今回は同性愛ではなく男女の甘く切ない恋愛映画か。

という読みは振り返ってみれば、的外れではなかった。だが大きく予想と違ったのは、この二人が人喰いだったということだ。

ジャンルはホラーとなっていることも知らずに観ていたので、主人公の18歳の少女マレン(テイラー・ラッセル)が、突然に女友だちの手指をムシャムシャと食べ始めたのには、当のマレン本人同様にこちらも驚いた。

さすがに、彼女が人喰いだという点をネタバレ扱いにすると何も語れないので、公式サイトに記載のレベルまでは書かせていただく。

本作は、18歳になるまで自分が人喰いだと自覚していなかったマレンが、会ったことのない母親探し、つまりは自分探しの旅にでるロードムービーだ。

娘にそのことは一切悟らせず、極力家の中に閉じこめていた父親(アンドレ・ホランド)が厳しかった理由が今わかる。どうやら、父親は普通の人間。ではこれは、会ったことのない母の血筋か。

娘を助けるのかと思ったら父親は、「テープを聴いたら処分すること」と、『ミッションインポッシブル』の上司のようなメッセージとともに、すべてを語ったカセットテープを残してマレンから去る。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ここまでの展開は、ホラーといえばホラー。『サスペリア』のリメイクも手掛けたルカ・グァダニーノ監督だから、怖い方向に映画を導くことはたやすいだろうが、ここは安っぽいスクリーム系には流れない。

普通に青春期を過ごしてきた(はずの)少女の不安と葛藤を丁寧に描いてゆく。マンイーターの物語だが、バンパイアを美しく描いた傑作『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008、トーマス・アルフレッドソン監督)の醸す雰囲気に近い。

グレイハウンドのバスに揺られ、マレンは我が家バージニア州からまずはメリーランド州へ。全編を通じて、米国大陸を移動するたびに州名が略称(VAとかMDとか)で大きく示されるのが斬新。

さて、人気ない夜のバス停で彼女を待つ一人の老紳士がいる。サリーと名乗るその男性(マーク・ライランス)も人喰いだ。同類は遠くからでも匂いで分かるといい、マレンが何カ月も人肉を口にしておらず飢えていることを察する。

ハンニバル・レクター博士さながらに、上品な紳士然の振る舞いで彼女にも食事をすすめ、人肉にくらいつくサリー。演じるは、『ダンケルク』(2017)の英国の名優マーク・ライランス。こういう役もこなすとは、さすがの振幅。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

人肉を貪り喰うことにマレンは当然まだ抵抗があるが、目の前にご馳走があれば、食欲をどこまで抑えきれるのか。実に静かに、だが大胆にその様子が描写される。

人肉を喰わずにはいられない、元<普通の人間>の苦しみは、石田スイのコミック『東京喰種』カネキ君を思い出させる。

分かり合えるものとの出会い

だが、腹は減っても同類は食わないというこの老紳士サリーを、マレンはどうにも信用できない。

結局彼の元を去った彼女は、次の町で新たな同類の若者・リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。こうしてようやく、ラブストーリーは幕を開ける。

「初めての人は誰だった?」

若い男女の会話としては普通かもしれないが、意味するところはまるで異なる。二人とも、小さい頃にベビーシッターを食べてしまったのが最初の<食事>だと笑い合う。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

東京喰種やバンパイアと違って、どうやら人喰いは普通の食生活も送れるようだ。マレンとリーも、ダイナーで普通に食事をしコーヒーを飲んでいる。リーはマレンと違い、自分が人喰いだと以前から自覚している。

人喰いには何も特殊な馬鹿力も超能力もない。殺人に熟練するしか、獲物は得られないのだ。この設定は正しい。彼らを強くしてしまうと、ただのアメコミ映画っぽくなってしまう。

骨まで食べつくせ

人間が家畜を殺すように、彼らも獲物を殺さないと生きていけない。だが、食欲を満たすためとはいえ、見境なく獲物を選んで殺して食べることには抵抗がある。

そんな二人には、旅の途中で出会う、食べることに抵抗がなく、むしろ快楽的な連中が許せない。旅の途中でであったジェイク(マイケル・スタールバーグ)が楽し気に言う。

「フル・ボーンズ。骨まで全部食べ尽くしたことがあるか?あれは特別な経験だ」

それがタイトルの『ボーンズ アンド オール』の由来ということなのだろう。

主演の二人がいい。テイラー・ラッセルの強い意志を感じさせる表情、そしてティモシー・シャラメの、メジャーになっても変わらない、カッコよさとフラジャイルの共存

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

虚勢を張って生きてきたリーの内面にある脆さや繊細さが、マレンによって引き出される。「舐め尽くせ!」と歌いまくるKISSの曲よりも、たどたどしく交わす初めてのキスの方が、二人には馴染んでいる。

カニバリズムの映画ではあるが、それはひとつの設定に過ぎないように思う。世間に受け容れられず、疎外されてきた者たちの世界。

ルカ・グァダニーノ監督が米国を舞台に撮るのは初めてだそうだ。

だからあそこまでアクティブに各州を走り回るロードムービーになったのか、随所で必要以上に送電線や鉄塔、原子力発電所などがクローズアップされるのは、監督には物珍しい風景だったからなのか、興味は尽きない。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

母を訪ねて何千里

マレンの母親探しのロードムービーは、まずは母の養母であったバーバラ(ジェシカ・ハーパー)を訪ね、そして精神病院にいる母ジャネル(クロエ・セヴィニー)にようやく辿り着く。

はじめて母と出会い、その風貌にマレンは驚く。たしかに衝撃的ではあったが、物語はそこで特段の急展開はしない。母を訪ねて三千里ではなかったようだ。結局、マレンもリーも、互いをただひとりの理解者として、離れてはまたくっつく。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

だが、そこに一度は別れを告げた、マーク・ライランスが演じる正体不明な老紳士サリーが絡んでくる。執拗にマレンを追いかけてきたサリーだったが、冷たくあしらわれることで、ついに紳士面から本性を現す。

「一緒に並んで食べたのは、君が初めてだったのに…、このビッチ女め!」

この逆ギレ度合いが恐ろしい。

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

君の膵臓も食べたい

ネタバレになるが、最後にサリーはマレンの家に忍び込み、彼女の命を狙う。餌食になりかけたところを、リーの登場で何とか返り討ちにするが、その際にリーは致命傷を負う。

「先に食べてほしい」

「私はサリーなんか食べないわ」とリーに言いかけて、マレンは言葉の真意に気づく。死にそうなリーは、愛するマレンに食べられたいと思ったのだ。

骨まで愛して。愛する人を食べる。骨まで残すことなくいただく。この究極の愛のカタチは、けしてグロテスクではなく、哀しくも美しく描かれる。

君の膵臓どころか、君の全身、五臓六腑まで食べたい、いや、食べてほしい。『君の名前で僕を呼んで』ティモシー・シャラメによる、『君はナマで僕を食べて』

ラストのワンカット。マレンの幻想の中の草原に裸で寄り添う二人。二人はついに心身ともに結ばれたのだ。愛する人に食べられて、血と肉になるのなら本望。カマキリの雄のような心の境地か。