『AIR エア』
Air
ナイキが不人気ブランドだった時代、マイケル・ジョーダンと契約して伝説のシューズを売り出すまでの誕生秘話。
公開:2023 年 時間:112分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ベン・アフレック 脚本: アレックス・コンヴェリー キャスト ソニー・ヴァッカロ: マット・デイモン フィル・ナイト: ベン・アフレック ロブ・ストラッサー: ジェイソン・ベイトマン ジョージ・ラヴェリング: マーロン・ウェイアンズ ハワード・ホワイト: クリス・タッカー ピーター・ムーア: マシュー・マー デロリス・ジョーダン(母): ヴィオラ・デイヴィス ジェームズ・ジョーダン(父): ジュリアス・テノン マイケル・ジョーダン: ダミアン・ヤング デビッド・フォーク: クリス・メッシーナ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1984年、ナイキ本社に勤めるソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)は、CEOのフィル・ナイト(ベン・アフレック)からバスケットボール部門を立て直すよう命じられる。
しかしバスケットシューズ界では市場のほとんどをコンバースとアディダスが占めており、立ちはだかる壁はあまりにも高かった。
そんな中、ソニーと上司ロブ・ストラッサー(ジェイソン・ベイトマン)は、まだNBAデビューもしていない無名の新人選手マイケル・ジョーダンに目を留め、一発逆転の賭けと取引に挑む。
レビュー(まずはネタバレなし)
エア・ジョーダン誕生秘話
『AIR』というヒントだけでは、到底想像できない内容の映画なのだけれど、答えを知れば、なるほど納得のタイトルなのである。
そう、本作は、ナイキの伝説的バスケットシューズといえる「エア・ジョーダン」の誕生秘話。つい先月に劇場公開されたばかりで、観に行く機会を探していたら、早くもアマプラで配信とは驚いた。
◇
主人公はナイキのバスケットボール部門で働く営業担当ソニー・ヴァッカロ。NBAの新人マイケル・ジョーダンに目を付け、彼との契約にこだわったナイキ立て直しの中興の祖といえるこのソニーを、マット・デイモンが演じる。
そして、個性的なキャラで知られるナイキの創設者でCEOのフィル・ナイト役には、本作のメガホンも取るベン・アフレック。
ガキの頃から近所付き合いのこの盟友二人が組むというだけで、共同脚本が冴えわたった『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997、ガス・ヴァン・サント監督)の感動がよみがえる。
マット・デイモンとベン・アフレックは、『最後の決闘裁判』(2021、リドリー・スコット監督)でも共同脚本と共演を果たしているが、本作はそれに続くもの。
史実に近い作品とはいえ、過去二作のシリアスさとは違い、どこか肩の力の抜けた楽しい仕上がりになっている。
Just Do it
時代は1984年。冒頭からしばらくは、目まぐるしく次々と当時のサブカルチャーを紹介する。当時を知る世代には、この数分でツボのアイテムが複数みつかるに違いなく、ノスタルジーにかられること請け合い。
ジョージ・オーウェルの『1984』を意識したアップル社のCM(リドリー・スコット監督)、ペン回しにキャベツ畑人形、ルービックキューブ、ビデオゲーム等々。
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今では信じ難いことだが、その当時、ナイキの人気は冴えなかった。バッシュの市場でいえば、一番人気はアディダス、続いてコンバース。新興のナイキは大きく水をあけられている。
かの有名な<Just Do It>のキャッチコピーも、死刑囚の最後の言葉「さっさとやれよ」をパクったものだという怪しい話まで登場する。
◇
不振のバスケットボール部門では、25万ドルの年間予算でNBAの新人選手3人を選んで契約に漕ぎつけようとあれこれ人選に入っている。
だが、有望な選手にはライバルも好条件をオファーするし、何よりナイキは不人気だ。
意見がまとまらない中で、カジノのルーレットでも持ち金で一点買いするソニーが、ついにマイケル・ジョーダンの将来性に気づき、全額彼にオファーしようと言い出す。周囲は大反対だが、ここから歴史は動き出す。
個性的な面々勢ぞろい
いや、勿論我々は、その後のナイキの快進撃とエア・ジョーダンの熱狂的ブームの到来を知っているわけだが、それでもソニーがまずは社内を必死になって調整する。
更には最大の難関である、マイケル・ジョーダンとの交渉を見届けるまで、ドキドキしながら観てしまう。もともとアディダスのファンで、ナイキなど端から相手にしていないジョーダンと、どのように交渉に臨むのか。
直感と行動力の男ソニー・ヴァッカロとCEOのフィル・ナイトは当然ながらキャラが立っていて面白いのだが、彼らを取り巻く連中もみな個性的で、ソニーを相手に激しく言葉をぶつけ合う会話の応酬が耳に小気味よい。
◇
ソニーの上司でマーケティングの専門家ロブ・ストラッサー(ジェイソン・ベイトマン)。ただのスケボー好きなオヤジかと思えば天才的なデザイナーだったピーター・ムーア(マシュー・マー)。
ナイキのバイス・プレジデントにはハワード・ホワイト(クリス・タッカーだから、とにかくしゃべり倒す!)。そして、ジョーダンの代理人には高飛車なデビッド・フォーク(クリス・メッシーナ)。
ところどころに「プロセスより、結果がすべて」みたいなナイキの企業理念を差し込みながら、契約獲得に向けた準備が進んでいく。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ジョーダン専用のシューズとブランド
契約金額の単純比較では勝ち目のないナイキは、いかにアディダスやコンバースと違って、彼らがジョーダンを特別な存在だと評価しているかで差別化を図る。
それはつまり、人気商品とはいえ、お仕着せのバッシュを履かせるのではなく、彼専用にあしらえた特別モデルを作るということ。
機能性とデザイン性、どちらを優先するか。そして生み出された<エア・ジョーダン>のプロトタイプ、そして、マイケル・ジョーダンという人物そのものをブランド化してしまおうというアイデアだった。
この辺の話の流れは、池井戸潤原作のドラマ『陸王』を思い出させた。あちらは足袋のメーカーがランニングシューズを苦労して開発する話だが、実力のある選手に履いてもらおうとあれこれ努力し、選手の足に合わせた靴をつくるくだりがよく似ている。原作の元ネタはナイキの話だったりして。
ともあれ、ソニーは代理人の制止を無視してジョーダンの実家に直談判に訪れ、実権を握る母親のデロリス・ジョーダン(ヴィオラ・デイヴィス)と話をする。
他社のプレゼン内容を正確に予想し、「彼らはこう言うでしょう、次に、こう質問してみてください」などと言いくるめ、背水の陣で臨んだ直談判に効果があったか、ナイキもプレゼンの機会を得る。
罰金上等でブルズ・カラーの赤を多用
いや、それにしてもここに登場する<エア・ジョーダン>の初期モデルは斬新なデザインだ。知らなかったが、あのブルズ・カラーで赤が基調の配色は、NBAのルールに抵触し、1試合ごとに5千ドルの罰金が発生するそうだ。だが、ナイキはそれを肩代わりし、逆手にとって広告に使う奇策を思いつく。
「幸運なことに、あなたがこのシューズを履くことをNBAは止められない」
本編中には出てこないが、実際にはこんなナレーションがCMに使われたとか。
最終的にソニーがプレゼンで何を語ったかは映画で確認いただきたいが、結局ソニーはジョーダン一家のハートをがっちりつかむことに成功する。
だが、ジョーダン側も、もうひとつ追加条件を出してくる。エア・ジョーダンの収益の一部を求めるというものだ。猪突猛進でここまできたソニーも、この業界の常識を覆すカウンターオファーにはお手上げで、契約を諦めかける。
そして、この土壇場でフィル・ナイトが英断を下す。「やるべきだ、ソニー。役員会は任せろ」
CGなのかプロ根性で身体を作ったのか知らないが、マット・デイモンの小太り体型がジェイソン・ボーン時代とは別人レベル。
史実に基づくビジネス・ストーリーとしては『フォードVSフェラーリ』(2019、ジェームズ・マンゴールド監督)もあったが、あちらはクリスチャン・ベールの引き立て役の印象強く、マット・デイモンのファンには本作の方が楽しい。
いやあ、こういう作品観ると、またナイキのバッシュ買いたくなっちまうなあ。とりあえず、映画にも流れた「アイ・イン・ザ・スカイ」でも聴いて、ブルズ全盛期に思いを馳せるか。