『復讐者に憐れみを』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『復讐者に憐れみを』今更レビュー|復習するぞパク・チャヌクの復讐三部作

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『復讐者に憐れみを』 
 복수는 나의 것

パク・チャヌク監督の<復讐三部作>は、ここから始まる。不条理の連鎖で追い詰められていく主人公たち。

公開:2002 年  時間:117分  
製作国:韓国
 

スタッフ 
監督:     パク・チャヌク

キャスト
ドンジン:   ソン・ガンホ
リュウ:    シン・ハギュン
ユンミ:    ぺ・ドゥナ
リュウの姉:  イム・ジウン
ユソン:    ハン・ボベ
チェ刑事:   イ・デヨン
脳性麻痺の青年:リュ・スンボム
女ボス:    イ・ユンミ

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

ポイント

  • エグいけど観たいなのか、エグいから観たいなのか、ともかく復讐三部作はいずれ劣らぬパク・チャヌク監督の代表作。本作も今更ながら、その悲痛な物語の切なさと映像美に胸を打たれる。

あらすじ

聞くことも話すこともできないリュ(シン・ハギュン)は、腎臓病の姉(イム・ジウン)のために訪れた臓器密売組織に、全財産と腎臓を奪われる。彼は恋人のヨンミ(ペ・ドゥナ)と誘拐の計画を立てる。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

やはりエグかったパク・チャヌク

新作『別れる決心』の出来がとても良かったので、パク・チャヌク監督の代表作ともいえる『復讐三部作』を久々に振り返ってみることにした。

まずは第一弾の本作。三部作ではカンヌでグランプリに輝いた『オールド・ボーイ』に知名度では劣るが、同作へのプレリュードともいえるエグいショットの数々と、対照的に美しい構図の静かな映像

ああ、新作では薄らいでいたが、やはりパク・チャヌク監督は、生理的に受け付けないようなグロな絵が昔から好きだったねと再認識。

本作は公開以来の再観賞でストーリーもほぼ忘れていたが、はじめから分かりやすい展開ではない。観ているうちに、ちょっとしたモヤモヤが徐々に晴れていくような作りは、なかなか凝っている。

冒頭では、ラジオのDJが主人公の聴覚障害のある青年リュウ(シン・ハギュン)の手紙を読んでいる。

彼の唯一の肉親である姉(イム・ジウン)は重度の腎臓疾患で苦しんでいる。彼は自分の腎臓を提供し姉を救おうと決意するが、医師からは血液型が合わないと拒絶され、退院してドナーを待つように言われてしまう。

腎臓提供をめぐる不幸の連鎖

二人のアパートはリュウには聴こえないが生活騒音がひどく、姉は眠れず、病気に苦しむ毎日。そこからしばらくは、グリーンに染めた髪がイマドキっぽい、姉想いの純朴な青年リュウの不運が続く。

勤務する工場からは不景気で無理やり退職金を渡され解雇、更には、公衆トイレに貼られた臓器移植の貼り紙をみて、姉の腎臓を買いに行くが、有り金と自分の腎臓を騙し取られて、逃げられてしまう。

そこに主治医から、「喜びなさい、ドナーが現れたよ」と。だが、手術費用はもう残っていない。万事休す。

韓国の臓器売買組織ものといえばウォン・ビン『アジョシ』(2010)を思い出す。本作も女親分(イ・ユンミ)と屈強な男二人(あとで息子と分かる)が、まだ鉄骨と床しかない吹きっさらしの建設中のビルの上階でリュウと取引する。

怪しさ満点だが、リュウには思い至らない。そんなヤバい状況だが、簡易な階段をアジトに昇っていく彼らを横から逆光でとらえる映像が、むちゃくちゃカッコいい。

よい誘拐だってあるのよ

さて、そんな追い込まれたリュウを罵倒しながら、手を貸してくれるのが女友だちのユンミ(ぺ・ドゥナ)。可愛い顔して、反政府の活動家でもあるが、やっていることは、町でアジビラを配る程度のようだ。

だが、彼女は「資産家の子供を誘拐して、姉の手術費用を手に入れよう。これは子供も殺さない、よい誘拐だ」と。

腰の引けるリュウを連れ出し、彼の元勤務先の社長・ドンジン(ソン・ガンホ)の娘ユソン(ハン・ボベ)を、まんまと軟禁することに成功する。

ユソンは、一日中遊びに付き合ってくれる彼らを誘拐犯とは思わず、リュウを父の会社の後輩だと信じている。だが、うまくいくはずの誘拐が悪い方向に転がっていくのは映画のお約束。

この時点では、社員を次々に解雇し(誘拐時にも別の社員が社長に直談判して、カッターで切腹を試みていた)、資本家のドンジンは悪役として描かれていた。

だが、娘を誘拐された父親となったドンジンは、後半から主役として存在感を増していく。

ソン・ガンホペ・ドゥナという、今の韓国映画界を背負って立つ二人は、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』の20年前に本作で共演していたのだ。あちらは臓器ではなく人身売買だけど。

勘違いしてました

実は今回の鑑賞では我が家の環境では若干画面が暗かったせいか、リュウとユンミの関係が途中までよく分からず、しばらくペ・ドゥナが姉だと勘違いしていた。

重病なのに元気だなと不思議に思っていたのだが、少女と遊ぶ女性が姉だと分かり、やっと腑に落ちた。

もう一つ恥をさらすと、ドンジンが別の社長とベンツに乗り、そこに社長令嬢も二人いたものだから、きっとリュウたちは社長令嬢と間違えて使用人の娘を誘拐してしまうのだろうと思い込み、これも混乱材料となった。

考えてみれば、それでは『天国と地獄』のパクリになってしまうな。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

川のそばで起こる不運

さて、うまくドンジンから身代金をせしめたリュウたち。これで姉の手術が受けられると浮かれて部屋に戻る。

「お姉ちゃんはお風呂だよ」とユソンが言うが、流れる水の音はリュウには聴こえない。ああ、不吉な効果音。

置き手紙を読み、彼は風呂で自殺した姉を見つけ慟哭する。誘拐のことを姉には黙っていたが、弟の退職金明細を見つけ、全てを悟ったのだ。

「私が死んだら、川のそばに埋めて」 

姉との楽しい幼少期の思い出のある河原に行き、リュウは姉の遺体を石の下に隠す。だが、不運は続く。

居合わせた脳性麻痺の青年(リュ・スンボム)から逃げて川に溺れるユソンの叫びが、背を向けるリュウには聴こえなかった。

復讐者とは誰のことか。悪徳臓器売買組織に騙されて、姉を死なせる羽目になったリュウか。それとも、結果的に彼ら誘拐犯に愛娘を殺されることになった父ドンジンか。

ここでは、もはや資本家ではない。娘の解剖にも立ち会い(凄いな)、復讐心をもやす。飾られた父娘の写真から抜け出たユソンの幽霊が、川の水を滴らせながら父の前に現れ、それを抱き締めるドンジン。ここは泣かせる。

見つけたら、どうするのか

チェ刑事(イ・デヨン)に金を握らせ捜査情報を得て、ドンジンは一歩ずつ真犯人に近づいていく。

死んだ娘が持っていたリュウの姉の電話番号の紙きれ、そのアパートは脅迫の写真と同じ部屋、隣の部屋から聞こえるラジオ番組から、DJの持っていたリスナーはがきにたどり着く。

そして河原の石の下に姉の遺体をみつけ、その場にいた脳性麻痺青年の証言で、ユンミのクルマと居所が割り出される。こんなにトントン拍子に行き過ぎては、警察も形無しだが。

一方、リュウとユンミも臓器売買組織を虱潰しに探し、依頼客を装ったユンミがついにアジトを見つけ出す。サーティワンでしこたまドライアイス入手してアイスケーキ捨てる男が不気味だ。そんなに目立つ手を使わんでも。

ドンジンもリュウも、復讐する相手を執拗に見つけ出し、殺そうとする。

リュウがこの組織のボス母とせがれたちをぶち殺して腎臓食らうあたりまでは想定内。だが、ドンジンの報復は想像を超えた。

ネタバレになるが、まさかユンミに高圧電流で拷問した挙句に殺してしまうとは。ペ・ドゥナ耳をなめてから電極クリップつけるプロセスが怖い。この辺はパク・チャヌク監督のテイストだろうな。

不条理と運命の皮肉

ユンミの遺体を立たせて狭いエレベータに乗せる警察。そのエレベータに偶然を装い、居合わせるリュウ。刑事とリュウがユンミの遺体を挟んで並び、リュウは隠れて彼女の手を繋ぐ。何と切ない構図のショットを思いつくのだ。

そして最後には、互いに愛する者を殺された復讐者同士がそれぞれの家で待ち伏せする直接対決。勝敗はというと、さすがに話の流れからは、リュウの方が分が悪い。ドンジンはリュウを川の中で殺し、バラバラに切り刻む。

どちらが勝っても後味の悪い話なのだが、この後にもうひとつの展開があった。

「私の仲間はテロ集団だから、私を殺すとおじさんも100%殺られるよ」

生前にユンミがドンジンに言っていたのは、ハッタリではなかったのだ。

タバコをふかし続けるオッサンたちが河原に現れ、次々とドンジンを刺し、ナイフで判決文を胸に突き立てて去っていく。それはかつてユンミが書いていたアジビラだ。

プロの殺し屋には見えない、ただの中年男性たちがタバコ片手に復讐に関与する。その不気味さと不条理さが、本作でパク・チャヌク監督の残したラストピースなのだろうか。

ああ、どの復讐者にも犠牲者にも、憐れみを。