『アメリカの友人』『リプリーズ・ゲーム』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『アメリカの友人』『リプリーズゲーム』レビュー|リプリーがいっぱい③

記事内に広告が含まれています。

アメリカの友人(1977)
リプリーズ・ゲーム(2003)

『アメリカの友人』
Der amerikanische Freund

公開:1977 年  時間:126分  
製作国:ドイツ

スタッフ
監督・脚本:    ヴィム・ヴェンダース
原作:      パトリシア・ハイスミス
           『アメリカの友人』
音楽:       ユルゲン・クニーパー
撮影:        ロビー・ミューラー

キャスト
トム・リプリー:    デニス・ホッパー
ヨナタン・ツィマーマン:ブルーノ・ガンツ
マリアンネ:     リサ・クロイツァー
ラオール・ミノー:  ジェラール・ブラン
デルワット(贋作画家): ニコラス・レイ
イグラハム(標的):ダニエル・シュミット
マフィアのボス:   サミュエル・フラー
マルカンジェロ:ペーター・リリエンタール

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

贋作を売りさばいているアメリカ人の画商リプリー(デニス・ホッパー)は、オークション会場で額縁職人のヨナタン(ブルーノ・ガンツ)と出会う。

厄介な仕事仲間のミノー(ジェラール・ブラン)から殺人を請け負う男の斡旋を頼まれたリプリーは、病で余命わずかだと聞いていたヨナタンの名前を出す。ヨナタンは多額の報酬を妻子に残すため殺人を引き受けるが…。

今更レビュー(ネタバレあり)

トム・リプリーがいっぱい

パトリシア・ハイスミスの同名原作をヴィム・ヴェンダース監督が映画化した犯罪サスペンス。デニス・ホッパーが主人公のトム・リプリーを演じる。

ピカレスク映画の金字塔『太陽がいっぱい』アラン・ドロンが、そしてそのリメイクでマット・デイモンが演じた、あの悪党リプリーだ。

パトリシア・ハイスミスのリプリー・シリーズは『太陽がいっぱい』に始まり『贋作』『アメリカの友人』と続くが、本作は同名原作に一部『贋作』のエピソードを加えた構成になっている。

なお、同名原作からはジョン・マルコヴィッチ主演の『リプリーズ・ゲーム』(2002)が撮られており、こちらは『アメリカの友人』の小説原題“Ripley’s Game”をタイトルにしている。

余計なお世話だが、”The Talented Mr. Ripley”『太陽がいっぱい(Plein Soleil)』 に、” Ripley’s Game”『アメリカの友人(Der amerikanische Freund)』にと、原作名は米国外向けの方が粋なタイトルになるようだ。

悪徳画商とまじめな額縁職人

さて、そんな能書きはまったく知らずとも、本作は純粋にヴェンダースの男同士の一風変わった友情ものとして十分楽しめる。

NYで贋作画家デルワット(ニコラス・レイ)に描かせた作品をハンブルグのオークションにかけ荒稼ぎする画商リプリー(デニス・ホッパー)

作品の真贋に疑いを抱く目利きの額縁職人ヨナタン(ブルーノ・ガンツ)と出会うが、「あんたの噂は聞いてるよ」とリプリーは握手を拒まれる。

豪邸に住むリプリーのもとに、昔の仕事仲間ミノー(ジェラール・ブラン)が現れ、「一度きりの殺人を請け負う人物を紹介しろ」と迫られる。

リプリーは、重い血液の病気にかかっていると聞いたヨナタンの名を出し、ミノーは額縁店を訪ねる。こうして、幼い息子と三人家族の善良な額縁職人は、知らぬうちにリプリーのゲームに踊らされていく。

ヴェンダースならではの映像に痺れる

サスペンス仕立ての物語の面白さもあるが、目を惹くのは実にヴィム・ヴェンダース監督らしい町並みの風景ショットと美しい色使いだ。さすがロビー・ミューラーのカメラということか。

この色合いと風合いは、本作の魅力を最大限に引き出している。70年代のマンハッタン、そしてハンブルグ、華やかなパリでさえ、彼らの手にかかると、どこかもの寂しく、はかなく、それでいて懐かしい感じがする。

©Wim Wenders Stiftung 2014

NYなら冒頭にカウボーイハットのリプリーが降りるイエローキャブアトリエの赤茶色の外壁贋作のブルーの対比。抜けにそびえるWTCのツインタワー。薄汚れたハドソン川沿いのハイウェイと古びた町並み。

ハンブルグは更に寂しい。海沿いの駐車場とヨナタン一家の住むアパート。朱色の旧型ビートルが絵になる。そして妻マリアンネ(リサ・クロイツァー)赤いコートに、息子の黄色いレインコート

町全体が寂しくくすんでいるので、これら三原色の小道具が映えまくる。だがそこにはゴダール『気狂いピエロ』的な暴力的な派手さはなく、ひたすら控えめな発色が目に優しい。

©Wim Wenders Stiftung 2014

これらの風景ショットがどこか懐かしさを与える一方で、自身の病状悪化と殺人依頼の不安を抱えるヨナタンの心理を反映させる場面のロケ地設定もうまい。

パリに行っては、ポストモダンな空港に未来的なシトロエンCX、なぜか障子張りで和風なホテル、窓の外には本家<自由の女神>。遠くにかすむエッフェル塔でパリと分かるが、当然華やかさと無縁な演出。何せ、このパリの診察結果が、ヨナタンを殺人へと追い込んでいくのだから。

そしてハンブルグでは、かかりつけの診療所までの長く暗い地下通路、延々と地下に伸びていくような、無人で無機質な地下鉄のエスカレータ、標的の男イグラハム(ダニエル・シュミット)を追い回す地下鉄の駅構内もひたすら人気ない。

委託殺人の顛末

以下、ネタバレになる。病状も悪化し、妻子のために金を残したいヨナタンが殺人を引き受ける。

とはいっても、一介の額縁職人がヒットマンの仕事などできるのか。地下鉄内で下手な尾行を続け、ヨナタンが獲物の隙を窺う展開はハラハラさせる。そもそも、このターゲットが悪人なのかもよう知らんし。

そして一件目をなんとか無事に完遂したヨナタンに、ミノーから追加発注。うーん。確かにはじめに一人か二人やってくれとは言っていたが、ここで「報酬は半額、残りはもう一人やってから」と言われるとつらい。

さすが悪行の世界は厳しい。というか、これは流れからいって、次の仕事は失敗して殺されちゃうパターンじゃないか。

©Wim Wenders Stiftung 2014

そういう状況だから、二件目の現場となる列車の中、危機一髪の状況でリプリーが現れるのは、ムチャクチャとはいえ盛り上がる。

自分がまいた種とはいえ、二件目の殺人までは想定外だったリプリーが、客としてヨナタンと接するうちに芽生えた不思議な友情か。ああ、アメリカの友よ。

©Wim Wenders Stiftung 2014

アメリカの友人か、愛妻か

ここから先、すっかりサスペンス的展開から意味不明なアクションムービーに変異するが、そこもまたヴェンダースっぽくていいのだ。

「アメリカの友人と好きにすればいいじゃない!」と、心配をよそに勝手に怪しい行動を続けるヨナタンに呆れる妻マリアンネ。

夜明けの広大な海岸でマフィアのボス(サミュエル・フラー)の遺体を乗せたクルマを爆破させるリプリー、そして彼を置き去りにし、マリアンネとクルマで逃げるヨナタン。

©Wim Wenders Stiftung 2014

途中で彼は病状が悪化し息絶え、暴走するビートルは海岸線の斜面をきれいにスピンしながら、かろうじて崖っぷちで停車する。丸みを帯びた赤い車体が絵になる。

アメリカの友人や、夫を気遣う妻の心配をよそに、結局委託殺人とは関係なく、病魔に殺されてしまうヨナタン。パリから届いた偽りの検査結果が正しかったという皮肉。

リプリーとヨナタンの心情把握のために、より原作に近いという、『リプリーズ・ゲーム』を観てみたい。だが、クルクル回るビートルの映画的な美しさは、そんな理屈を超越してしまっているのだが。