『SR サイタマノラッパー』
『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』
『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』
『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』
公開:2010 年 時間:96分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 入江悠 キャスト アユム: 山田真歩 ミッツー: 安藤サクラ マミー: 桜井ふみ ビヨンセ: 増田くみ クドー: 加藤真弓 MC IKKU: 駒木根隆介 MC TOM: 水澤紳吾 アユムの父: 岩松了 DJ T.K.D: 上鈴木伯周 劉くん: 杉山彦々
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
高校時代はラップグループを作るほどヒップホップ音楽に夢中だったアユム(山田真歩)も、卒業後は群馬の実家の蒟蒻屋を手伝いながら、退屈な毎日を過ごしていた。
ある日、アユムはかつてのラッパー仲間ミッツー(安藤サクラ)らと再会し、一夜限りのライブを実現させようとする。しかし、仕事や結婚などの現実的な問題が、彼女たちをどんどん追い詰めていく。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
今度の主役は女子ラッパー
『SR サイタマノラッパー』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得し、副賞である次回作支援を元に制作された本作。入江悠監督、さすがっす。
二作目でメンバーが女性に変わるのは、石井隆監督の『GONIN2』(1996)のようであるが、この視点の切り替えは結構新鮮で妙案だった。男同士のラップバトルだと、どうしてもスタイルからファッションから似通ってしまい、前作と差別化ができないからだ。
今回の舞台は群馬。SHO-GUNGの残ったメンバーMC IKKU(駒木根隆介)とMC TOM(水澤紳吾)が前作の仲違いから復縁したのか、亡くなったDJ T.K.Dことタケダ先輩(上鈴木伯周)が伝説のライブを行ったといわれる聖地・群馬を訪れる。
そこで出会ったのが、かつて高校時代にラップグループ<B-hack>(美白ですね)を結成しタケダ先輩の一番弟子を自認していたアユム(山田真歩)。
実家の蒟蒻屋を手伝っているアユムのほか、旅館が借金まみれで東京から帰ってきたミッツー(安藤サクラ)、ソープ嬢のマミー(桜井ふみ)、走り屋のクドー(加藤真弓)、父が市長選挙で忙しいビヨンセ(増田くみ)が<B-hack>の元メンバーだ。
主人公はアユムだが、厳格な父(岩松了)のもと、古風な制服を着て蒟蒻づくりに精を出すアユムの姿が、奇しくも同時期公開の『川の底からこんにちは』(石井裕也監督)のしじみ工場で働く満島ひかりと重なる。
GRグンマノラッパー
本作はSRでなくGRグンマノラッパー(それも女子)の映画というわけだ。IKKUたちの影響でタケダ先輩に憧れた日々を思い出し、アユムが<B-hack>のメンバーを訪ねては再結成を持ち掛ける。
その展開は、その後に撮られた『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)とか、『ピンカートンに会いにいく』(坂下雄一郎監督)の原型になるものだ。特に後者は、本作の主役である山田真歩が、再結成のアイドルグループのメンバー役をやっており、結構笑える繋がりだ。
◇
再結成した<B-hack>は、あくまで群馬でのライブにこだわり、ステージ造りの資金集めを始める。閑散としたプールサイドのステージで水着姿のメンバーがアイドルまがいの振付でラップを披露し、なかなかイタい感じ。この辺の居たたまれない空気は、女子ラッパー設定ならでは。
なお、本作でもワンカット多用につき、このステージも遠景主体で彼女たちの水着姿が映えるフルショットはない。結局、このステージがきっかけで「こんなのラップじゃねえよ」と若手二人が離れていき、メンバーはアユム・ミッツ―・マミーの三人になる。
今回もワンカット多用に大健闘
本業が女優やモデルの女性たちばかりなので、正直ラップに関しては、聞き惚れるほどうまくはない。そのため、素人っぽさは残るが、ワンカットの映像ばかりの中で、ここまできちんとラップを歌いきるプロ根性は大したものだ。
小ネタもなかなか秀逸。河原のタケダ先輩の聖地に置かれた人面の岩、選挙応援のウグイス嬢がラップになってしまうミッツ―、資金捻出のための自社製蒟蒻の風俗への横流し(使い方は言えない)、グループ名を言い間違えられて「美肌じゃねえよ、<B-hack>!」と正すアユムも笑えた。
そうそう、前作ではBrother(ブロ)とブロッコリー(ブロ)をひっかけていたが、本作ではブラジル人労働者(ブラ)が登場する。
今回 IKKUとTOMの出番は多くはないがうまく絡んでいるし、群馬とサイタマのディスり合いも、『翔んで埼玉』よりは抑制が効いている。
◇
終盤、集めた資金の持ち逃げで中絶費用に流用してしまうソープ嬢のマミー。同じく、東京に逃げ帰るミッツ―。そして、復活ライブの話は暗礁に乗り上げる中、アユムの母親の三回忌が行われる。
「アユムちゃん、ラップってのをやってんだって? やってみてよ」とはやし立てる親族はじめオッサン連中。この手のつらい展開は「社会人ラッパーあるある」のようだ。『気まぐれコンセプト』にも書いてあった。
ここでぶち切れしたアユムがラップを始めると、IKKUやTOMがやってきて、更にはマミーやミッツ―も参入し、みんなでラップを回し始める。圧巻の長回しショット。これは質。量ともに前作のラストを超えたかも。
ラストに流れる<B-hack>の曲。「丸そうなダルマ 大体ともだち」の替え歌歌詞には思わず笑ってしまった。