『すべてが変わった日』考察とネタバレ|クラーク・ケントを育てた夫婦

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すべてが変わった日』 
 Let Him Go

ケビン・コスナーとダイアン・レインの初老の夫婦が、虐待されている孫の奪還にノースダコタの秘境の地へ向かう。

公開:2021 年  時間:113分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本: トーマス・ベズーチャ
原作:     ラリー・ワトソン
                  『Let Him Go』
キャスト
<ブラックリッジ家>
マーガレット: ダイアン・レイン
ジョージ:   ケビン・コスナー
ローナ:   ケイリー・カーター
ジェームズ: ライアン・ブルース
<ウィーボーイ家>
ブランチ:  レスリー・マンヴィル
ドニー:     ウィル・ブリテン
ビル:   ジェフリー・ドノヴァン
<原住民>
ピーター・ドラッグスウルフ:
      ブーブー・スチュワート

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

1963年、元保安官のジョージ・ブラックリッジ(ケビン・コスナー)と妻のマーガレット(ダイアン・レイン)は、不慮の落馬事故により息子のジェームズ(ライアン・ブルース)を失ってしまう。

三年後、未亡人として幼い息子のジミーを育てていた義理の娘のローナ(ケイリー・カーター)は再婚するが、相手のドニー・ウィーボーイ(ウィル・ブリテン)は暴力的な男だった。

ドニーは、ローナとジミーを連れてノースダコタ州の実家に転居し、そのことを知ったマーガレットは、義理の娘と孫を取り戻すことを決意する。

しかし、ジョージとマーガレットを待ち受けていたのは、暴力と支配欲でウィーボーイ一家を仕切る異様な女家長のブランチ(レスリー・マンヴィル)だった。

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レビュー(まずはネタバレなし)

何が変わってしまったのか

連れ去られた孫を奪還するために、危険を顧みず敵地に乗り込んでいく初老の夫婦を、ケビン・コスナーダイアン・レインが演じる。二人が夫婦役をやるのは『マン・オブ・スティール』クラーク・ケントを育てる養父母役以来ということになる。

夫婦は牧場主、夫は元保安官、先住民の相棒が途中から加わるなど、どうみたって設定は現代風の西部劇であるが、面白いことに、中盤からサイコ・スリラーの匂いが漂ってくる、不思議な作品。ラリー・ワトソンの原作『Let Him Go』は未読であるが、原題も邦題も、つかみどころがない。

監督は『幸せのポートレート』トーマス・ベズーチャ。同作以外の作品は日本では劇場未公開らしいので、あまり知られていない人物に思えるが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の今後公開予定のドラマ『Secret Invasion』の監督に抜擢されているとのこと。

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映画は冒頭、牧場を経営するブラックリッジ一家。大黒柱のジョージ(ケビン・コスナー)と妻のマーガレット(ダイアン・レイン)が息子夫婦と生まれたばかりの孫の三世代で暮らしている。

幸福を絵に描いたような生活だが、窓から鞍を乗せた馬だけが歩いているのを見て、マーガレットが顔色を変える。
息子のジェームズが乗っていない! 

知らせを受けたジョージが馬を走らせ様子を見に行くと、落馬して首を折った息子が川辺に倒れている。悲痛な面持ちで息子の瞼を閉じる父。その日、すべてが変わってしまう。

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マーガレットが見てしまったもの

次のシーンでは、夫婦が喪服を着て息子の葬式かと思ったら、なんと結婚式! 孫を連れた嫁が、ほかの男と再婚するのである。この辺は、家族構成に説明がないため、わかりにくい。

はじめは、この嫁のローナ(ケイリー・カーター)が二人の実の娘なのかと思った。そうでなければ、挙式に参列しないだろう。だが、どうやらローナは身寄りのない女性らしく、二人が実の親代わりになっているようだ。

彼女の再婚相手はドニー・ウィーボーイ(ウィル・ブリテン)。孫のジミーを連れての質素な新婚生活が始まり、ジョージとマーガレットは、二人だけの生活に戻る。

そしてある日、マーガレットは偶然にもクルマの中から目撃してしまう、ドニーが街中でジミーとローナに暴力をふるう現場を。

出た!またもやDVものだ。再婚相手の子供を虐待する事件は、日本でも後を絶たないが、妻子に暴力をふるうクソ亭主の話は、欧米でも珍しくないのだろう。先日も『サンドラの小さな家』(フィリダ・ロイド監督)を観たばかりだ。

あれはダブリンの話だったが、妻が敢然と夫に立ち向かう。本作のローナには、そこまでの行動は期待できそうにない。だから、代わりに祖父母が孫を守るのだ。マーガレットの厳しい眼差しからは、その決意が窺える。

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夫に頼らない強気な妻

彼らの家庭の様子を探ろうとケーキを焼いて乗り込むマーガレットだが、すでに部屋は夜逃げの後ようにもぬけの殻。彼女は、ドニー・ウィーボーイの実家に乗り込むことを決意し、クルマに荷物を積む。

夫の拳銃も無断で拝借するが、シェリフバッジのチラ見せで、夫が元保安官と分からせる。トーマス・ベズーチャ監督は、少しずつネタを明かしていくスタイルが好きらしい。

面白いのは、ここまでマーガレットは、自分ひとりで母子を奪還する気でいることだ。ジョージに全てを話して旅立とうとするが、夫に付き合わせるかは「自分で決めてね」のスタンスなのである。

勿論夫が留守番していたらドラマにならないので「水道の元栓を締めてくるよ」という回答になるのだが、ケビン・コスナーの元保安官という強力な援軍を頼らない気丈さが、現代風なアレンジに見える。

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元保安官だからということもあって、ジョージは沈着冷静で常識的な考えの持ち主だ。孫を奪還するといっても、子供の親権争いとはわけが違う。

何せ相手は正当な母親と、その再婚相手なのだ。もしローナが戻りたくないと言ったら、法的にはこちらに勝ち目はない。

「まして俺たちは若くはない。いつまでも孫の世話はできないぞ」
理屈を語る夫だが、妻は聞く耳を持たない。彼女の目には、あのドニ-の暴力が焼き付いているのだ。

だが、荒馬の調教もお手の物のマーガレットに、うまく乗せられたか、気がつけばジョージも孫の捜索に本腰を入れている。そして二人は、いろいろな手がかりから、どうにかノースダコタの田舎町にあるウィーボーイ家にたどりつく。

映画『すべてが変わった日』特報

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

女傑ブランチのラスボス感が凄い

孫と嫁が連れていかれたであろうウィーボーイの一族で、ドニーの兄弟らしいビル・ウィーボーイ(ジェフリー・ドノヴァン)にまず出会えた二人だが、ここからの展開が何とも不気味なのだ。

『注文の多い料理店』ではないが、あれこれと勿体つけて、焦らしに焦らし、なかなか孫たちに会わせてくれない

そして兄弟だという大柄の男たちがぞろぞろとでてきたかと思えば、その母親であるブランチ・ウィーボーイ(レスリー・マンヴィル)がようやく登場。

ラスボス感たっぷりだが、ともすれば悪魔か異星人か、とにかく人間ではない邪悪な存在が出てきそうな気味悪さだっただけに、彼女が人間だったのにはほっとした。

田舎町のならず者一家として恐れられているウィーボーイ一家。家長であるこの女性の命令には、大きな図体の子供たちの誰も逆らえない。

ウィーボーイ家の狭苦くて薄暗い居間で大勢で食事をするシーンが、また不快。いよいよサイコ・スリラー色が強まる。『もう終わりにしよう。』(チャーリー・カウフマン監督)の怖さに近いかも。

(C)2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

ボディガードは今や昔

一触即発状態になって、ようやく孫のジミーを連れて夫妻が帰ってくる。ああ、母子は五体満足で生きていたよ。とりあえず安堵。

だが、はるばる孫の顔を見にやってきた二人を、たった二分しか会わせずに、ブランチはジミーに二階でさっさと寝ろと命じる。ここは逆らうとヤバい雰囲気。

とにかく、何とかこの恐怖の館から母子を救出しなければ。二人は一層思いを強め、機会を探るのだった。

ダイアン・レインケビン・コスナーも、カッコよく年齢を重ねているなあ。初老の夫婦だけれど、キスシーンだって絵になる。

ただ、本作は西部劇のようでいて、主役は保安官ではなく、この熱血漢のマーガレット。映画の中でイニシアチブを取っているのは、マーガレットなのだ。彼女とラスボスであるブランチとの女同士の戦いが、本作のキモなのではないか。

もう『ボディ・ガード』のホイットニー・ヒューストンのように、ケビン・コスナー命がけで守られるだけでは、映画が成立しない時代になっている。

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本作で母子を無事に奪還できたかどうかは、大方の予想通りであるが、そこに至るまでの展開とマーガレットとジョージの代償は想定を大きく上回る激しいものであった。

まあ『マン・オブ・スティール』の時も、夫役のケビン・コスナーは竜巻に飲み込まれてしまったしなあ。ダイアン・レインとの夫婦役のときは、悲運なのかもしれない。