『サマーフィルムにのって』考察とネタバレ|大好きってしか言えねーじゃん

スポンサーリンク

『サマーフィルムにのって』 

時代劇オタクの女子高生が、キラキラ青春映画に対抗して撮り始めた『武士の青春』

公開:2021 年  時間:123分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:    松本壮史
脚本:      三浦直之(ロロ)

キャスト
ハダシ:     伊藤万理華
凛太郎:     金子大地
ビート板:    河合優実
ブルーハワイ:  祷キララ
増山:      池田永吉
駒田:      小日向星一
小栗:      篠田諒
花鈴:      甲田まひる
隼人:      ゆうたろう
ダディボーイ:  板橋駿谷

勝手に評点:4.5 
        (オススメ!)

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

あらすじ

高校三年生のハダシ(伊藤万理華)は時代劇映画が大好きだが、所属する映画部で作るのはキラキラとした青春映画ばかり。

自分の撮りたい時代劇がなかなか作れずくすぶっていたハダシの前に、武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎(金子大地)が現れる。

彼との出会いに運命を感じたハダシは、幼なじみのビート板(河合優実)とブルーハワイ(祷キララ)を巻き込み、個性豊かなスタッフを集めて映画制作に乗り出す。

文化祭での上映を目指して順調に制作を進めていくハダシたちだったが、実は凛太郎の正体は未来からタイムトラベルしてきた未来人だった。

スポンサーリンク

レビュー(まずはネタバレなし)

映画少年・少女だったすべての人に

時代劇オタクの女子高生が、映画部製作のキラキラ青春映画に対抗して、仲間と一緒に好きな映画を撮り始める。それだけで、既に荒唐無稽な面白さが期待できそうなのに、なんと主役にスカウトした武士の似合うイケメンは未来人! いや、これは楽しい。

企画そのものの面白さは勿論だけれど、演じる高校生たちがみんな実に輝いていて、そして何より映画愛に溢れている。

CM等映像作家出身の松本壮史監督も、脚本の劇団「ロロ」主宰・三浦直之も、はたまた主演の元・乃木坂46メンバーの伊藤万理華も未来人の金子大地も、ぶっちゃけ本作を観るまで誰も知らなかった。

その他出演者にも、私が顔を知っているような俳優はひとりもいないのだが、映画はべらぼうに楽しい。そうだ、映画は名のある役者ばかり揃えたところで、観る者の心はつかめない。昨日レビューを書いた映画の監督にも教えてあげたい(誰とは言わんが)。

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

およそ学生時代に映画少年・少女だった人には、きっと胸に刺さる映画だと思う。

自分たちで映画を撮ろうなどという話は、それこそ『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八監督)の神木隆之介たちのように、非モテ男子設定が定番だったのに、今や女子高生三人組がメインになる時代なのだ。

さらに言えば、現代の自主映画となれば、8ミリフィルムのはずがなく、カメラはスマホと自撮り棒だけでそれっぽい時代劇も撮れてしまうし、ドローン撮影まで登場するとは隔世の感がある。

スポンサーリンク

ハダシ、ビート板、ブルーハワイ

それにしても、時代劇マニアの監督がハダシ(伊藤万理華)、親友の天文部のSF好きがビート板(河合優実)、同じく親友の剣道部の女剣士がブルーハワイ(祷キララ)だよ。彼女たちは名前もあだ名の由来も語られず、この実に愉快な通称で呼び合う。なんともバカらしく、楽しい。

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

映画部にも陽の当たるリア充の連中がいて、派手め女子の花鈴(甲田まひる)監督が隼人(ゆうたろう)を主演に、キラキラ青春映画を撮っている。その名も『大好きってしかいえねーじゃん』。ハダシに言わせれば、愛していることをいかに台詞なしで伝えるかが映画なのに、愛を台詞で語りまくる映画なのだ。

そしてハダシは、仲良し三人でバイトして製作費を捻出し、自分の書いた時代劇『武士の青春』を撮ろうと決意する。

照明係には自慢のデコチャリで登校する、ちょっとヤンキーっぽい小栗(篠田諒)、録音係には野球部補欠で耳の良い増山(池田永吉)駒田(小日向星一)、そして相手役の武士には声も外見も渋いダディボーイ(板橋駿谷)を起用。まったく映画とは無縁と思っていた男子連中がメンバーに加わる意外性がよい。

タイムパラドックスと青春もの

ハダシが名画座でビビッと感じて、ぜひ主役にと熱烈なラブコールを送った相手・凛太郎(金子大地)が、実は未来から来た人物。

展開には強引さとチープさが否めないものの、それを許容させるだけの勢いがある。ビート板が普段『時をかける少女』やハインラインの『時の門』を読んでいる伏線もあるから、強引とはいえないか。

雑ではあるが一応タイムパラドックスを扱っている青春ものという意味では、瑛太上野樹里『サマータイムマシン・ブルース』(本広克行監督)を思いだすな。そういえば、どこかタイトルも似ている。

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

この、未来から来た凛太郎には、どのような目的があるのか(ラベンダーの採取に来たわけではあるまい)、そして、彼を主演に撮影を開始した『武士の青春』は、無事に完成するのか。

これだけコメディタッチなストーリーで、しっかりと殺陣のあるアクションや、感動を呼ぶ展開に持っていけるのは、大したものだ。

事前に『座頭市』をしっかり研究して、ホーキや棒きれを振り回して本格的な立ち回りができている伊藤万理華の、身体表現力と女優根性も凄い。つい、彼女の傑作MV『はじまりか、』まで視聴してしまった。

『サマーフィルムにのって』東京国際映画祭版予告

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

「きらきら」VS「武士」

本作には、まったく悪人が登場しないのも特徴的だ。普通なら、キラキラ青春映画の花鈴監督は、性格の悪い美少女キャラにするはずで、文化祭の二本立て上映も、どちらが好評かの勝負仕立てで盛り上げるだろう(続けて観たら『きらきら武士』byレキシだぜ)。

だが、本作はその期待を鮮やかに裏切る。撮影前夜に急遽、キラキラ映画の出演女優が欠員となり、困っていた花鈴にハダシは、ブルーハワイ(実は時代劇よりラブコメ好き)を推薦し、これが大成功。お礼に花鈴は、ハダシたちの撮影にクルーや機材を提供する。美しい仲間同士の助け合いは、精神衛生上もよい。

この手のドラマにありがちな、メンバー同士の恋愛感情も、あるにはあるのだけれど、けしてもつれない。これが失恋なのかぁ、とあとから気づくほどのうぶさなのだ。

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

未来からやってきた凛太郎。彼の世界には、映画のようなものは存在せず、映像は五秒程度が普通。一分もあれば長篇なのだ。それだけ気忙しい未来の世の中で、彼は巨匠となっているハダシの作品の中で、唯一フィルムが存在しないデビュー作『武士の青春』を観るために、この時代にやってきた。

記録によれば、文化祭で上映後に、映画は破棄されている。ハダシ監督が凛太郎じゃなきゃ撮れないと言ったように、凛太郎も監督の映画で未来を変えてやると胸に誓う。

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会

度肝を抜く終盤の展開

脚本を悩み抜いた末、二人の武士(凛太郎とダディボーイ)は斬り合わずに終わる結末で映画を撮ったハダシ。でも、それでは勝負を避けているだけ。告白しないで終わる青春映画なんて認めない! 花鈴に笑われそうだ。最後は勝負しないとダメだ。

そこからのラストの展開は奇想天外だった。なんと上映会の途中、終盤の盛り上がりの直前で映写を止めるように指示するハダシ。『カメ止め』ならぬ、『映写機を止めるな』、いや止めよ。

そして、そこから先は映画と舞台が、まるで混然一体としたような世界が繰り広げられる。

「このラストは、オレじゃねえだろ」

ダディボーイの台詞がカッコよく決まる。こうして、ハダシと凛太郎の、真剣勝負がはじまる。

「斬るのは、つまり告白だ。私はこの切っ先をあなたまで届けるから」

まるでつかこうへいが降臨したかのような、有無を言わさぬ理論展開。チャンバラやりながら壁ドンが見られるなんて。

このとき、時代劇はキラキラ青春映画となった。最高のラストは「時かけ」の新解釈か。映画には、未来につなげる力があるのだ。