『ロバと王女』
Peau d’Âne
ジャック・ドゥミ監督がミシェル・ルグランの音楽とカトリーヌ・ドヌーヴの美貌で撮った<ロバの皮>の童話ミュージカル。
公開:1971 年 時間:89分
製作国:フランス
スタッフ 監督・脚本: ジャック・ドゥミ 原作: シャルル・ペロー 『ロバの皮』 音楽: ミシェル・ルグラン キャスト 王妃/王女: カトリーヌ・ドヌーヴ 王様: ジャン・マレー リラの妖精: デルフィーヌ・セイリグ 王子: ジャック・ペラン 赤の国の王妃: ミシュリーヌ・プレール 赤の国の王: フェルナン・ルドゥー
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
病床の王妃は夫である王(ジャン・マレー)に、再婚するなら自分より美しい女性を選ぶように言い残してこの世を去った。世継ぎを望む王が求婚したのは、なんと実の娘である王女(カトリーヌ・ドヌーブ)だった。
困った王女はリラの妖精(デルフィーヌ・セイリグ)に相談し、結婚の条件として様々な無理難題を王に突きつける。しかし王はすべてを受け入れ、財宝を生むロバすらも殺して皮を王女に与えてしまう。
王女はロバの皮をまとって王宮を抜け出し、森の小屋で下女として働き始めるが……。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
元ネタはシャルル・ペローの童話
ジャック・ドゥミ監督が、音楽のミシェル・ルグランとタッグを組んだ作品のひとつ。この二人の生み出した作品では『シェルブールの雨傘』が名実ともに一番だと思っていたが、ことフランス国内の観客動員に関しては、本作が最大ヒットらしい。
◇
ミュージカル作品であるが、物語はシャルル・ペローによる童話『ロバの皮』をそのまま映画化している。
私はシャルル・ペローの名にも『ロバの皮』という話にも疎かったので、ところどころ『赤ずきん』だったり『シンデレラ』だったり、有名な童話のパクリっぽいな、などと思ってしまったが、全てこのペローの著作とされているものなのだ。
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とはいえ、日本では知名度に劣るため、さすがに『ロバの皮』では客が入らないと危惧したのだろう、邦題は『ロバと王女』とし、プリンセスの登場する童話っぽい華やかさを添えたといったところか。『シバの女王』と勘違いして観た人もいたかもしれない(なわけないか)。
ストーリーにはツッコミどころが溢れているが、由緒正しい童話ベースの作品ゆえ、本気になって文句をいう筋の映画ではないのだろう。
子ども相手の童話なのだし、細かい点は気にせず、カトリーヌ・ドヌーヴの美しさとミシェル・ルグランの音楽を堪能するのが、賢明な鑑賞の心得であると見た。
愛娘と結婚したがる王様
冒頭、立派な城で美しい王妃とその娘と幸せに暮らしている王(ジャン・マレー)。何も語られないが、この国は家来たちがみなブルーマンのような真っ青な顔をしている<青の国>なのだ。これは後に登場する<赤の国>と対比される。
◇
<青の国>の豊かさの源泉は、一頭のロバ。こいつがひねり出す糞が、なんと金貨や宝石なのである。金の卵を産むニワトリならぬ、金糞のロバなのだ。
だが幸福な時間は長くは続かず、王妃は病気で亡くなる。彼女が遺した言葉は「再婚して世継ぎを作ってください。ただし、私より美しい女性でないと、再婚はダメよ」
これはハードルが高い。何せ、王妃はカトリーヌ・ドヌーヴなのだ。候補者をかき集めても、彼女より美しい女性がいない。
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途方に暮れた王が、ある肖像画に目を留める。この美しい女性は誰だ! なんと、それは年頃になった才色兼備の自分の娘。母娘が似ているのは当然と、どちらもカトリーヌ・ドヌーヴが演じている。
ここで血迷った王は、是が非でも娘と結婚するぞ、となる。だが、そんな近親相姦はいけないと困った娘は、リラの妖精(デルフィーヌ・セイリグ)に相談を持ちかける。
それは赦されぬことです
それなら王に無理難題をふっかけなさいと知恵を授ける妖精だったが、空の色のドレス、月の色のドレス、太陽の輝きのドレスと、次々と無理筋なリクエストを叶えてしまう父親。
徐々にグレードアップしているらしいが、私には最初に登場した空色のドレスが一番ゴージャスにみえた。なにせ、空色のなかに雲が流れていくという芸の細かさだ。
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さて、この辺のやりとりは、よくよく考えれば娘と再婚して世継ぎを作ろうとしている父親に嫌悪感を覚えるものの、深く考えなければ、童話っぽい展開といえる。
いや、やはり童話には不向きか。幼い娘の枕元で父親が読み聞かせてあげる童話としては、これほど不向きなものはない。
◇
ついに娘は、国の財政を支え金銀財宝を生む、あのロバの皮をくださいと、妖精の入れ知恵で父親に最後のお願いをする。
ここで何もためらわずにロバを殺して皮をはぐ王は、ある意味なかなかの大物だ。それほど本気で娘に惚れこんでいるのか。意外といいヤツなのかもしれない。
娘も次第に、父親と結婚してもいいかと思い始めるのだが、妖精に諭されて、ロバの皮を被って国外脱出を図るのである。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
ガラスの靴ではなく金の指輪
童話にネタバレもなにもない気もするが、ここから先、毛皮を被った娘は村人から<ロバの皮>と呼ばれ、田舎家で女中としてこき使われる、臭くて汚い醜女となるのだ。
おお、いかにも『シンデレラ』的展開になってきたぞと思っていたら、<赤い国>のイケメン王子(ジャック・ペラン)が颯爽と現れては、この娘に心を奪われてしまう。
◇
昨今は、プリンセスがおとなしく王子様にプロポーズされるのを待っている時代ではなく、みずからアクティブに人生を切り開く物語が主流になっている。だが、本作の作られた当時は、まだ積極的に女性が動くわけにはいかない。
シンデレラは舞踏会で王子に見初められ、ガラスの靴を片方落として魔法が解ける零時までにあわてて帰宅する。その後に王子は靴に合う足の持ち主を探すわけだが、本作においては、王子が指輪に合う指の持ち主を探すことになる。
これは似ているようで、その背景が結構異なる。ロバの皮の娘は、魔法を使って王子のために美味しい<愛のケーキ>を焼き、その中に自分の指輪を仕込むのだ。うっかり靴を落としたシンデレラよりも、したたかなのである。
ロバの皮を被った美姫
結局、年齢を問わず国中の女性が王子の待つ城に指輪を試しに訪れたが、そのサイズにある細指の持ち主はロバの皮の娘だけというわけだ。
ロバの毛皮をかぶって臭い臭いといわれている汚い娘が、指輪が合った途端にその毛皮を脱いで輝くドレス姿になるところが、出来すぎな展開ではある。というか、カトリーヌ・ドヌーヴが臭くて汚い娘に全然見えていない点で無理がある。
まあ、リアリティを追求して『ミッドサマー』(アリ・アスター監督)や『ホテル・ニューハンプシャー』(トニー・リチャードソン監督)のクマの毛皮みたいに生臭い雰囲気になると、それはそれで不自然だが。
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本作は全編にわたって、スローモーションや逆再生、花と人間の唇の合成など、70年代の作品の割に随分古臭さを感じさせるアナログな特撮技術を多用している。
なんでも、王様役を演じるジャン・マレーの代表作である『美女と野獣』(ジャン・コクトー監督)のオマージュということらしい。
王女が時間を止めて逃げるシーンでは、村人たちがみな身体をじっと静止させて撮っているのだが、馬の首や尻尾だけは普通に動いてしまっていて微笑ましい。
そして謎すぎるハッピーエンド
本作はご想像通り、ロバの皮の娘が王子と結ばれてハッピーエンドとなるわけだが、その結婚式の場に娘の父親が突如現れる、それもリラの妖精とふたり、近代的なヘリコプターに乗って。これには唖然とした。
まず、王様が娘を忘れて、妖精と恋仲になっていることに驚く。王女もしたたかだったが、妖精もまた計算高かった。王女を逃がしてやると見せかけて、実は王様にアプローチしていたのだ。めでたし、めでたし。
ヘリコプターには何の説明もないが、妖精は現代社会にも通じているような台詞があったので、これも妖精が調達したのだろうな。でも、いろいろとぶっ飛んだ話なので、もはやヘリくらいで違和感は感じないのだ。