『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
Miss Peregrine’s Home for Peculiar Children
ティム・バートン監督がエヴァ・グリーンを起用したダーク・ファンタジー。奇妙なこどもたちのキャラクターデザインが秀逸。
公開:2017 年 時間:127分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ティム・バートン 原作: ランサム・リグズ 『ハヤブサが守る家』 キャスト ジェイク・ポートマン: エイサ・バターフィールド エマ: エラ・パーネル ミス・ペレグリン: エヴァ・グリーン ミス・アヴォセット: ジュディ・デンチ イーノック: フィンレイ・マクミラン オリーヴ: ローレン・マクロスティ ミラード: キャメロン・キング ブロンウィン: ピクシー・デイヴィーズ フィオナ: ジョージア・ペンバートン ヒュー: マイロ・パーカー クレア: ラフィエラ・チャップマン ホレース:ヘイデン・キーラー=ストーン 双子: ジョゼフ & トーマス・オドウェル バロン: サミュエル・L・ジャクソン ナンシー・ゴラン: アリソン・ジャニー ジョン・ラモン:ルパート・エヴェレット グリーソン: スコット・ハンディ ミス・エドワーズ: ヘレン・デイ エイブ・ポートマン:テレンス・スタンプ フランク・ポートマン:クリス・オダウド マリアン・ポートマン:キム・ディケンズ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
周囲になじめない孤独な少年ジェイクは、唯一の理解者だった祖父の遺言に従い、森の奥にある古めかしい屋敷を見つける。
そこには、美しくも厳格な女性ミス・ペレグリンの保護のもと、現実と幻想が交錯する中で、奇妙な子供たちが暮らしていた。
子供たちが不思議な能力を持ち、ひたすら同じ一日を繰り返す理由を知る一方で、彼らに忍び寄ろうとしている危険に気付くジェイク。さらに、ミス・ペレグリンの家へと導かれた理由と自身の役割を知る。
やがて、真実が明らかになるとともに、子供たちに思わぬ変化が起こる。
レビュー(ネタバレあり)
強引な導入部分からグイグイ進む
いかにもティム・バートンらしいダーク・ファンタジー。秘密屋敷の女主人ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたちを描いた作品、まさに直球のタイトル。
ダークとはいえ『スウィーニー・トッド』にみられるようなお得意のホラー的な要素は希薄で、冒頭に登場する目のない怪物たちから想像するような恐ろしさはない。
ただ、怪物たちは目をくり抜いて食することが目的なので、そのあたりの映像はややグロいか。全体の印象は、乱暴に言えば、ティム・バートン版アダムス・ファミリーか。
◇
フロリダに住む冴えない高校生のジェイク・ポートマン(エイサ・バターフィールド)。仲の良かった祖父エイブ(テレンス・スタンプ)が、島に行けと言い残して、謎の死を遂げる。
ジェイクだけには、祖父を襲う怪物の姿が見えたが、両親には精神を病んでいると思われた。祖父はジェイクが幼少の頃から、ミス・ペレグリンの家の奇妙なこどもたちの話を克明に語ってくれて、それが実在すると信じる彼は学校でも笑われていた。
◇
だが、祖父の遺した本と絵葉書から、ジェイクは父フランク(クリス・オダウド)と共に、英国はウェールズにある島を訪ねることとなり、そこでついに、ミス・ペレグリンの家にたどり着く。
バートン作品には『ビッグ・アイズ』に続いて本作にも登場のテレンス・スタンプが、矍鑠としてカッコいい。
不思議な世界の冒険譚の導入部分として破綻はしていないが、なかなか強引な展開だ。
空想の世界に没頭しにくい構成
ともあれ、他の人には見えない存在であるミス・ペレグリン(エヴァ・グリーン)や子どもたちと出会ったジェイクは、そこで祖父が死んでしまったことをみんなに伝え、また、自分も怪物たちとの戦いに巻き込まれてしまったことを知るようになる。
◇
これが『ロード・オブ・ザ・リング』のような重厚長大なファンタジーものならば、あまり不自然さを感じずに世界に入り込める。
だが、中途半端に現実世界と重なっていて、またこどもたちも傍目には普通の人間のように見えるので、空想の世界に没頭しにくいのが正直なところ。
とはいえ、ファンタジーの設定にケチをつけても仕方なく、ここは素直にティム・バートンの世界を受け容れるのが正解だろう。
意外と難しい専門用語と設定
ただ、なにげに設定や専門用語が案外難しく、こども相手の作品とあなどれない。ミス・ペレグリンが保護しているのは、世間に受け入れられない異能を持つ、奇妙なこどもたち(Peculiar Children)。なるほど、Peculiarとはこういう時に使う単語か、勉強になった。
◇
ミス・ペレグリンは<インブリン>という種族で、鳥になることができると共に、同じ一日を繰り返す<ループ>を設定することができる。実際、彼女たちはドイツ軍の空襲で焼かれ全員死んでしまった1943年9月3日をループしている。
また、もう一人のインブリンの、ミス・アヴォセット(ジュディ・デンチ)も敵に追われて別のループから参入してくる。
インブリンの二人はそれぞれ名前にちなんで、ハヤブサ(英語名:ペレグリン・ファルコン)とソリハシセイタカシギ(英語名:アヴォセット)に変身するのだが、これは日本人には分かりにくい小ネタ。
もっとも鳥の名前は言語を問わず不得手な私は、主題歌だけが有名なエリザベス・テイラーの『いそしぎ』のタイトルだって、鳥の種類だとは数年前まで知らなかったが。
キャスティング
エヴァ・グリーンとジュディ・デンチが同じ画面に登場すると、ついボンドガールと007の上司が並んでいるように見えてしまう。
もっとも、本作でのエヴァ・グリーンは、ディズニーでいえば『クルエラ』や『マレフィセント』系の魔女風メイクというか、アイラインが凄すぎてちょっと別人レベルになっている。
別に悪役じゃないのだから、ここまで厚塗りしないで、最近の彼女の主演作『約束の宇宙』レベルで抑えてくれたほうが、個人的には嬉しい。
さて、敵にあたるのが、バロン(サミュエル・L・ジャクソン)が率いるブラック・プールの連中。彼らはインブリンたちを殺してその力で永遠の命を勝ち得ようとしたが失敗し、ホローという怪物になってしまった。
このホローは奇妙なこどもら異能者の目玉を食べると元の姿に戻っていくため、執拗に襲ってくる。ジェイクにしか見えないこのホローの造形はなかなかに怖い。
そのたどたどしい動きも、ティム・バートンが敬愛するストップモーション・アニメの巨匠レイ・ハリーハウゼンの影響を感じ、手作り感があって好感が持てる。
奇妙なこどもたち
さて、最後に奇妙なこどもたちについて触れたい。
ジェイクと相思相愛になっていくヒロインのエマ(エラ・パーネル)は、空気より軽いので宙を舞ってしまわないよう鉛の靴を履いている。空を飛べるのではなく、自分の意思と関係なく浮き上がってしまう設定が面白いし、絵的にも美しい。
エマ同様にファンタジー感が強いのは、透明人間のミラード(キャメロン・キング)で、彼も意思と関係なく常に透明なのがコミカルかつユニーク。俳優名は分かったけど、顔出てきたっけ?
また、ホムンクルスのように無生物に生命を吹き込むイーノック(フィンレイ・マクミラン)も、バートンっぽいキャラ。ちっちゃいシザーハンズ作ってたし。
◇
そして、なぞの不思議な仮面をつけた双子(ジョゼフ & トーマス・オドウェル)。これもバカらしくてバートンらしい。だって双子である必然性がないし。
しかもこの双子はろくに台詞もないのだが、終盤で一度だけ仮面を取って相手に魔力を使うところが、まるでX-MENのグラサン男・サイクロップスのようだ。
X-MENといえば、異能のこどもたちを保護しているミス・ペレグリンの設定自体がプロフェッサーと同じ境遇だし、指から火を放つオリーヴ(ローレン・マクロスティ)が、アイスマンと戦うあたりもどこか既視感が漂う。
それ以外にも、植物を自在に操るフィオナ(ジョージア・ペンバートン)がグルートとかぶったり、腹に蜂の大群を飼うヒュー(マイロ・パーカー)の攻撃がアントマンと似ていたり、悪役とはいえサミュエル・L・ジャクソンが出てくるとニック・フューリーに見えたりと、あちこちでマーベル映画と競合する部分は多く見られた。
◇
そうはいっても、ティム・バートンのダーク・ファンタジーらしさは、やはり他者とは差別化できるため、模倣感はない。
特に、終盤の海沿いの遊園地で繰り広げられる、モンスターと奇妙なこどもたちの戦いは、とても見応えがある。過激なシーンに見慣れた目には、けして派手なバトルアクションではないかもしれないが、どこかノスタルジックで温かみがあるのだ。
双子たちのあのキッチュなデザインにやられちゃった人には、きっと心地よい作品として、気に入ってくれると思う。