『ビッグ・アイズ』 今更レビュー:大きな目をした子どもの絵を世界中に売りまくる、大きなアゴの男の話

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『ビッグ・アイズ』 Big Eyes

ティム・バートンが久々に実在の人物をモチーフに撮った作品。目の大きな子供の絵で一世を風靡した画家にはゴースト・ペインターがいた。

公開:2015 年  時間:106分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:      ティム・バートン
脚本:  スコット・アレクサンダー
      ラリー・カラゼウスキー

キャスト
マーガレット:  エイミー・アダムス
ウォルター:  クリストフ・ヴァルツ
ジェーン:      デラニー・レイ
         マデリン・アーサー
ノーラン:   ダニー・ヒューストン
ディーアン:  クリステン・リッター
ルーベン:ジェイソン・シュワルツマン
キャナデイ:   テレンス・スタンプ
バンドゥッチ:    ジョン・ポリト
判事:     ジェームズ・サイトウ

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)Big Eyes SPV, LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

悲しげで大きな目をした子どもを描いたウォルター・キーンの「ビッグ・アイズ」シリーズは、ハリウッド女優たちにも愛され、世界中で大ブームになる。

作者のウォルターも美術界の寵児として脚光を浴びるが、実はその絵はウォルターの妻マーガレットが描いていたものだった。

絵は飛ぶように売れていくが、内気な性格のマーガレットは、自分の感情を表すことができる唯一の手段である「ビッグ・アイズ」を守るため、真実を公表することを決意する。

今更レビュー(ネタバレあり)

大きな目をした子供の絵

下達郎の<BIG WAVE>と<YOUR EYES>という二大ヒット曲が混ざったようなタイトルだ。ポスタービジュアルでも強烈な印象を与える、大きな目の子供ばかりを描いた、キーンの手による「ビッグ・アイズ」という一連の絵画作品。

私は、それが一世を風靡した頃の様子を知らないが、60年代のはじめには、ビッグ・アイズのポスターやポストカードは、世界中で売れまくっていたそうだ。

そして、その作者として脚光を浴びていたのはウォルター・キーンだが、実際に絵を描いていたのは、その妻のマーガレットだった、という実話ベースの物語となっている。

目の大きな顔の絵と言われると、日本だったら中原淳一から始まって内藤ルネ、更には大抵の少女漫画があてはまるものと思われるが、それを絵画の世界で実践した先駆けというのが、このビッグ・アイズということになるのだろうか。

目の大きな絵画そのものからは、独特の雰囲気が醸し出されるが、鬼才ティム・バートン監督が得意とする、ダークな幻想的世界とは今回は珍しく無縁であり、リアリティ路線の作品。事実に基づくのだから、当たり前か。

実在の人物にフォーカスした作品としては『エド・ウッド』(1995)以来らしい。脚本のスコット・アレクサンダーラリー・カラゼウスキーは、その『エド・ウッド』でも脚本を担当。

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ウォルターは最初から怪しすぎる

1958年のカリフォルニア。まだ男性優位の社会で、職もない女が娘を連れて離婚して家を飛び出すことなど、珍しい時代だった。

だが、マーガレット(エイミー・アダムス)は夫を見限って娘とサンフランシスコに飛び出す。時代背景の重なる『グリーンブック』を思わせる、エメラルド・グリーンのクルマが美しい。

美大で学んだ絵の技術を武器に仕事を探すマーガレット。週末に野外展示会で小銭稼ぎにしかならない似顔絵描きをしていると、隣で同じように露店を出し、パリの風景画を売る調子のよい男・ウォルター(クリストフ・ヴァルツ)と出会う。

二人はすぐに親しくなり、別れた夫(顔も出さない)が娘ジェーンの親権を取りに動き出すと、それならば対抗策で結婚しようという運びになる。

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マーガレットがジェーンをモデルに、目の大きな子供を描く横で、ウォルターは風景画の構図を考えている。背後でベンチに座って読書している老人は、マーガレット本人のカメオ出演だ。平和そうなシーンだが、よく見れば、ウォルターは一つも絵筆を走らせていないはずだ。

なかなか芽の出ない画家の夫婦が、懸命に売り込みをかける。このあたりまでは平和な物語に見えたが、クリストフ・ヴァルツ演じるこの胡散臭い男が、そんなに物分かりのよい善人のはずがない

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ゴースト・ペインターという境遇

時代は前衛的な表現主義の作品を求めていたのだろうか。ウォルターがジャズクラブの経営者相手に大暴れした一件が新聞記事になり、そこに映り込んでいたビッグ・アイズの絵が、世間の目に留まる

瞬く間に、絵は飛ぶように売れるようになった。だが、絵にはキーンというラストネームしかなく、ウォルターは自分の描いた絵だと世間に信じ込ませた。

自分はアトリエにこもって毎日必死に絵を描き続け、夫は自分の作品としてそれを売りまくる

作者であるマーガレットは当然反発するが、画家本人と話していると買い手に思わせたほうが、絵は高く売れるし、女の名前では軽く見られるから、こうして夫婦で分業するのが賢い手なのだと言いくるめられる。

この時点で、彼女は共犯者となってしまった。夫には、時流に乗ってアートを売りまくる才能があり、莫大な収入を得るようになるが、その名声は、自分にあてられたものではない

ゴースト・ペインターとなったマーガレットは、娘にも真実を言えず苦悶する。

この手の作品では普通、ゴーストライターをやっている者が、売れっ子になった相手を脅かして金品を要求するものだ(殺されてしまうパターンが多いけれど)。

だが本作は、本当のことを言うなと脅迫するのが、売れている夫の方だという点がユニークだ。しかも、ついウォルターにそそのかされて、世間を欺いてしまったという、罪悪感に苛まれている。

追い詰められていく二人

マーガレットを演じたエイミー・アダムスは最近観た『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』の迫力ある役柄と違い、本作は『魔法にかけられて』のプリンセスが大人になったような雰囲気。

ウォルターのクリストフ・ヴァルツは本作公開時には『ジャンゴ 繋がれざる者』の怪演の印象が強かったが、この後『007 スペクター』で、かの悪役ブロフェルドを演じる。本作のウォルターもいかにも怪しいキャラがよいが、マーガレット本人によれば、実物によく似ているとか。

助演陣では、キーンの絵画が金儲け主義の駄作の極みだと酷評する新聞社の主筆ジョン・キャナデイのテレンス・スタンプが渋くてカッコよかった。

本ページの情報は2021年9月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

娘のジェニーにも嘘をつき通して絵を描き続けることがつらく、マーガレットは教会に懺悔にいくのだが、神父には、おとなしく家長である夫に従いなさいと諭される。

そんな彼女が最終的に救いを求め、支えになってくれるのが、ハワイで出会った<エホバの証人>だったというのは、実話なのかもしれないが、結構意外だった。

終盤には、次第に人格も破綻していき、アトリエに隠れたマーガレットとジェニーを燻り出そうと、部屋に火をつけるウォルターが恐ろしい。鍵穴から火の付いたマッチ棒を一本ずつ落としていき、絵画用の油に引火させてしまうのだ。

ここまで話がエスカレートしたら、どちらかが死んでしまうのかと思ったが、娘と逃げ込んだハワイのラジオ番組で、マーガレットは真相を告白する。そして驚いたことに、物語は法廷劇に突入する。

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ペリー・メイスンの法廷劇

それにしても、本作を観た限りでは、彼女の親友ディーアン(クリステン・リッター)もっと早くに真相を嗅ぎつけていたように思うし、絵のモデルをしていたジェニーも、年齢的にあれは母の絵だと気づくのではないだろうか。映画で脚色されているのかもしれないが。

では、裁判のさなか、訴えられたウォルターが弁護士もつけずに、TVドラマの『ペリー・メイスン』のように自ら弁護士もやってのけたというのも、実話なのか。これは、さすがに信じがたいけど。

判決に困った判事(ジェームズ・サイトウ)が、一時間あげるから、それぞれビッグ・アイズを描いてみなさい、という冗談みたいな裁きに走るのは、笑ってしまったが、妙にスカッとする。

まあ、どちらが本物の作者か、判決は自明なのだけれど。ラストは勝訴の文字の代わりに、証拠物件としての自分の作画を掲げるマーガレット。

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でも、彼女は別におカネが欲しかったわけではない(実際、損害賠償金も、ウォルターからは支払われずに終わったようだし)。彼女は、我が子のように可愛い作品のためにも、このまま真実を隠蔽し続けることに、我慢がならなかったのだ。

図らずも偽証の共犯者になってしまい、書き手として自分の名を出せなかったことは、自分の愛する作品たちにも嘘をつくことと同じだ。子供に嘘をつかなければならない苦しみを、ここでも味わっていたのではないか。

本作のエンディングには、実話ならではの本物のマーガレットエイミー・アダムスが並んで写るショットがインサートされる。

この二人はハッピーエンドだからよいのだが、2000年に無一文で亡くなったという本物のウォルターまで、写真で登場するのには驚いた。これはちょっと悪趣味と思ったけれど、そこはティム・バートンらしいところなのかも。