『マトリックス』
The Matrix
全てはここから始まった。SFアクションのハードルを一気に引き上げた伝説の一作。子供たちはみな、ネオのマネしてリンボーダンスしていた。
公開:1999 年 時間:136分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹 キャスト ネオ: キアヌ・リーブス モーフィアス: ローレンス・フィッシュバーン トリニティ: キャリー=アン・モス エージェント・スミス: ヒューゴ・ウィーヴィング サイファー: ジョー・パントリアーノ オラクル: グロリア・フォスター タンク: マーカス・チョン エイポック: ジュリアン・アラハンガ マウス: マット・ドーラン スウィッチ: ベリンダ・マクローリー ドーザー: レイ・パーカー エージェント・ブラウン: ポール・ゴダード エージェント・ジョーンズ: ロバート・テイラー
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
プログラマとしてソフト会社に勤務するトーマス・アンダーソンは、ネオという名で知られた凄腕ハッカーでもあった。ある日、トリニティと名乗る美女から接触を受けたネオは、彼を探していたという男、モーフィアスと会う。
モーフィアスは、人類が現実だと思っている世界が実はコンピュータにより作り出された「マトリックス」と呼ばれる仮想世界であり、本当の現実世界でネオをはじめとした人間たちはコンピュータに支配され、眠らされているという驚きの真実を明かす。
モーフィアスの誘いに乗り、本当の現実世界で目を覚ましたネオは、ネオこそが世界を救う救世主だと信じるモーフィアスやトリニティとともに、コンピュータが支配する世界から人類を救うため戦いに乗り出す。
一気通貫レビュー(まずはネタバレなし)
ウォシャウスキーが兄弟だった時代
言わずと知れたSFアクションの傑作。嬉しいことに18年ぶりに新作『マトリックス レザレクションズ』が公開の運びとなり、総復習をしておかないと。
20世紀末に登場したこのシリーズ作品は、ウィリアム・ギブソンのサイバーパンクSF小説『ニューロマンサー』(大昔に読んだきりで記憶欠落)や押井守のアニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をはじめ、多くの作品に影響を受けて創作されたものだ。
◇
そして大ヒットのあと、今度は本作にインスパイアされた作品群が次々に登場することになる。ちなみに、監督・脚本を手掛けたラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟は、その後に二人とも性転換しラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹となっている。時代は流れているのだ。
革新的でスタイリッシュな前世紀の爪痕
だが、20年以上が経過しても、本作の革新性とスタイリッシュさは色褪せない。ネオ(キアヌ・リーブス)の勤務するオフィスに配達されるガラケーすら未来的にみえる。
冒頭からいきなり、ディスプレイ上の緑色の文字が流れ落ちる、いわゆる<マトリックス・コード>の映像。うっすら日本語らしき文字が垣間見えるのは、スタッフが日本人妻の料理本からスキャンしたものだとか。「こんなところに日本人」、だ。
◇
そして、侵入がばれてエージェントたちに追われるトリニティ(キャリー=アン・モス)が、序盤から見せる派手なワイヤーアクション。こんな映像を、これまでお目にかかったことがなかった当時の我々は、このシーンからすでに作品に引き込まれていた。
そして、突っ込んでくるコンボイを横目に、電話ボックスから間一髪で瞬間移動したように見えるトリニティ。エージェント・スミス(ヒューゴ・ウィーヴィング)たちは、今度はネオの職場に現れ、彼を捕獲しようとする。
話の内容はさっぱり見えないが、息をのむ展開からは目が離せない。そんな序盤だ。
一気通貫レビュー(ここからネタバレ)
ここからはネタバレになりますので、未見の方はご留意願います。
赤いピルを飲んだら、もう戻れない
さて、あなたが赤いピルを選んだわけではないけれど、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)になり替わって、現実を簡潔に整理しよう。
◇
これまでネオをはじめ多くの人々が、現実社会として疑うことなく生きてきたこの世界はすべて、<マトリックス>と呼ばれる虚構だったのだ。
人間は何を現実と判断するか。それが五感の知覚によるものなら、結局は脳に送られる電気信号だ。
マトリックスでは、人体につないだプラグに信号を送ることで、人間を死ぬまで虚構の世界で管理し、現実を知らずに一生を終わらせる。ここでは、人間は生まれるのではなく、栽培される。
◇
AIが出現し人間を超えた時、脅威を感じた人間たちは青空を塞ぎ太陽光を遮断することで、AIの動力源を奪いに行った。
だがAIは人体からのエネルギーを代替動力源にすることで反撃し、<マトリックス>により、人類を支配下に置いたのだ。『ターミネーター』シリーズに負けず劣らずのディストピア。
この世界は夢じゃないと言い切れるか
一方で、その現実を知り、ザイオンという町を作って起死回生の機会を狙う者たちがいた。ネオを救世主と信じ、彼を仲間に引き入れて戦おうとしているのがモーフィアスをはじめ工作船ネブカドネザル号の同志たち。
ネオ(Neo)が救世主(The One)なのは名前からもバレバレだが、要は彼が『ターミネーター』におけるジョン・コナーみたいな、切り札的存在なのだ。
現実にそっくりな夢をみたら、どう見分ける。君が生きているこの世界が夢じゃないって、言い切れるか。ノーラン監督の『インセプション』にも出てきたこの問いかけに、子供の頃のように自問自答してみる。
いや、ガキの頃ならいざ知らず、今だったら「このままマトリックスの中で死なせてくれ」と思うかもな。公開から20年の歳月は、私を青いピルを選ぶ人間に変えてしまったのか。
◇
マトリックスに侵入して破壊工作を企むモーフィアスたちは、いわばコンピュータウィルスであり、それを阻止するエージェント・スミスたちはアンチウィルス・ソフトなのだ。これは分かりやすい。
あとはアクションを堪能せよ
ともあれ、こうして全体の相関関係が整理できれば、あとはひたすらアクションを堪能するだけだ。ワイヤーアクションに加えて、本作の代名詞ともいえるバレットタイムなる撮影手法。
大量のカメラで周囲を囲み、マシンガンのように連続撮影することで独特の映像表現が得られる。ビルの屋上でネオが体を後ろに反らせて弾丸を避ける、あの名物シーンのことだ。
これは当時、いろいろな作品で真似されたし、子供たちもリンボーダンスのようなポーズで遊んでいた。近年でもパロディCMがあったと思う。まんま模倣したらこっぱずかしいシーンだが、さすがに本家はカッコいい。
◇
黒ずくめのロングコートで殴り込みをかけるネオとトリニティ。ド派手な銃火器の使用、二丁拳銃を撃ちまくっては弾切れで投げ捨てる動きの繰り返し。
側方転回しながらの銃撃って、なぜ敵の弾丸があたらないのか不思議だが、ともかくクール。すっかりジョン・ウーの世界だ。鳩が飛んでいても,おかしくない。
カンフーアクションについても、ユエン・ウーピンが監修しているだけに、さすがにサマになっている。ブルース・リーやジェット・リーまで参考にしているだけはあり、SFXとの合わせ技とはいえ、見応えがある。
しかもネオが救世主として覚醒し、エージェントたちが緑の文字のソースコードに見えてからは、スミスの攻撃を読みきって、最小限の動きでそれをかわす。キアヌ・リーブスの涼しい顔がまたいい。
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これらアイ・オープナーのスタイリッシュなアクションと合わせて、町をいく雑多な群衆の中の人々に次々と憑依していくエージェントがまた不気味な面白さ。
また、マトリックスの舞台裏を知ったネオが、プラグをはずされてポッドからチューブを通って放出されるあたりの『マルコヴィッチの穴』的な空間演出や、仮想世界と現実を行き来するのに必要な電話機のダイヤル式へのこだわり等、細部にも魂が宿っている。
キャスティングについて
シリーズを振り返れば、キアヌ・リーブスをはじめメインの三名のキャスティングは大成功だろう。もはや他の役者は想像できない。
特にローレンス・フィッシュバーンとキャリー=アン・モスは本作の大ヒットで確固たる地位を築いており、モーフィアスとトリニティのキャラのイメージがそのままついて回ってしまうほどだ。
エージェント・スミスのヒューゴ・ウィーヴィングは『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』のエルロンド役でも知られ、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』ではガイコツのようなヴィラン役も務めるが、本作のスミスが一番似合っているし、楽しそうでもある。
他のエージェントや、ほとんど死んでしまうネブカドネザル号の乗組員たちは正直印象が弱く、今回久々に観て思い出したような状況。
ただ、裏切ってスミスと結託したサイファーのジョー・パントリアーノの顔は見覚えがあると気になっていたが、本作の翌年公開のノーラン監督『メメント』に登場した、主人公の相棒役の怪しい刑事だ。思えば、あの映画にはキャリー=アン・モスも出演している。これはちょっとした発見。
◇
さて、最後はディズニープリンセスのように、愛する者からのキスで目覚めて救世主となるネオ。とりあえずエージェントたちは倒して、マトリックスに宣戦布告して、幕が下りる。これは当然、次回作に期待が膨らむ。
マトリックス
The Matrix (1999)
マトリックス リローデッド
The Matrix Reloaded(2003)
マトリックス レボリューションズ
The Matrix Revolutions(2003)