『マトリックス レザレクションズ』一気レビュー④|傑作の末路

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『マトリックス レザレクションズ』 
The Matrix Resurrections

18年ぶりに出会えた続編の喜び。今の時代にも、マトリックスの世界観は通用するのか。真実を知りたければ、赤いピルを選べ。

公開:2021 年  時間:148分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:  ラナ・ウォシャウスキー
キャスト
トーマス・A・アンダーソン / ネオ:
           キアヌ・リーブス
ティファニー / トリニティ:
         キャリー=アン・モス
モーフィアス:
  ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世
エージェント・スミス: 
          ジョナサン・グロフ
エージェント・ジョンソン:
ダニエル・バーンハード
バッグス:   ジェシカ・ヘンウィック
アナリスト:ニール・パトリック・ハリス
ナイオビ:ジェイダ・ピンケット=スミス
サティー:
 プリヤンカー・チョープラー・ジョナス
ジュード:アンドリュー・コールドウェル
セコイア:    トビー・オンウメール
レキシー:    エレンディラ・イバラ
バーグ:     ブライアン・J・スミス
グウィン・デ・ビア:
        クリスティーナ・リッチ
メロヴィンジアン: 
        ランベール・ウィルソン

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

あらすじ

トーマス・A・アンダーソン(キアヌ・リーブス)は「マトリックス」3部作をヒットさせた世界的なゲームクリエイター。

カフェでティファニー(キャリー=アン・モス)という家族連れの女性と知り合うが、お互いにどこかで会ったことがあるような気がした。

その後、職場で仕事をしていると、ビルの避難指示で周囲がざわつく中、かつての仲間であったモーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が現れ、ネオとしての現実世界への帰還とマトリックスに囚われた人類を救うための戦闘への参加を迫られる。

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レビュー(まずはネタバレなし)

18年ぶりに観るグリーンのコード

18年ぶりに続編が作られるとは、想像もしていなかった。しかも一部キャスティングが異なるとはいえ、キアヌ・リーブスキャリー=アン・モスも続投なのは嬉しい。

当然彼らはプログラムではなく生身の人間なので相応に年齢を重ねており、ゆえにアクションのキレにも相応の衰えは認めざるを得ないが、まあ観ている我々も当時ほど若くはないし、これは仕方ない。

さて本作、公開初日に観終わった感想としては、『マトリックス レボリューションズ』ほどの落胆はなかったにせよ、かつての輝きを取り戻すまでには至っていない

はたして、ローレンス・フィッシュバーン(モーフィアス役)とヒューゴ・ウィーヴィング(スミス役)を起用しない飛車角落ちの状態で、続編を撮る意味があっただろうか。

結局、18年後のファン感謝祭の域を脱していないのだ。だって、過去作を知らない若い世代は本作に食いつきようがない。

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でも、それは仕方がないか。『マトリックス』では、固定電話の回線がデータ伝送として最も有効な経路だったからこそ、公衆電話の面白味があり、また主人公のもとに送り届けられるガラケーのデザインが超クールに見えたのだ。

本作では固定電話は<鏡>や<どこでもドア>に取って代わり、画一的なデザインのスマホにも魅力はない。今の時代、『マトリックス』の世界観で新規観客層を惹きつけるのは、少々難しい。

『マトリックス』はその時代背景、スタッフやキャストでなければ決して生まれない、奇跡のような傑作だったのだ。

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選ぶ前に答えは決まっている

映画は冒頭、暗いスクリーンに滝のように落ちてくるグリーンのプログラミングコードの文字。ところどころ見え隠れするカタカナ。ああ、懐かしいマトリックスの世界が帰ってきた。

そして、トリニティ(キャリー=アン・モス)が大勢の警察官たちに包囲される場面。「あんな小娘ひとり、我々警察が対応するよ」「そうかな。今頃みんな殺されているだろう」とエージェント。

あれ、どこか見覚えのあるシーン。だが、暴れまくって最後にはビルの屋上から飛び降りて逃げるはずのトリニティが、なぜかエージェントらに捕まりかけている。

この現場を覗き見ていたバッグス(ジェシカ・ヘンウィック)も彼らに殺されかかるが、モーフィアス(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)に助けられる。

二人はそれぞれ、町で偶然ネオ(キアヌ・リーブス)を見かけたことで、心が解放された者同志だった。バッグスの差し出す赤と青のピル。

「選べと言うのか」「いいえ。選ぶ前に、答えは決まっている」
そしてモーフィアスは、自分の名前とともに、現実を知らされる。

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どうしたバレットタイム

分かりにくい導入部分だが、一方、この世界においてトーマス・A・アンダーソンはネオの名を忘れ、世界的なゲームクリエイターとして忙しい日々を送っている。セラピスト(ニール・パトリック・ハリス)から精神安定の青いピルを大量に処方してもらいながら。

これはつまり、この世界は現実社会ではなく、新たなマトリックス世界だということにほかならない。

前作『マトリックス レボリューションズ』で、ネオとトリニティが生命を投げ出して人類をマトリックスから救い出したはずではなかったのか。この町のカフェで再び二人は出会うが、お互いに自分の過去は何も知らない。

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このあたりの、持って回ったストーリー運びはじれったい。本作固有のテンポの良さはどこに行った。更にイラつくのは、ネオが実体験をもとにマトリックス三部作を大ヒットのゲームにしているという設定だ。

ゲーム会社の同僚たちが、新作のアイデアを語り合うのだが、あろうことか本作の代名詞といえる撮影手法<バレットタイム>を茶化す。それもコントのようにエビ反って

いやいや、自虐ネタ『スースク』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』なら面白いが、シリアス路線の本作には不要だ。それも神聖なバレットタイムに。ちょっと先行きに不安を感じる。

映画『マトリックス レザレクションズ』15秒スポット(Story)2021年12月17日(金)公開

レビュー(ここからネタバレ)

ここから軽めにネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

ミスター・アンダーソン!

さて、職場に戻ったトーマス・A・アンダーソン。避難騒ぎに乗じて彼をスマホの指示でトイレにおびき出したモーフィアスと対面する。気がつけば銃撃戦。

「ミスター・アンダーソン!」
彼らに襲い掛かってきたのは、上司と思っていた男、エージェント・スミス(ジョナサン・グロフ)

グラサンこそかけていないけれど、ジョナサン・グロフ顔立ちは結構スミスっぽい。ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世はちょっと本物っぽくないけれど、彼はプログラムで作られた存在なので、まあ似ていない説明はつく。

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白いウサギの入れ墨、セラピストの飼う黒猫デジャヴ―、時折ガラスに映る主人公たちの老いた姿。ここは現実世界ではない。真実の先を知る覚悟はあるか。

一作目と同じような展開だが、トーマス・A・アンダーソンは赤いピルを選び、そして再びネオとして現実世界のポッドで目覚める。

今回、固定電話の代わりに活用される水のように手が入っていく鏡、或いはモーフィアスの登場時に使われた広く真っ白な室内空間。毎度『ウルトラセブン』を引き合いに出して恐縮だが、前者はバド星人、後者はイカルス星人のエピソードに近い演出を感じる。ラナ・ウォシャウスキーなら、円谷プロも守備範囲かもしれないな。

私はトリニティ、新たなる救世主

さて、真実に目覚めたネオ。彼らを新生マトリックスに閉じこめて、羊のように従順な日々を送らせていたのは、セラピストとして登場していたアナリスト(ニール・パトリック・ハリス)だった。

この新たな敵に挑むネオ。だが、彼と同じようにマトリックスの中で、ティファニーと言う名前で夫と子供たちと暮らすトリニティが、そのままの人生を選べばネオの敗北運命は、彼女の選択に委ねられる

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本シリーズはこれまでラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹の共同監督で作られてきたが、本作はラナ単独で監督を務めており、リリーは参加していない

ここまでの過去作とのテイストの違い、テンポやバランスの悪さはリリーの不在によるものかはわからない。

ただ、二人ともシリーズ開始以降、トランスジェンダーの女性であることを公表し、手術を受ける等の変化もあり、作品への向きあい方が変わってきたことは感じ取れる。

社会は正しいとは限らず、自分の選択によって現実を手に入れるのだ

ティファニーの名は、女性差別や人種差別といった時代錯誤感が色濃い某作品に因んでいるのだろうが、彼女は夫に対して、「ティフと呼ばないで、私はトリニティよ!」と宣言し、家族を捨ててネオの元に戻る。これは不倫ドラマなのか。私は一体何を観ているのか。

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失われたマトリックスらしさ

これまでは白人男性であるネオが救世主であったが、本作では明らかに、トリニティがその役を担っている。ネオの代わりに空を力強く飛翔するのも彼女であり、敵を力でねじ伏せるのも彼女だ。本作でのネオは、防御壁の役割に徹している

ネオの圧倒的なパワー、そしてバレットタイムの興奮を期待する観客には、ちょっと物足りないだろう。かつてSFアクション映画を牽引した本作に、ライバルたちは追いつき追い越してしまったのか。

クルマで逃げるネオとトリニティを、アナリストが操って、ビルの窓から次々と人間爆弾を飛び込ませて殺そうとするシーンは圧巻だった。だが、そのほかには、過去作のように他者の追随を許さない特撮シーンは思い出せない。

ナイオビ(ジェイダ・ピンケット・スミス)や、メロヴィンジアン(ランベール・ウィルソン)、さらには、『レボリューションズ』では小さな女の子だったサティー(プリヤンカー・チョープラー・ジョナス)までが登場し、映画の盛り上げに一役買うものの、やはり飛べないネオには魅力半減。老けっぷりが痛い。

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本作に新たな可能性があるとすれば、エージェント・スミスが、かつて自分を自由にしてくれたネオの味方について、アナリストに一矢報いるところだろうか。

ネオとスミスが組む戦いは見てみたかった気がするが、今回分身の術が披露されないのは寂しい。スミスの更なる活躍に期待したいところだが、次回作があると思うほど私も楽天家ではない。

エンドロール後のオマケ映像も悪ノリだなあ。こんなところでMCUの真似をしてどうする。SFアクションの金字塔『マトリックス』なのだから、泰然自若として、いつもの激しい音楽で終わればよいものを。

しかも、次回作に繋がる訳もない、つまらぬジョークで締めるのは、どういう狙いだろう。これならエンドロール前に席を立った方がよい