『007 ダイ・アナザー・デイ』
Die Another Day
007シリーズ第20作、ピアース・ブロスナン版ボンドの最終作。ボンドガールにハル・ベリーとロザムンド・パイク。
公開:2003 年 時間:133分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: リー・タマホリ 原作: イアン・フレミング キャスト ジェームズ・ボンド: ピアース・ブロスナン ジンクス: ハル・ベリー ザオ: リック・ユーン グスタフ・グレーブス: トビー・スティーブンス ミランダ・フロスト: ロザムンド・パイク ムーン大佐: ウィル・ユン・リー ムーン将軍: ケネス・ツァン M: ジュディ・デンチ マネーペニー: サマンサ・ボンド Q: ジョン・クリーズ ダミアン・ファルコ: マイケル・マドセン ラウル: エミリオ・エチェバリア
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
北朝鮮で武器の密輸に携わるムーン大佐を暗殺したボンドは、その直後に敵に捕らえられ拷問を受ける。
14カ月後、逮捕されたムーン大佐の側近ザオとの捕虜交換によってボンドはようやく解放されるが、Mはボンドが情報を漏洩したと疑い諜報員の資格を剥奪。
ボンドは自らにかけられた疑いを晴らすため、ザオを追ってキューバへと向かう。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
かつてない重苦しい導入部分
シリーズ第20作で40周年というダブルアニバーサリー作品。ピアース・ブロスナン最後の出演作ということもあり、興行成績はよかった。
今回のアヴァンタイトルは重たい。舞台も北朝鮮となかなか際どい設定だが、ダイヤと武器の闇取引に携わるムーン大佐(ウィル・ユン・リー)をホバークラフト対決で滝つぼに落下させたボンドが、その父親で国を支配するムーン将軍(ケネス・ツァン)に捕まり拷問を受ける。
なんと、ここでメインテーマ曲。これまでの、タイトル前にひと暴れして軽快に始まる雰囲気とは真逆である。
◇
そして14か月後、髭ぼうぼうで汚れにまみれた姿のボンドが、ザオ(リック・ユーン)との捕虜交換でやっと英国に戻ってくる。ザオはムーン大佐の右腕として活躍していた男だが、中国の諜報員三名を殺害して捕まっていた。
しばらくぶりにダンディな姿に戻ったボンドだが、Mからダブルオーの資格を剥奪されてしまう。
北朝鮮でCIAの諜報部員が殺され、ボンドによる機密情報漏えいが疑われていたのだ。これ以上の被害拡大を防ぐために、CIAとMI6が連携し、しぶしぶザオの釈放を許可した。
剥奪された殺しのライセンス
敵に捕まって拷問を受ける、殺しのライセンスを剥奪される、ともにトム・クルーズやダニエル・クレイグにも出てきそうなエピソードだが、これまで常時余裕のブロスナンにしては珍しい展開。
結局彼は、香港で中国諜報員チャン(ホ・イー)と強引に交渉し、彼の助けでザオのいるキューバへと飛ぶ。
◇
ハバナでのボンドはアメ車にグラサン、開襟シャツに葉巻と、いつも以上に自由気ままな印象。
そして海岸から現れるジンクス(ハル・ベリー)と出会い、即ベッドイン。軟禁生活直後だからやむないとするのか、節操がないと呆れるべきか。
ジンクスの正体はアメリカ国家安全保障局(NSA)のエージェントで、二人はハバナの島でザオに接近するも逃げられ、残した人造ダイヤを手掛かりにダイヤ王グスタフ・グレーブス(トビー・スティーブンス)という人物にたどり着く。
ボンド・ガールより悪役で牽引
ハル・ベリーはメインのボンド・ガールに黒人女性として初めて起用だそうだ。最近のシリーズ作品ではマネーペニーのナオミ・ハリスもボンドに劣らず活躍中であり、本作あたりからダイバーシティをようやく意識しだしたのか。
当時、彼女は『チョコレート』で主演女優賞のオスカーを獲ったばかり。また、本作公開の直後に『X-MEN2』の広宣が始まって、ハル・ベリーどんだけ売れてんだ、と驚いた記憶がある。
◇
ただ、映画の面白さからみると、ジンクスよりも、今回は悪役陣のキャラで牽引している印象。
無表情なうえに顔にあしらった宝石のようなピアスがクールなザオの不気味さ。対照的に、短気で負けず嫌いで自己顕示欲の強い、お子ちゃまキャラのグレーブス。
ボンドとの賭けフェンシングで、文字通り真剣勝負に挑んでしまう無謀さ。でも、あそこまで互角に戦えるのだから、ただの億万長者ではなかったのだと、あとで正体を知り納得する。
死んだはずの男が生き返っていたので、そんなら、もう一回死ぬか?(Die another day)というボンドの台詞がタイトルにつながっている。
◇
グレーブスの広報担当として仕える女性ミランダ・フロストが、『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクだったとは、今回観直して初めて気づいた。
そう考えれば、ただの美人広報官の訳がない。MI6の諜報部員であり、更に裏の顔のある女なのだ。これは、彼女に似合い過ぎる役。
アイスランドの氷のホテル
今回、アクションの見せ場として思い出すのは、アイスランドの氷のホテルの内部や、氷上でのカーチェイスだろうか。ボンドが身体を張ったと言う点では、フェンシングも見応えがあった。
ただ、それ以外のアクションシーンは、さほど印象に残らない。これって合成っぽくない? と思えるシーンもいつもより目立った気がする。
◇
今回はダブルアニバーサリー作品のせいか、過去作品のオマージュみたいなネタがいっぱい転がっている。全て気づいた訳ではないが、不自然に仕込まれたものも多い。
ただ、普通に作っても、本シリーズはマンネリ化の不安があるから毎回工夫しているのであって、今回の取り組みが、オマージュなのか、ただのワンパターンなのか、見分けがつきにくい。
例えばイカロス計画のシーンは『トゥモロー・ネバー・ダイ』のオマージュだと言われても、同じブロスナン作品で過去を振り返るのは早すぎ、と思ってしまう。
待ってたよ、アストン・マーティン
ボンド・カーについては、嬉しいことにアストン・マーティンが復活。ブロスナン版ボンドでもクラシックなモデルには乗っていたが、今回は最新のV12ヴァンキッシュ。これ以降、クレイグ版ボンドもアストンの新型モデルを乗り継いでいく。
◇
今回からBMWに代わりフォード社が協賛ということで、ボンドはアストンV12ヴァンキッシュ、ザオはジャガーXKRと、敵味方がフォード傘下メーカーの英国車に乗るという展開になった。
そういえば、冒頭の北朝鮮ロケでも複数台の高級車の中でフォードGT(『フォードVSフェラーリ』にも登場)が目立つわ、ラストでは飛行機からフェラーリやランボが落下し海に突き刺さるわで、協賛会社には相当義理立てしている様子。
まあ、内情はともかく、アイスランドの氷上でこの美しき獲物たち、いやクルマたちがスリップしまくりのカーチェイスを見せてくれるのは嬉しい。
どちらも著名なカーデザイナーのイアン・カラムの造形の流れを汲んだクルマであり、南極犬がじゃれ合っているような一体感がある。
ただ、ボンド・カーが光学迷彩で見えなくなる機能は、映画的には面白いのだが、せっかくの流麗なヴァンキッシュの車体が見えなくなるので、少々不満あり。
ガジェットについて
Qの開発したVRゴーグルは、時代の先取り感があってよい。復帰したボンドが、MI6の本部内で攻め込んできた敵を次々と銃撃し、Mにかすり傷を負わせたあとにVRだと分かるのは何となく読めた。
だけど、最後のマネーペニーの妄想にはすっかり騙されてしまったな。ボンドならあり得そうな話だし。
◇
ともあれ、ピアース・ブロスナンのボンド。こうしてクレイグ版と見比べると、初代コネリーを継承するキャラクターに近いように思えるし、改めて面白く鑑賞できた。シリアスさと笑いのバランスもいい。
女遊びだけは、当時もどうだったかと思うが、今なら明らかに違和感があり、#MeToo運動のあとでは、この路線での新作にはボンド・ガールの引き受け手にも影響があっただろう。その意味では、クレイグ版の路線変更は、時代の必然だったのかもしれない。
『ゴールデンアイ』
(1995)
『トゥモロー・ネバー・ダイ』
(1998)
(2000)
『ダイ・アナザー・デイ』
(2003)