『ザ・プロム』
The Prom
レズの恋人とプロムに行けない女子高生の応援に、落ち目のミュージカル俳優が田舎町まで出向いてくる。メリル・ストリープにニコール・キッドマン、この応援団のキャラが濃すぎる。キレッキレの体育館ダンスが最高。
公開:2020 年 時間:132分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ライアン・マーフィー
脚本: ボブ・マーティン
チャド・ベゲリン
キャスト
エマ・ノーラン:
ジョー・エレン・ペルマン
ディーディー・アレン:
メリル・ストリープ
バリー・グリックマン:
ジェームズ・コーデン
アンジー・ディッキンソン:
ニコール・キッドマン
トレント・オリヴァー:
アンドリュー・ラネルズ
トム・ホーキンス:
キーガン=マイケル・キー
アリッサ・グリーン:
アリアナ・デボーズ
ミセス・グリーン:
ケリー・ワシントン
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
ニューヨークの元人気舞台俳優ディーディー(メリル・ストリープ)とバリー(ジェームズ・コーデン)は、新作ミュージカルが失敗し役者生命の危機に立たされる。
一方、インディアナ州の田舎町では、恋人同士の女子高生エマ(ジョー・エレン・ペルマン)が、女性カップルでプロムに参加することを禁止され悲嘆に暮れていた。
ひょんなことからその事実を知ったディーディーとバリーは、この機会を利用して自分たちのイメージを挽回しようと思いつき、同じくキャリアアップを狙うアンジー(ニコール・キッドマン)らとともに計画を練る。
レビュー(まずはネタバレなし)
これは元気の出るミュージカル!
ミュージカル『プロム』を映画化したもので、『glee/グリー』のライアン・マーフィーが監督をしているだけあって、とにかくノリがよいし、理屈抜きで楽しい映画に仕上がっている。きっとミュージカルも面白いのだろう。
◇
今更説明不要だろうが、プロムとは高校の卒業ダンスパーティみたいなもので、米国では結構重要で盛大なイベントに位置付けられている。
映画としての記憶は、『プロムナイト』や『キャリー』のように、どちらかというとホラー映画と馴染みが深い(個人的印象)。
本作も、ただのバカ騒ぎ映画ではない。根底には、結構今風な(そうでもないか)テーマを扱っている。
ゲイやレズビアンはプロムに参加させないという保守的なPTA連中に、どう自分たちの価値観を認めてもらうか。舞台がインディアナの田舎町であり、古い観念が根強く残っているのだ。
一方で、ブロードウェイのミュージカルで知られた元人気俳優のディーディー(メリル・ストリープ)とバリー(ジェームズ・コーデン)が新作の酷評で窮地に陥る。
同じく芽の出ないコーラスガールのアンジー・ディッキンソン(ニコール・キッドマン)や、ジュリアード卒が自慢のトレント・オリヴァー(アンドリュー・ラネルズ)。
この四人が売名目的で、このレズビアンの高校生エマ(ジョー・エレン・ペルマン)の力になってあげようと、マンハッタンから田舎町まで乗り込んでくるのである。
◇
まあ、ストーリーとしては荒唐無稽なのだが、それでも出演者がみな自分の心情を切々と歌い、そして踊る姿をみていると、たまにはこういう格調は高くない、だが勢いのあるミュージカルも楽しいなあと、心底思える。
年の瀬に観るにふさわしい、元気の出る作品なのだ。
キャスティングについて
メリル・ストリープが元人気女優ディーディーを演じるのだから、そのオーラも含めて板についているのは当然で、更にナルシストでセレブ意識が高いのもぴたっとハマる。
主役は私じゃないのよ!(エマなのよ)、と堂々と体育館で歌う彼女の姿の、あまりのバカらしさに笑う。
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そして同じく俳優でナルシストの俳優バリーを演じたジェームズ・コーデンの、恰幅の良い体型と痛快なキャラがいい。
同じくミュージカル映画『キャッツ』ではゴールデンラズベリー賞(最低助演男優賞)となってしまったが、本作の彼はいい。しかも、後半では自分がゲイであることの両親との確執なども語られ、意外と泣かせる。
◇
アンジー・ディッキンソンの役をニコール・キッドマンが演じるというのは、ちょっと豪華すぎる配役な気がする。売れない女優に見えない存在感だ。
私が一番気に入ったキャラは、学歴を鼻にかけ演劇論をふっかける、トレント・オリヴァーのアンドリュー・ラネルズ。
彼は実際にブロードウェイでよく知られた俳優であり、『ヘアスプレー』、『ジャージー・ボーイズ』、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』、『ハミルトン』などで活躍してきた。
◇
そして、本来の主人公といえる、彼女とプロムに参加したい女子高校生エマ役のジョー・エレン・ペルマン。
映画は本作が初出演のようだが、歌も動きも表情も、どこか大スターとしての資質を感じさせ、また一人、この先の成長が楽しみな女優が現れたようだ。
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その他、エマの通う高校の校長で、彼女のよき理解者で、ディーディーの古くからのファンでもあるトム・ホーキンス役には『ルディ・レイ・ムーア』のキーガン=マイケル・キー。
また、エマを排除したがる筆頭格のPTA会長には、『ジャンゴ 繋がれざる者』のケリー・ワシントン。
レビュー(ここからネタバレ)
ネタバレといってもミュージカルなので大した重要情報はないですが、未見の方はご留意願います。
ブロードウェイから田舎町へ
さて、本作の醍醐味は何と言っても歌とダンス。前半はまだ、一生懸命に練習すれば、一般ピープルでも何とかいけるかなというダンスで、これは宴会の余興でやったら拍手喝采かもと思えた。
ただ、後半のプロムに入ってからの集団で踊るヤツは、さすがに唖然。これは完全にボケーっと見惚れるしかないハイレベル。
四人がインディアナに押しかけて、何もない田舎町に驚くエピソードはクスりと笑える。
ホテルのフロントでいい部屋を取るには、数々の受賞トロフィーより、三流テレビドラマの出演の方が顔が利くところとか(常にトロフィー持ち歩いてるのかね)。
また、プロムのドレスを買いに行くのに、「サックスはないけど、Kマートならあるよ」と言われるところとか。昨日観た邦画『もみの家』で、「この辺にはイオンしかねえぞ。イオンばかにすんな」という台詞を思い出した。
◇
ともあれ、これでめでたく晴れの舞台・プロムに参加するのだと思っていたが、まだ時間的にも終わるには早い。
そして、めかし込んだエマを送り出したあと、気が付けばディーディーは駐車場を見渡して不審な表情をしている。
そう、我々日本人には理解しにくい感覚なのだが、ここには、プロム会場に集まった大勢の高校生のクルマが停まっていないといけないのだろう。
ご都合主義でも音楽の力でねじ伏せる
結局エマは、恋人であるアリッサ(アリアナ・デボーズ)の母親グリーンPTA会長の策略で、プロム参加は叶わず、悲嘆に暮れることになる。
エマにとってプロムに参加することは大きな事だが、性別によらず人を愛する気持ちを認められず、踏みにじられることは、もっと許せないこと。
彼女は、音楽配信によって自分の思いを共感してくれる人々に広めていくという、いかにも現代的な手段にでる。
◇
ここから先は、ややご都合主義でもあり、人権啓発の授業のようになってしまうが、そんな違和感は音楽でねじ伏せてしまうくらいの説得力がある。
最後は当然ハッピーな結末だ。ディーディーは校長といい仲になり、バリーは母親との関係を修復する。アンジーは大きな役の代役オファーを受け、トレントはこの高校で演劇論の教職を得る。
諸悪の根源であったグリーンPTA会長は、娘アリッサを認め仲直りするのはいいのだけれど、もうちょっと痛い目にあってくれないと、なにかスカッとしない。まあ、エマが幸せそうなら、どうでもいいか。