『ガタカ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ガタカ』今更レビュー|題名は覚えにくいけど知る人ぞ知る傑作SF

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『ガタカ』
 GATTACA

20年前はまだSF映画だった。今では現実社会を描いた作品に思えるが、見逃してはいけない完成度だ。ただ、ベッドに落ちた抜け毛に神経質になる主人公は、真の理由があるにせよ、何とも切なくみえるのである。

公開:1997 年  時間:106分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:    アンドリュー・ニコル

キャスト
ヴィンセント: イーサン・ホーク
ジェローム:  ジュード・ロウ
アイリーン:  ユマ・サーマン
アントン:   ローレン・ディーン
ヒューゴ捜査官:アラン・アーキン

勝手に評点:4.5
(オススメ!)

ポイント

  • 低予算でも、いや、だからこそ、アイデアとセンスでここまで到達できる。日本では知名度こそ低いが、傑作SFといえば忘れてはならない一本。ジュード・ロウが美しい

あらすじ

遺伝子操作で生まれた<適性者>が社会を支配する近未来。自然出産で誕生したヴィンセント(イーサン・ホーク)は、<不適正者>として冷遇される人生を歩んでいた。

彼は幼い頃から宇宙飛行士を夢見ていたが、それは適性者のみに許される職業だった。

ある日、ヴィンセントはDNAブローカーの仲介で、下半身不随となった元水泳選手ジェローム・モロー(ジュード・ロウ)の適性者IDを買い取る。

ジェロームになりすまして宇宙局ガタカに入社したヴィンセントは、努力の末についにタイタン探査船の宇宙飛行士に選ばれる。

レビュー(ネタバレなし)

冒頭の数分で話に引き込まれる

久々に観返す。この映画ほど、完成度の高さのわりに知名度が低いSF映画は、ほかにあまり思い当たらない。安易にSFというレッテルを貼ってしまうから、観客層を狭めてしまうのかもしれない。

実際には映画でも言っているように、<そう遠くない未来>の話だ。製作から20年も経過した今では、現実と重なる部分も多い。

遺伝子工学が進み、子供が産まれる際に疾病や障がい等の要素をすべて排除して出産するのが主流になった世の中で、自然分娩で愛の結晶として生まれたヴィンセント(イーサン・ホーク)は、病弱な<不適正者>というハンディを背負う。

<適正者>である弟・アントン(ローレン・ディーンには、知性・体力・健康面、全てにおいて敵わない。兄として劣等感だらけの幼少期に、到底不可能な宇宙飛行士になる夢を持つヴィンセント。

やがて成長したヴィンセントは家を飛び出すが、最下層の不適正者には、宇宙局ガタカの清掃業者の仕事しかない。

ある日思い立った彼は、早逝等で闇市場に出回っているエリートの適正者IDを闇ブローカーから買う。そして、交通事故で半身不随となった水泳界のスター、ジェローム・モロー(ジュード・ロウ)と出会うのである。

謎解きのテンポの良さがいい、ただタイトルは残念

ここまでで、現実にもありそうな展開の面白さに引き込まれ、そして不遇なヴィンセントの半生に感情移入している。そもそも冒頭のつかみが秀逸だ。

清潔すぎる部屋で剃った髭や抜け毛を焼却炉で燃やし、ねつ造した指紋を貼り、怪しげな褐色の液体のパックを持って、この男は何をしているのだろう?

という疑問が、ガタカの入館ゲートや尿テストの実施などで、次々に解明していくところが心地よい。彼が異常なまでにきれい好きで、塵ひとつ落とさない理由も、分かってくるのだ。

オープニングの出演者のクレジットで強調されるG,A,C,TはDNAを構成する要素のイニシャルだろうと想像できた。伊坂幸太郎の「重力ピエロ」を覚えていたおかげだ。

ただ、これに因んだ『ガタカ』というタイトルは正直、失敗だったと思う。印象に残りにくいし、イメージも湧かない。本作を高く買っている私だって、たまにカダカと言ってしまうほどだ。

SFをそれらしく見せるのは、結局センスなのだ

本作で驚嘆に値するのは、その近未来社会の描写のセンスの良さだろう。SFと言いながら、目をみはる特撮的な絵面は皆無に等しい。

クルマはクラシックカー(電気自動車の設定)、PCのモニターとキーボードも現行仕様、出てくる家電も今と大差ない冷蔵庫や掃除機、ID判定の画像だって粒子が粗い。殆ど現代ドラマと変わらない素材なのだ。

だが、フランク・ロイド・ライト設計のシビックセンター等の未来的なロケ地を活用し、非日常の空気感を巧みに演出することで、比較的低予算だが、いささかもチープ感のない、近未来を作り出すことに成功している。

監督のアンドリュー・ニコルは本作がデビュー作。その後も、近未来SFのジャンルを中心に複数作品を撮っており、イーサン・ホークとは『ドローン・オブ・ウォー』でも組んだりしている。

だが、私が観た彼の作品の中では、本作を超えるものはない。デビュー作が凄すぎるのだから、無理もないか。

主演のイーサン・ホークと、彼にIDを譲るジュード・ロウの配役が絶妙すぎて、ほかのキャスティングが想像できない。

ちょっと悪ガキっぽくて不適正者の匂いを残す、まだ若造のイーサンもいいし、ジュード・ロウの、おそろしく美しい顔立ちの車椅子の男という役柄もいい。

レビュー(ネタバレあり)

近未来の『太陽がいっぱい』なのか

なんとかジェロームになりすますことに成功したヴィンセントは、その優性IDだけで面接もなくガタカに入り、念願の宇宙飛行士としてタイタン行きのメンバーに選抜される。

だが、そんな矢先に、彼を怪しんだ上司が何者かに撲殺される。施設内の徹底捜査で、ヴィンセントのまつ毛がみつかり、それが不適正者のものだというだけで、ヴィンセントは指名手配される。

彼自身はジェロームになりすましているため、すぐに逮捕はされないが、徐々に捜査網は狭まっていく。

完全なりすまし成功のはずが、まつ毛一つで、身元がバレてしまいそうになる展開は、『太陽がいっぱい』のリプリーを思わせる。

執拗に犯人を追う二人の捜査官(ローレン・ディーンアラン・アーキン)、そして、いつしかヴィンセントと惹かれ合っている同僚のアイリーン(ユマ・サーマン)を交えながら、はたしてヴィンセントは身元がバレずにタイタンに飛べるのか、そして上司殺しの真犯人は誰なのかという二つの軸で話が進む。

映画自体は面白いが、ちょっと残念な点や不可解な点もある。
(ここから更にネタバレです)

真犯人は被害者に遺した犯行時のDNAから、いとも簡単に見つかってしまう。犯人としては順当だと思うが、解明があまりに淡泊なので、もう少し盛り上げてもらいたい。

そして捜査官の一人はなんと、ヴィンセントの弟アントンだったのは、驚いた。というか、二人とも何度か捜査中に会っていながら、兄弟だと気づかないというのは、やや説明が苦しい。

最後まで失速しない完成度の高さ

だが、そんな些細なことは忘れよう。本作はラストの二段構えのキレも鮮やかだ。

再会した弟と再度海中でのチキンレースで勝負したヴィンセントは、ここで弟に勝つ。

不適正者がなんだ、俺は俺だ。アイリーンとの愛の行為のあとでDNAの採取を恐れ抜けベッドの毛を気にするのも、素っ裸で浜辺で身を清めるのももうごめんだ。

6本指のピアニストが誰も真似できない演奏で魅了したように、彼も他人のなりすましではなく自分として勝負に出ようと思ったのだろう。

タイタンに向かうロケットに乗り込む寸前の最後の尿検査。ヴィンセントは自分の尿を提出し、不適正者として検出される。

そこを粋な計らいで見逃してくれるのは、普段は融通の利かなそうに見えた医師。息子も不適正者だという医師(ザンダー・バークレー)は、彼に希望を見出したのだ。

そして、残されたジェローム。彼は一生分のDNAサンプルを残し、旅に出ると言い残しながら、ヴィンセントのロケットの発射に合わせるように、部屋の焼却炉に身を投じる。

地球を立つ友人に思いを託し、自分という証拠を隠滅したのだ。冒頭に出てきた部屋の焼却炉が、ここで再登場しようとは、よく考えられている。

ジェロームが遺髪を残し宇宙の塵に戻るラストには、希望の光がある。美しくも切ない余韻に浸ろう。

本作は2011年にNASAが選んだ現実的なSF映画の堂々第1位に選ばれている。納得である。というより、近年ではもはやSF映画ではなく現実的なサスペンス映画になってしまったのかもしれない。