『オクジャ/okja』
ポン・ジュノ版のナウシカと王蟲だ。巨大豚オクジャを食肉加工から救えるかのダークファンタジー。韓国の深い山奥で育った少女が、お爺ちゃんと育てた巨大な豚との固い絆で、多国籍食品企業の陰謀に立ち向かう。
公開:2017 年 時間:110分
製作国:韓国
スタッフ
監督: ポン・ジュノ
キャスト
ミジャ: アン・ソヒョン
ルーシー/ ナンシー・ミランド:
ティルダ・スウィントン
ジョニー・ウィルコックス博士:
ジェイク・ギレンホール
ジェイ: ポール・ダノ
ケイ: スティーヴン・ユァン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
多国籍食品企業大手ミランド社のCEOルーシー(ティルダ・スウィントン)は、発見された特別な子豚を世界約26各国の市民に預け、10年かけての育成コンテストを開催。
その一人が、韓国の山奥で祖父とともにスーパーピッグ・オクジャを育てた少女ミジャ(アン・ソヒョン)。
ミジャとオクジャは強い信頼関係で結ばれ、家族のように暮らすが、ミランダ社の広告塔の動物学者(ジェイク・ギレンホール)の審査で優勝したオクジャは、米国に移送されてしまう。
オクジャを奪還すべく単身で動き出すミジャの前に、過激な行動をとる動物愛護団体ALFのメンバーが現れ、手を差し伸べる。はたして、オクジャは食肉加工の危機を回避できるか。
レビュー(ネタバレあり)
『パラサイト 半地下の家族』で見事カンヌとアカデミーのダブル受賞を果たしたポン・ジュノ監督、その前作にあたるダーク・ファンタジー。
『グエムル-漢江の怪物-』以来約10年ぶりの大きな生き物の映画である。コメディタッチだが、毒気も多く、『チャーリーとチョコレート工場』みたいなシニカルな世界観というと分かりやすいか。
カンヌ映画祭でパルムドールを争った際に、ネットフリックスの配信形態の評価を巡って議論が盛り上がったと記憶するが、その後、すっかり時代は変わってしまった感がある。
さて、このスーパーピッグ・オクジャ。グエムルと違って気立ての優しい巨漢である。山奥で育ったからオクジャと名付けられたわけでは、けしてない。
ちなみに、私の耳で聞くと、ミジャが「オクジャ―」と呼ぶイントネーションは「アジョシ―」に近い。
このオクジャが巨体を揺らしながら、案外機敏に動くさまは円滑な動き。ミジャがオクジャを載せた大型トラックを追いかけ、車体に飛び乗ったりトンネルに入ったりのアクションも、韓国の街並みを活かしていて面白く、実に心地よい。
ALFの登場あたりまで、いいテンポで話が進んでいき、安心して楽しめる。
映画から伝わる印象がジブリ・ワールドのようだ。後半で、ミランダ社の非道な仕打ちに目を赤くして興奮するオクジャをなだめるミジャが、自分の身体を盾にして攻撃から庇う。
「ああ、これは風の谷のナウシカと王蟲だ」
と気づき、腑に落ちる。となると、ミランダ社の企む遺伝子操作の食品提供計画なども、「地球、あぶない」というナウシカのメッセージに重なったりして。
そう思っていたら、ポン・ジュノ監督自身、ミジャは『未来少年コナン』の女の子版(つまり、ラナではない)をイメージしたような発言をしているらしい。私の想像は、当たらずも遠からずか。
ミランダ社のCEOを演じたティルダ・スウィントンや動物学者のジェイク・ギレンホールも、相当はじけた演技で楽しませてくれるが、今回はALFのリーダー、ジェイ(ポール・ダノ)が頼もしくてカッコいい儲け役。ギレンホールの「プリズナーズ」に出ていた頃とはずいぶん様変わりしている。
終盤の食肉工場だけは結構グロいシーンが多いのだが、そのせいでR15指定になっているのなら、ここをマイルドにして家族で観られるようにする手もあったかと思う。
さて、ここまで存分に楽しめた本作だったが、最後の最後でカネの話にしてしまったのが、ちょっと残念。
しかも、ミジャの持つ純金のブタってCEOの心をグラつかせるほどの価値だったのか? もともと、ミランダ社からもらった資金で買ったものじゃなかったか。
結局、オクジャ以外の多くの仲間は救えていない。みんな逃がしてほしかったよ~、と、ラストで豚たちの悲しい悲鳴を聞きながら思う。