『ボーダー 二つの世界』 考察とネタバレ:異なる世界の間には、境目が必要なのか

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『ボーダー 二つの世界』 Gräns

不審者を嗅ぎ分ける、獣のような風貌の税関の女。幼虫を運ぶ怪しい旅行者との不思議な魂の通じ合い。『僕のエリ 200歳の少女』原作者共同脚本による、スウェーデンの自然と伝承が織りなすダークファンタジー。

公開:2018 年  時間:108分  
製作国:スウェーデン

スタッフ 
監督: アリ・アッバシ
原作:
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト

キャスト
ティーナ:  エヴァ・メランデル
ヴォーレ:  エーロ・ミロノフ
ローランド: ヨルゲン・トーソン

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

あらすじ

スウェーデンの税関に勤めるティーナ(エヴァ・メランデル)は、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける能力を持っていたが、生まれつきの醜い容姿に悩まされ、孤独な人生を送っていた。

ある日、彼女は勤務中に怪しい旅行者ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)と出会うが、特に証拠が出ず入国審査をパスする。ヴォーレを見て本能的に何かを感じたティーナは、後日、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。

次第にヴォーレに惹かれていくティーナ。しかし、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった。

レビュー(まずはネタバレなし)

国境の長い廊下を抜けると税関だった

入港した船と長い通路、税関に獣のような風貌の、虫を好む女。冒頭の数分で、既にただならぬ雰囲気が充満している。どんな不法持込も一発で嗅ぎ分ける、この麻薬犬のような女は一体何者なのか。

そしてある日、通路の彼方から現れる、似たような風貌の男。時限爆弾のような箱にはたくさんの幼虫。おまけに、調査した同僚によれば、男は性別が違っていたと。

一体、どんな話が始まるのだ。同じ原作者によるスウェーデン映画の佳作『僕のエリ 200歳の少女』以上に読めない。

言葉が分からないだけで勝手な思い込みかもしれないが、本作はスカンディナヴィアの言語舞台となったスウェーデンが、独特のイメージを打ち出している。

北欧伝承ネタが使われていることや、湖や森林といった大自然が大いに活かされていることからも、スウェーデンらしさが濃厚に出ていることは大事な要素なのだろう。

「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督も本作を高く評価、とよく謳われている。確かにテイストが似ているので、納得感はある(本作はモンスターとは違うけど)。

(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

レビュー(ここからネタバレ)

ムーミン谷の仲間たち

自分は染色体異常だ」とティーナは言ったが、何が正常で何が異常か、誰が判断できるのだろう。分かったのは、彼らは違う染色体をもつ種、ということだけだ。

「トロール」、ヴォーレはそう名乗った。北欧でいう醜い感じの妖精か、『ホビットの冒険』とかに出てくるやつだ。北欧といえば、ムーミンだって、正しくはムーミン・トロールだぞ。何となく、彼らに体型も似ている気がする。

人もトロールも、同じ者同士の集団で生きることが、やはり幸福なのだろうか。

人間社会で頑張って立派に生活していたが、やはりティーナは傍目にもつらそうだった。

先日観た『オールド・ガード』や、私がよく引き合いに出す『X-MEN』では、ミュータントは同じ能力の仲間を引き込んで、ともに生活しようとする。その方が、安全で楽だから。

人間社会で暮らすティーナは、性同一性障害に苦しみながら、我慢して生きているのと近いのかもしれない。周囲には理解されず、自分で悩みを抱え込むしかない。

人と違う点で苦しんでいる彼女が、フィンランドにあるというトロールの集落に入れれば、安らかな日々が過ごせる可能性は高そうだ。

だがそれは、人間は肌の色で分かれてそれぞれ生活した方が幸せだよ、と言っているのと違わない。それが答えなのか?

ティーナもヴォーレも、独特の面構えをしている。特殊メイキャップの技術の高さが生み出す獣のような顔は、強烈にグロテスクな印象を与えるが、物語が進むうちに、いつしか見慣れてしまう。

むしろ、あの風貌があってこそにじみ出る悲壮感のような味わいがある。

全ての謎は解かれた

ティーナのこれまでの人生を思うと切なくなる。

自慢の嗅覚を活かして税関の職で実績を上げてはいるが、なぜ虫に惹かれるかも、自分の体の傷のことも分からない。一緒に暮らすローランド(ヨルゲン・トーソン)との生活にもすれ違いばかりで幸福感はない。

だが、よく船に乗って入国してくる、自分と同じような風貌の男・ヴォーレに、不思議と近しいものを感じ始める。

原題でもある<ボーダー>は、文字通り税関のある国境であり、また人間とトロールとの境目を示しているのだろう。

ティーナは自分を染色体異常者だと思っていたが、ヴォーレは、人の感情が分かる嗅覚の鋭さ、尾っぽを切った傷跡、雷に打たれた痕跡から、彼女を同種と見抜く。

これまで、自分でも分からなかった数々の違和感や、苦しんできた悩みが、ヴォーレによって解明され、二人で抱き合うことで、全て雲散霧消するのだ。

この瞬間の彼女は幸福感で満たされたことだろう。そして彼女は、同棲する男を放り出し、介護施設にいる父親には、本当の両親のことを問い質す。

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チェンジリング

ヴォーレが復讐行為に走っていることは、予想外だった。見た目は凶暴そうだが、きっと心優しいトロールで、ティーナと愛を育むのかと思っていたら、いきなりの暴挙に出る。

両親を実験材料として拷問され、ヴォーレ自身も孤児院のたらい回しの中で、人間たちに辛い仕打ちをされてきたのだろうと想像はつくが、その復讐方法がたまげた。

定期的に産み落とされる未受精卵を人間の子供と取り替え子(チェンジリング)し、人間の子供を売ってしまうのだ。

『チェンジリング』とはアンジョリーナ・ジョリーの映画しか頭になかったが、本来は、幼児が盗まれ、代わりに妖精の子供が置いていかれるという伝承だというではないか。まさに、こちらが本家本元の取り替え子なのだ。

ヴォーレに比べれば、ティーナは恵まれているのだろう。彼女を貰い受け、育ててくれ家を残してくれた両親もいれば、職場でも彼女の能力は一目置かれている。ローランドだって、別に彼女につらくあたっている訳ではない。

それでも、真実を知った後の彼女は父親には厳しい。自分の出自を知り、両親の墓地を訪ねたティーナだが、そこは石ころのような墓石が数多く無造作に置かれているような場所だった。

(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

種の繁栄に向けて

フェリーでティーナと待ち合わせたヴォーレは、種の繁栄に向けて二人で歩みだせると思っていたようだ。連絡する術がないというフィンランドのトロール集落から、後日ティーナに赤ん坊が届くのも、ヴォーレの努力なのだろうか。

ティーナは、たとえ復讐でも、人間に対して残酷であることに意味を見出せなかった。

彼女は人間社会に居場所をみつけ、しっかりと馴染んでいたのだ。だが、やはり血は水よりも濃いのか、赤ん坊を抱くと、彼女の関心はフィンランドに向いたようだ。

ラストでティーナが赤ん坊のトロールに幼虫を与えると機嫌がよくなり、それを見て彼女も一瞬微笑む。それは本当に一瞬なのだが、少しだけ彼女の人生に光明がさしたようだ。

以上、お読みいただきありがとうございました。原作もぜひ。