『見はらし世代』
カンヌの監督週間に最年少で選出された団塚唯我監督による、再開発の渋谷を舞台にした風変りな家族ドラマ
公開:2025年 時間:115分
製作国:日本
スタッフ
監督・脚本: 団塚唯我
キャスト
高野蓮: 黒崎煌代
(少年時代) 荒生凛太郎
高野恵美: 木竜麻生
(少女時代) 石田莉子
高野初: 遠藤憲一
高野由美子: 井川遥
佐倉マキ: 菊池亜希子
安藤明: 中村蒼
佐々木タクヤ: 中山慎悟
平田実: 吉岡睦雄
張玉雯: 蘇鈺淳
藤井奈月: 服部樹咲
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
渋谷で胡蝶蘭の配送運転手として働く青年・蓮(黒崎煌代)は、幼い頃に母・由美子(井川遥)を亡くしたことをきっかけに、ランドスケープデザイナーである父・初(遠藤憲一)と疎遠になっていた。
ある日、配達中に偶然父と再会した蓮は、そのことを姉・恵美(木竜麻生)に話すが、恵美は我関せずといった様子で黙々と自らの結婚準備を進めている。そんな状況の中、蓮は改めて家族との距離を測り直そうとする。

レビュー(まずはネタバレなし)
家族が一緒にいた時代
監督・団塚唯我がカンヌ国際映画祭の監督週間に、日本人史上最年少の26歳で選出されたことで話題になった作品。たしかに、今後の日本映画界に新しい旋風を巻き起こすような期待を感じさせるものだった。
再開発でめざましい渋谷の街を舞台にしているだけあって、いまこの時でなければ撮れないであろう映像に溢れている。
団塚監督の父親は、本作で遠藤憲一が演じているランドスケープデザイナーと同様にMIYASHITA PARKの設計に携わった人物だといい、それゆえかドキュメンタリータッチになる場面が多少挿入されているが、この映画はあくまで家族ドラマだ。
映画は冒頭、まだ小学生の姉弟を連れた高野夫妻が、高速道路のSAで食事をしているシーン。つい見過ごしてしまいそうだが、そのファーストカットは天井で点滅する電球。これには意味がある。
家族は海辺の別荘に向かっている。裕福そうな一家だが、やがて父親の高野初(遠藤憲一)が建築家だと分かってくる。急な仕事で東京に戻る必要が生じ、そのせいで妻の由美子(井川遥)とは険悪な空気が生まれる。
夏の陽射しとアングルのせいで、井川遥の顔がはっきりと見えない。そのせいもあり、仕事よりも家族を大事にしてほしいと切望する由美子の内面はよく分からないが、その後10年半の歳月が流れる。

サッカー小僧だった蓮(黒崎煌代)は渋谷区で胡蝶蘭のデリバリーの仕事をしている。近々結婚する予定の姉・恵美(木竜麻生)とは仲が良いが、父とはもう7年近く会っていない。
その父はMIYASHITA PARKを代表作とし、ランドスケープデザイナーとして活躍しているようだが、母の三回忌以降、子供たちと別れ海外に行ってしまったという家庭事情がやがて分かってくる。
確かに別荘での由美子は影が薄く、『平場の月』で重病でも生命力漲る主人公を演じた井川遥とは別人のようだったが、その死因も明かされず(自死なのかな)、ナレ死未満の扱いで物語が進むのはなかなか斬新。

MIYASHITA PARK
胡蝶蘭の配達で突然に父親と7年ぶりの再会することになる蓮。心の整理がつかない彼の心情そのままのように、物語も混沌とした状態で家族のありようを探っていく。
屋上に公園を配し街の猥雑感も共存させたMIYASHITA PARKは日々若者で賑わっており、渋谷の大規模再開発の中では商業的にも成功している方なのだろう。
だが、昔の宮下公園を知る者にとっては、映画にも出てきたホームレス排除問題は確かに気になる。
炊き出しの列に加わったり、高価な胡蝶蘭の花のひとつをこっそり切り取り細やかな抵抗を示したりする蓮を通じて、この社会問題も作品に絡めてくる。「それは行政の問題だろう」と部下女性にいう初の台詞が空回りする。
◇
初の個展が開かれているのは代官山のヒルサイドテラスだ。人と町の共存を掲げた人間味ある傑作は何十年たっても輝きを失わない。MIYASHITA PARKのアンチテーゼとして持ってきたのだろうか。
そういえば、初の設計事務所が入っているガラス張りのビルは田町にあるシバウラハウス。普段よく目にしているはずなのに、渋谷区だと思いこんでいたせいで、気づかなかった。
遠藤憲一の存在感の大きさについては今更いうまでもないが、本作での注目はやはり主演の黒崎煌代だろう。本作の翌年のカンヌに出品された濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』では特異なキャラゆえに普通の青年としての演技力がよく分からなかったが、本作での演技は圧巻。
ルックスとはギャップのある超低音の大人びた声もいい。今更父親と会おうともしない、サバサバと自分の人生を歩む姉と違い、父とどう向き合っていいのか悩む姿が胸を打つ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
父親が再婚を考えている事務所のスタッフ佐倉マキ(菊池亜希子)は、偶然ピラティス教室で恵美とは知り合いとなっていた。
やがて蓮の発案で、父と姉弟は10年前と同じ高速道路のSAで落ち合うこととなる。そこにマキも現れれば、家族は何らかの形で前進、もしくは瓦解するのだろうと思っていた。
だが、まったく予想外の展開がそこには待っていた。本編中に何度か、SAの電球が何度交換しても落下してしまうミステリーについてテレビ番組で紹介される。そう、冒頭の電球だ。

これが高野家の三人が再会したテーブルの脇に落下し、みんなが騒然となったところに、なんと由美子が現れるのだ。なんだこれ、愛する死者が蘇るファンタジーだったのか。遠藤憲一も出ていた昔の映画『ツナグ』を思い出す。
ここから先の展開は、理屈がついていかないのだが、それでも新世代の映画だなあという気がした。由美子は子供たちには何も語らず、夫だけを見ているところもユニークだ。
結局、この家族がどんな方向に進むのかは、あまり語られずに終わる。恵美はその後、マキを呼び出し別荘に向かうが、彼女が予定通り婚約者(中村蒼)と結婚するのかも懐疑的だ。

面白いのは、ラストシーンが、LUUPに乗って渋谷を走り回る若者たちの会話で終わること。
この集団の中にいる女性は、蓮が花屋で店長(吉岡睦雄)にクビを言い渡されて喧嘩になった際に、そこを見限って辞めた娘(『ミッドナイトスワン』のバレエ少女、服部樹咲!)である。
なぜ辞めたか不思議なシーンだったが、ここに繋がっているのか。まるで世代交代のようだ。
音楽の使い方も含め、何もかもが斬新。新星・団塚監督は次に渋谷を離れたときに、どういう新作を見せてくれるのかが楽しみ。
