『私をスキーに連れてって』今更レビュー|ホイチョイ的映画レビューこの一本⑤

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『私をスキーに連れてって』

ホイチョイ映画の原点にして頂点。三上博史と原田知世の共演で贈るデートムービー

公開:1987年 時間:98分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         馬場康夫
脚本:         一色伸幸


キャスト
池上優:        原田知世
矢野文男:       三上博史
佐藤真理子:     原田貴和子
小杉正明:       沖田浩之
羽田ヒロコ:     高橋ひとみ
泉和彦:         布施博
恭世:         鳥越マリ
ゆり江:       飛田ゆき乃
課長:         小坂一也
所崎:         竹中直人
田山雄一郎:      田中邦衛

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)1987 フジテレビ・小学館

あらすじ

矢野(三上博史)は商社勤めの平凡なサラリーマンだが、スキーに対する情熱は並外れていて、滑りの腕前も上々。

会社では目立たない存在の矢野は、シャイな性格で女性ともうまく話せなかったが、友人たちと出かけたクリスマスイブのスキー場で出会った優(原田知世)に一目ぼれ。

ようやく電話番号をおしえてもらうが、それはウソの番号だった…。

今更レビュー(ネタバレあり)

ホイチョイプロの映画を遡って観直してきたが、ついにデビュー作にたどり着く。バブル全盛期のデートムービーの決定版、『私をスキーに連れてって』馬場康夫監督作品の原点にして頂点だと確信する。

80年代後半に若者だった世代には、リア充であろうがなかろうが、どのシーンも感涙ものの作品なのではないか。逆に、バブルを知らない世代層には、当時の空気を知る意味で、恰好の教材といえるかもしれない。

総合商社・安宅物産に勤める<5時から男>の主人公・矢野文男(三上博史)が定時にひっそり退社して、クルマにスタッドレス履かせてスキー板をルーフに載せ、関越に向かう。

カローラⅡPIAAのフォグランプ。カーステにカセット入れると、松任谷由実「サーフ天国、スキー天国」。関越道で追い抜くスキーバスには、これから出会うであろうOLの池上優(原田知世)

ユーミンの曲が流れるタイミングに命かけてる馬場康夫監督だけあって、boy meets girlを匂わせる無敵の導入部だ。

矢野の気の合う仲間たちの顔ぶれとハイテンションなノリがトレンディ・ドラマっぽい。

クールなガジェット大好き小僧の小杉(沖田浩之)と、オラオラ系ガキ大将キャラの(布施博)。女性陣のヒロコ(高橋ひとみ)真理子(原田貴和子)はそれぞれこの男性陣とカップルだが、二人とも紅白のセリカGT-FOURを駆るスピード狂。

全員スキー好きなのは言うまでもないが(当時の若者は猫も杓子もスキーヤーだった)、矢野だけが恋人なし。

そんな彼が、偶然知り合った優にスキーを教えるうちに惹かれていくが、カノジョがいると誤解した優は、嘘の電話番号を教える。こうして話は焦らす展開になっていく。

ゲレンデで男女の仲間同士が滑る様子を、この映画ほど楽しそうに撮っている作品を他に知らない。当時、女の子は皆、原田知世になりきって雪上で指の銃で「バキューン」とやっていた。白いレディースのウェアは売り切れた。

原田知世出所を待って撮影開始となった(角川春樹事務所ね)。その解放感もあるのか、これまでの作品では見たことのない明るい表情と、イマドキのファッションが新鮮に見えた。往年のファンにとって、それは彼女の<解放の日>だった。

三上博史は、当初のキャストが降板したため、スキーのできる俳優として急遽抜擢されたようだが、今では彼抜きで本作は想像できない。彼も本作の好演で、人気は爆上がりした。

(C)1987 フジテレビ・小学館

令和の時代に改めてこの映画を観ると、仕事中の絶え間ない喫煙や(沖田浩之なんて缶ピースだよ)、布施博の各種ハラスメント行為、セリカGT-FOURの危険運転など、今では考えられない場面も散見される。

一方で、携帯電話の高価だった時代のパーソナル無線のカッコよさ、防水カメラ「とりあえず」撮りまくる記念写真、ドキドキして聞き出しては手書きメモする彼女の電話番号、本命のカレシにあげるバレンタインチョコ

こういった一連のエモいアイテムは、今の時代は風化してしまったか、すべてスマホに取って代わってしまった。この脚本を現代版にしたら、味気ないものになってしまうだろう。

「便利な物なんか便利じゃないんだ」久保田利伸が後に『メッセンジャー』の主題歌で語っている通りだ。

(C)1987 フジテレビ・小学館

ゲレンデから降りたらただの冴えない男になる矢野に、「スーパーマンだって普段はサラリーマンやってんのよ」と元気づける女子たち。

嘘の電話番号で一旦はフラれた矢野だが、優が同じ会社の秘書課にいることに気づく。こうして運命的な再会から、二人は交際するようになる。

「恋人がサンタクロース」「A Happy New Year」「Blizzard」と、曲ありきで脚本が書かれたのではないかと思うほどお誂え向きの場面で、ユーミンの歌が流れる。

原田知世主演の次作『彼女が水着にきがえたら』でのサザンの曲の多用には節度が欲しかったが、本作は曲との一体感が心地よかった。

原田知世演じる主人公の親友を、本作では鳥越マリ『彼女が水着にきがえたら』では伊藤かずえが演じているのだが、弾けっぷり抜群で存在感のあった伊藤かずえに比べると、鳥越マリは見せ場がないのが残念。

そして起承転結の転にあたるのが、矢野の会社の先輩でスポーツ部の田山(田中邦衛)が仕切っているスキーのブランド「Sallot」のイベントの一大事。

志賀から万座までクルマで5時間のルートを、山間ルートを滑走し彼らが着ているSallotのウェアを大至急届けなければいけない

このクライマックスは凄かった。志賀―万座ルートをこのようにサスペンスアクションに繋げ、ラブコメとしても成立させている一色伸幸の脚本の素晴らしさは言うまでもない。

だが、あの過酷な状況で、暗い雪山の滑走シーンをしっかり撮っているスタッフ陣と、実際に滑っているスタントのプロスキーヤーが更に凄い。俳優陣の吐息が白くなる様子から、どれだけ寒い現場かというのも伝わってくる。

それに、セリカGT-FOURボンドカー並みに扱ってボコボコにして雪上を走らせるカーアクションにもたまげた。

これだけ撮影が難しそうな場面がテンコ盛りで、しかもゲレンデのシーンなんて撮り直しするのにリフトでまた上がらないといけない手間暇かかる環境。

馬場康夫監督、日立製作所を辞めて商業映画デビューでよくこんな大作撮れたな。というか、よく新人監督の持ち込み企画をフジテレビが通したな。これがバブル期の勢いなのか。夢のような時代だ。

 

19時までに万座にウェアを届けてくれ。この手の無茶なミッションは後続のホイチョイ映画の定番となる。

海に眠る財宝を探せ、FM電波を会場まで届けろ、バブル経済破裂を食い止めろ、鉛筆を芝浦まで届けろ(最後はショボい)。でも、一番過酷で感動的なミッションは、本作の志賀~万座を駆け抜けろだったかな。

青大将なのに役名は若大将と同じ田沼(田中邦衛)を失脚させようとする部下(竹中直人)の策略で、イベント会場にSallotのウェアが届かない。

本来、万座会場で仕事するはずだった矢野を志賀高原に誘った自分のせいだ。そう責任を感じる優が一人で山間ルートを滑降。そりゃ無謀だ。

あとから矢野が追いかける。だが道に迷い、野宿ビバークするしかない。諦めかけたとき、小杉(沖田浩之)(布施博)が追いかけてくる。

彼らのおかげでどうにか会場にたどり着く矢野たち。こんな時にも「内足の癖、直せって言ったろ」と優に指導する熱血スキー小僧の矢野。

意外なことに、結局イベント会場に間に合うのは、セリカGT-FOURを横転させながらも、「凍ってるね」と激走させたヒロコ(高橋ひとみ)真理子(原田貴和子)

おかげで結果オーライとなるのだが、確かに、やや陰気目なカップルよりも、イケイケな女子二人の方がウェアのモデル向きか。男に頼らずに、最後までおいしいとこを持ってく、この最強女子二人がカッコいいし、時代を感じさせる。

セリカGT-FOURをボコボコにしてトヨタ広報に怒られたというが、あの流面系の名車をこんなに輝かせてくれた映画は他にない。