『ザ・レポート』考察とネタバレ|こんな映画が公開できる国であってほしい

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『ザ・レポート』 
 The Report

アダム・ドライバーが演じる米国上院職員が、CIAによる「強化尋問プログラム」という名の拷問を徹底追及する

公開:2019年 時間:119分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ
監督・脚本・製作: 
        スコット・Z・バーンズ

キャスト
ダニエル・J・ジョーンズ
          アダム・ドライバー
ファインスタイン上院議員:
          アネット・ベニング
マクドノー大統領首席補佐官:
          ジョン・ハム

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

ポイント

  • 強化尋問テクニックなる怪しげな名前の拷問プログラムが、功を急ぐCIAに承認されるあたり相当怖い。
  • 水責めから直腸栄養法、虫を入れて棺に閉じこめるとか、パワポで事務的に説明される様子には背筋が凍った。

あらすじ

9・11同時多発テロ事件後、アメリカ上院職員ダニエル・J・ジョーンズ(アダム・ドライバー)は、CIAの行った「強化尋問プログラム」の調査を命じられる。

長年にわたり膨大な資料を確認した結果、CIAが違法行為にあたる拷問による自白強要を行っていた事実を突き止める。

レビュー(まずはネタバレなし)

ストイックに事実を追う男

アマゾン・オリジナルの作品に、こんな真っ向勝負の社会派ドラマがあったとは、すっかり見逃していた。

主演はこのところ作品にも恵まれ勢いのあるアダム・ドライバー。極めて静かに、だがメラメラと正義感と愛国心に燃える上院職員を演じ、今回もハマリ役。

監督はスコット・Z・バーンズスティーヴン・ソダーバーグに脚本家として組むことが多いバーンズ

先日、彼が脚本の『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』を観て、あの流出事件をコメディにしていることに驚いたが、同じように実名で文書事件を扱っていても、今回はストレートに社会派タッチ

無理に盛り上げようともせず、ひたすら静謐に調査作業を描く

共演のアネット・ベニング、ジョン・ハムなど、いずれも演じた役の実際の風貌によく似せているように思う。そこも『ザ・ランドロマット』とは大きく異なる点。

タイトルは『ザ・レポート』だが、映画ではThe Torture ReportTortureが伏字というか劇中の報告書さながらに墨塗りされている。

そのウィットを邦題にも活かしてほしかったけど、『拷問報告書』じゃイマイチか。

報告書を不正に持ち出そうとするあたりは『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』とも近い雰囲気。

CIAによる水責めをはじめ内容的に既視感があったのは、本作の中でも採りあげられている『ゼロ・ダーク・サーティ』の記憶だろうか。

いずれも評価の高い映画だが、生真面目に事実を追いかけたという意味では本作が一番ストイックな作風。

レビュー(ここからネタバレ)

強化尋問テクニックとは

2時間の作品だが、正直疲れた。つまらないという意味ではなく、5~6年の調査作業をダンと一緒になって実施し、それも報われずみたいな気になる心労からだ。

彼らが昼夜を問わず仕事に専念した調査作業室が地下にある、CIAの特徴のある建物の閉塞的な外観(あれ、実物もそうなのだろうか)。

窓のない調査室の壁中に貼られた顔写真や資料の醸し出す異常な雰囲気。当初6人体制でも手薄だったのに、共和党の3名が脱退してしまう寂寥感。

強化尋問テクニック(EIT)なる怪しげな名前でごまかされた拷問プログラムが、功を急いだCIAに承認されるあたりも相当怖い。

CIA工作員が捕まった際の心理は「生存⇒回避⇒抵抗⇒逃走」になるという実証結果から、素人同然の心理学者がリバースエンジニアリング(IT用語かと思った)。

その成果を応用して、捕虜を「衰弱⇒制服⇒恐怖」に誘導し自白させるのだという、漫画的な理論にCIA上層部が乗っかるのだ。

水責めしか知らなかったが、直腸栄養法とか、虫を入れて棺に閉じこめるとか、パワポのスライドで事務的に説明される様子には背筋が凍った。

孤独な戦いは続く

どこまで事実に則しているのか知らないが、ダンは本当に孤軍奮闘だ。

仲間の2人は残ったものの協力度合いは不明だし、上司にあたるファインスタイン上院議員(アネット・ベニング)も結構世渡り上手で、全面的にダンを支える熱血上司ではない。

よく心が折れなかったものだ。

『大統領の陰謀』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のような、鼻を明かしてやったぜというチームの達成感に欠ける、孤独な戦いなのである。

冒頭にダンが機密文書を不正に持ち出して後日問題になるシーンがあり、ウォーターゲート事件と錯覚して、それが別の第三者の手に渡って拷問の事実が明るみに出たのだと思い込んでいた。

だが、ダンが言うように、あれは長官の報告書の保管場所を自室に移しただけなのだ。

スコット・Z・バーンズの脚本だからといって、前に書いたパナマ文書のように流出させたのとは違う。

ダンは、新聞記者に乞われても報告書を渡さず、正しい手順にこだわった、正義のひとであり、ダークサイドに落ちてはいないのだ

極めてアメリカ的な幕切れ

「こういうレポートが公表されるような国は少ない(だからCIAを追及するな)」

ラスト近くで、デニス・マクドノー大統領補佐官(ジョン・ハム)はいう。それに対し、ダンの上司ファインスタイン上院議員が

「こういうレポートが作られるだけでなく、公表できる国でありたい」

と啖呵を切るところはスカッとアメリカなシーンだ。

だが、そんな彼女も長年ダンを重労働に酷使し続け、最後の最後でようやく彼にかけた労いの言葉は、 ”Dan, you did well. Thank you.” のひとことだけ。

まるで日常会話だ。あまりに淡泊じゃないか。そりゃ、ダンもワシントンDCを去りたくなるわ、と同情してしまう。

最後は、ジョージ・ワシントン初代大統領の言葉に浸り、どうにか少し救われた思いでエンドロールとなる。