『違国日記』
ヤマシタトモコの同名原作コミックを瀬田なつき監督が映画化。叔母と姪っ子の奇妙な共同生活。
公開:2024 年 時間:139分
製作国:日本
スタッフ
監督: 瀬田なつき
原作: ヤマシタトモコ
『違国日記』
キャスト
高代槙生: 新垣結衣
田汲朝: 早瀬憩
高代京子: 銀粉蝶
笠町信吾: 瀬戸康史
醍醐奈々: 夏帆
楢えみり: 小宮山莉渚
森本千世: 伊礼姫奈
三森: 滝澤エリカ
高代実里: 中村優子
田汲はじめ: 大塚ヒロタ
塔野弁護士: 染谷将太
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
大嫌いだった姉を亡くした35歳の小説家・高代槙生(新垣結衣)は、姉の娘である15歳の田汲朝(早瀬憩)に無神経な言葉を吐く親族たちの態度に我慢ならず、朝を引き取ることに。
他人と一緒に暮らすことに戸惑う不器用な槙生を、親友の醍醐奈々(夏帆)や元恋人の笠町信吾(瀬戸康史)が支えていく。
対照的な性格の槙生と朝は、なかなか理解し合えない寂しさを抱えながらも、丁寧に日々を重ね生活を育むうちに、家族とも異なるかけがえのない関係を築いていく。
レビュー(ネタバレあり)
海街じゃなく違国Diary
ヤマシタトモコの同名漫画を『ジオラマボーイ パノラマガール』の瀬田なつき監督が実写映画化。
新垣結衣が演じる人見知りな女性小説家・高代槙生と、人懐っこい姪の田汲朝(早瀬憩)の奇妙な共同生活を描いた作品。ちなみに、原作コミックは未読。
映画は冒頭、中学生の田汲朝(早瀬憩)が突然の交通事故で両親を失う。目の前で両親の乗る停車中のクルマに大型トラックが突っ込んだのだ。
引き取り手のない朝が親族を盥回しになるのを見るに見かねて、亡くなった母の妹である小説家の高代槙生(新垣結衣)が、一緒に暮らす提案をする。
槙生は姉の実里(中村優子)と親しかったわけではない。むしろ真逆だ。尋常でない嫌悪感を抱いており、一生変わらないと言い切る。だが槙生は、思いつきで、ろくに面識もない朝を引き取る。
何事にもきちんとし、整理整頓が得意だった姉とは対極的に、汚部屋に暮らし自由気ままに暮らす妹。憎んでいる姉の娘が好きになれるか分からないが、奇妙な共同生活を始める。
親を失くし身寄りのない娘を、姉妹たちが末の妹として引き取って暮らし始めたのは『海街Diary』みたいだな、こっちの『違国Diary』の保護者は無愛想な叔母だけど。
などと思っていると、その姉妹の三女役だった夏帆が槙生の親友として登場したので驚いた。
高校生の青春ドラマなら秀逸
さて、本作は率直に言って、映画としては物足りなかった。
女性目線の青春ものを得意とする瀬田なつき監督の作品ゆえ、世代的に私がついていけなかったのかもしれないし、原作を読んでいるかどうかで、深いところまで理解できるかに差異があるのかもしれない。
ただ、予備知識なしで観た私には、物凄く光っている部分があるのに、肝心なところが押さえられていない作品に思えた。
◇
とても良かったのは、何といっても15歳の朝の学生生活の描き方だ。オーディションで選ばれ、映画初主演の早瀬憩のフレッシュな演技に好感が持てる。
両親を失くしてすぐに中学の卒業式があり、朝が学校に行くと、担任教師が事故の件をクラスに話してしまっている。
「あと卒業だけなのに、何で言うんですか!普通にみんなと卒業したかったのに!」
自分も過去に似た経験があり、思春期特有のこのナイーブな気持ちは、よく分かる。
◇
親友のえみり(小宮山莉渚)との学生生活の描き方もうまい。膝を抱えて座る体育館や、軽音での部活動。毎日、喜怒哀楽で忙しい青春の日々がよく伝わってくる。
基本的に素直な良い子の朝は、河合優実から反骨精神と口の悪さを取ってマイルドにした感じ。途中から優等生の森本さん(伊礼姫奈)も加わって女子高生三人組になると、『サマーフィルムにのって』のような賑やかさ。
この女子高生の青春部分にフォーカスをあてて観れば、この映画は優れた作品だと私も思う。
踏み込みが足らない!
だが、本作は<違国>について描かれなければいけない。姉を全否定し毛嫌いする槙生と、同じ人物を母として愛する朝という、違う見方、違う世界で生きてきた二人が、最後にどのような折り合いを見せるのかがキモのはずだ。
にもかかわらず、その肝心な部分への踏み込みは弱い。
一体、槙生はこの姉に、どんなトラウマを抱えているのだろうと気になった。
だが、万事厳しい優等生の姉に、何をやっても「あんたはダメね、何歳になっても妄想ばかり、現実を見なさい」と否定され続けた妹が、姉を受け容れなくなるという以外にサプライズはない。
嫌う理由として不足はないものの、じゃあ、最後にこの感情は何がきっかけでどう変化するのかという点も、共感をよぶほどのインパクトはない。
母が娘の朝が高校を卒業した時に向けて書き綴っていたノートがある。姉妹の母・京子(銀粉蝶)はその遺品を槙生に託すが、それを朝に渡すかどうかで槙生は悩む。
槙生の姉は自分の教育理念を娘に押し付けようとしている。性格の合わない槙生はその姉を拒絶したが、娘である朝は素直にそれを聞き入れて育ってきた。もう、朝を解放してあげたいと、彼女は思う。
18歳の娘に母の愛を書き綴ったノートを渡されても、ウチの娘なら「うざっ、おもっ」と死蔵するだけだが、朝は違うのだろう。『傲慢と善良』の毒親を思わせる。
このノートを前に、二人がもっとそれぞれの思いをぶつけ合って、納得のいく折り合いをつけてくれることを期待したが、中途半端に終わってしまう。
姉妹の母(銀粉蝶)が、槙生の知らない姉の幼少期の病気のことをちょっと口にするが、そのまま発展しない。これが姉の本性を知る一つの糸口になると睨んだのだが。
アンニュイな新垣結衣
無愛想でべらんめえ調の新垣結衣は意外と似合っていたが、今までの殻を破ったキャラは『正欲』でも演じており、驚きはない。
化粧っ気もなく服装にも無頓着な感じは、『ミッシング』の石原さとみに対抗するかのようだが、ガッキーなら、この程度の変わり者キャラはお手の物だろう。
槙生の元カレで親切な笠町に瀬戸康史、槙生の親友の醍醐奈々に夏帆。このポジションにこの二人はピッタリで文句なし。後見弁護人に染谷将太のカメオ出演は目立ちすぎでバランスが悪かった気が。
◇
新垣結衣が最後まで煮え切らない感じの主人公を演じているのを観ると、野木亜紀子脚本にしては盛り上がらなかったドラマ『獣になれない私たち』を思い出す。
やっぱり、ガッキーはアンニュイな役も出来るけど、見たくないというのが本音かもしれない。
今回、薄っぺらいと感じた部分は、きっと原作コミックではきちんと描かれているのだろう。確認してみたい気もする。
というわけで、本作で観るべきは、朝(早瀬憩)とえみり(小宮山莉渚)の女子高生の友情。