『帰ってきた あぶない刑事』
『さらば あぶない刑事』で刑事卒業したはずのタカとユージが、まさかのカムバック。懐かしさとよせばいいのにのイタさ、どっちが胸に刺さるか。
公開:2024 年 時間:120分
製作国:日本
スタッフ
監督: 原廣利
脚本: 大川俊道
岡芳郎
キャスト
鷹山敏樹(タカ): 舘ひろし
大下勇次(ユージ): 柴田恭兵
永峰彩夏: 土屋太鳳
海堂巧: 早乙女太一
リウ・フェイロン: 岸谷五朗
ステラ・リー: 吉瀬美智子
ファン・カイ: 深水元基
真山薫: 浅野温子
<警察>
町田透: 仲村トオル
早瀬梨花: 西野七瀬
剣崎未来彦: 鈴木康介
宍戸隼人: 小越勇輝
山路瞳: 長谷部香苗
八木沼大輝: 杉本哲太
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
刑事を定年退職し、ニュージーランドで探偵事務所を開業していたタカこと鷹山敏樹(舘ひろし)と、ユージこと大下勇次(柴田恭兵)が、8年ぶりに横浜へと戻ってきた。
そこに、香港在住の日本人弁護士が何者かに殺害される事件が起こる。
事件にひっかかりを感じた鷹山は、リウ・フェイロン(岸谷五朗)を訪ねるが、そのビジネス・パートナーであるステラ・リー(吉瀬美智子)が、かつての恋人に似ていることが気にかかった。
その頃、二人の探偵事務所に永峰彩夏(土屋太鳳)が訪れ、母親を捜してほしいと依頼してくる。彩夏の母親の夏子は、鷹山と大下の旧知の女性だった。
夏子捜索を開始した二人は、最近発生している一連の殺人事件の背後に、カジノ誘致を企てる元銀星会組長の息子・海堂巧(早乙女太一)の存在があることに気づく。
レビュー(今回ほぼネタバレなし)
さらばの後に帰ってくるのだ
<あぶ刑事>がまた帰ってくるとは思わなかった。これはやはり、公開初日に港署管内の映画館で観ないわけにはいかない。何せ、テレビドラマの開始からリアルタイムで追いかけ続けてきた横浜市民だ。不義理はできない。
だが、始まってから、ものの数分で、私は愕然とすることになる。これは、あの<あぶ刑事>ではない!
◇
嫌な予感はもともとあった。劇場予告はすっかりコメディモードだし、そもそも公開前の日テレの番宣やら、協賛キャンペーンがあまりに多すぎる(スーパーの「オーケー」のキャンペーンのネーミングは良かったが)。
これだけ関係者が多く、歓迎ムードが高まると、メディアでは褒めちぎり一辺倒になるのも無理はない。だが、映画そのものは、厳しい言い方をすれば、作り手(或いはファンも含めて)の同窓会的な盛り上がりしか見出せない。
そもそも、本シリーズは2016年の映画『さらば あぶない刑事』で、きっちりと美しく幕切れしたはずだ。
監督・村川透、脚本・柏原寛司、撮影・仙元誠三という<あぶ刑事>黄金時代を築いた陣営に、ラスボスが吉川晃司。シリアスと笑いのバランスもよく、刑事卒業にふさわしい作品だった。
だが、今回、無理筋でタカとユージが定年退職後の続編を作ってしまった。今や二人は刑事ではなく探偵である。トオルの台詞ではないが、「<あぶ刑事>ではなく、危なくないことしかできない<あぶ探偵>」だ。
探偵主演のハードボイルドはドラマとしてあるとはいえ、拳銃撃ちまくりが持ち味の本シリーズでは、丸腰の探偵二人では成り立たない(本作では奇策でそれを克服したとはいえ、その内容はつっこまずにはいられない)。
笑いの匙加減が大事
前作公開後に、シリーズの生みの親であるセントラル・アーツの黒澤満社長が亡くなり、プロデューサーの伊地智啓や名カメラマンの仙元誠三も相次いで鬼籍に入った。
キャストもスタッフも高齢化しており、残ったメンバーでもう一度撮っておきたいという思いが強かったのだろう。それは理解できる。
だが、いくら今回の監督である原廣利が、過去ドラマで演出を手掛けた一人、原隆仁の子供とはいえ、本シリーズの魅力をどこまで理解していたか。
◇
もともと、マジメな作りの刑事ドラマ全盛の世に、軽口を叩き合い、ふざけたアドリブを盛り込んで人気を博したのが本シリーズ(『踊る大捜査線』のはるか昔だ)。
だが、それでも本質はハードなアクションであり、笑いの微妙な匙加減を調整するのが重要だった。
劇場版では通常、事件のスケールが大きくなるため、テレビと同じ調子で笑いを入れると、コメディ色が強まり過ぎる。シリーズにはそれで失敗した前例も散見されるが、本作もその傾向がみられる。
以前であれば、歴代の課長(初代の中条静雄、後任の小林稔侍)や、港署の同僚たち(ナカさん(ベンガル)を除く)は、基本ふざけない人たちだった。だから、タカとユージのふざけた会話と調和したのだ。
だが本作では町田課長(仲村トオル)はほぼおふざけだし、真山薫(浅野温子)に至っては、まじめなカットが皆無である。これは監督の意向なのか、女優の暴走なのか。
本作においては、ゲスト女優の土屋太鳳や吉瀬美智子、或いは、ついアドリブしそうな岸谷五朗らがシリアスに演じてくれたおかげで、一応ドラマとして成立したものの、トオルとカオルはちょっと自由奔放すぎたように思う。
なんか違うのよ
個人的に最もがっかりしたのは、音楽の使い方だ。エンディングに流れる舘ひろしの曲はドラマと同様なのでよいのだが、劇中に流れる柴田恭兵の曲は、使う場面を間違っている。
あれは、捜査が一気に進んだり、反撃に出る場面での盛り上がり曲でなくてはならない。なのに本作ではふざけ半分の場面で登場し、しかも音量も長さも中途半端で不完全燃焼。
オープニングのいつもの曲も、みなとみらいの遠景とはイマイチ合わないと思ったのは私だけか。
ちなみに今回二人が乗るのはBMWのオープンカー。今も現役で走れる日産レパードはあるけれど、二人の顔を撮りたいからこうなったとか。
過去にはアルファロメロやマセラティと、イタ車乗りだった。クルマはよいが、BMWとみなとみらいの組み合わせが、ちょっと清潔すぎちゃう。
時代の流れではあるが、再開発が進んだ横浜界隈は、もはや銀星会が幅を利かせてた、ちょっとヤバい感じの薄汚れたヨコハマとは別物になっている。ハードボイルドの舞台には不向きなのが寂しい。
私生活を見せるのか
テレビドラマから徹底してタカとユージの私生活を出してこなかったのは、このシリーズのこだわりだ(昔の日テレの刑事ドラマはみんなそうかも)。非番のときに女を口説く話は、二人の会話の中にしか出てこなかった。
だが、今回は、タカとユージの男二人が探偵事務所で生活する姿が登場するし、母親探しの依頼人である永峰彩夏(土屋太鳳)が、自分の娘ではないかと二人とも思い当たる展開になる。
つまり、かつて福富町あたりのクラブで歌っていた行方不明の母は、タカとユージ、それぞれと関係を持っていたのである。
この話の展開は、好き嫌いが分かれそう。いや、今までこの辺の男女の話がウェットにならないところが本作の持ち味だったのに、今回は相当浪花節だ。
しかもかつて同じ女を(そうとは知らず)愛して、男女の関係まで持っていた男二人が、今では仲良く同棲しているって構図になる。土屋太鳳でなくても、「二人はどういう関係?ひょっとして好き合ってる?」と聞きたくなる。
◇
LGBTとか女性活用とか、時代に合わせてアップデートした作品なのかはよく分からない。瞳ちゃん(長谷部香苗)は相変わらずお茶出ししてる一方で、捜査課のナンバー2は女性(西野七瀬)が活躍。
ただし、彼女を筆頭に、若手草食系男子が2名(鈴木康介、小越勇輝)、港署捜査課の刑事たちがさすがにひ弱い。コドモ警察か。『まだまだあぶない刑事』の若手巡査、佐藤隆太、窪塚俊介はあんなに頼もしかったのに。
ついでに言ってしまうと、今回のラスボス、海堂巧役の早乙女太一はキャラこそ立っているものの、二人の相手としてはちょっと物足りない。若いのと、線が細すぎるのがネック。
銀星会でかつての宿敵だった男の倅ということでこの年齢になるのだろうが、タカとユージの相手には前作の吉川晃司並みの風格と体格が欲しい。
怪しい中国人の岸谷五朗こそラスボスかと思ったが、ちょっと推理が外れた。昔なら室田日出男が演じそうなキャラを、岸谷五朗が怪演。
とはいえ最後には見せ場
全体的にはツッコミどころの多い作品で、往年のファン以外には観るべきところは少ないと思うが、同窓会的作品にこれ以上なにを求めるよと言われれば、それまでだ。
舘ひろし、柴田恭兵、浅野温子、仲村トオルの主要メンバーに加え、本作ではベンガル、長谷部香苗。前作以降に比べ同窓会の出席者も減ってきたし、映画もこれで打ち止めだろう。
ところどころに登場する、かつてのアーカイブ映像をはじめ、若き日のタカとユージが一瞬映るシーン。一歩間違うと、『男はつらいよ お帰り 寅さん』のようになってしまいそうだが、これはこれで胸が高鳴る。
どちらの娘か分からない役を演じた土屋太鳳はアクションもこなせるから絵になるし、謎の女を演じた吉瀬美智子も妖艶でキャスティングは正解。前作のタカの恋の相手が菜々緒ではさすがに若すぎたが、彼女ならフィット感あり。
まあ、何だかんだいって、クライマックスで、ユージの特徴ある軽やかな走りと、タカのバイクに乗ってのガンファイトさえあれば、とりあえず不満は収まるのであった。