『アナイアレイション 全滅領域』
Annihilation
アレックス・ガーランド監督がSFファンタジー作家ジェフ・バンダミアのヒット原作を映画化。
公開:2018 年 時間:115分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: アレックス・ガーランド 原作: ジェフ・ヴァンダミア 『全滅領域』 キャスト レナ: ナタリー・ポートマン ヴェントレス博士: ジェニファー・ジェイソン・リー アニャ・ソレンセン: ジーナ・ロドリゲス ジョシー・ラデック: テッサ・トンプソン キャス・シェパード:ツヴァ・ノヴォトニー ケイン: オスカー・アイザック ロマックス: ベネディクト・ウォン ダニエル: デヴィッド・ジャーシー
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
ポイント
- ポスタービジュアルとタイトルで、すっかりSFアクションのつもりで観たけど、どちらかといえば哲学的なSFで、『惑星ソラリス』の系統な気がする。未読だが、きっと原作もそうなのだろう。
- それを前提にすれば、アレックス・ガーランド監督の異色な味わいの濃厚さを楽しむ作品といえるが、万人向けではない。
あらすじ
不可解な現象が起こる謎の領域「シマ―」がアメリカ国内の海岸地帯に拡大。現地に調査隊が派遣され、元兵士の生物学者レナ(ナタリー・ポートマン)の夫ケイン(オスカー・アイザック)も加わるが、彼らは音信不通となり行方不明になってしまう。
やがてケインだけが生還したものの、瀕死の重傷を負っており昏睡状態に。レナは夫の身に何が起きたのか突き止めるべく自ら調査隊に志願し、シマ―内部の未知の領域に足を踏み入れる。
そこで彼女が目撃したのは、生態系の突然変異によって生まれた異様な景色と生き物たちだった。
今更レビュー(ネタバレあり)
全滅領域 ってなに?
ジェフ・ヴァンダミアによる原作「全滅領域 (サザーン・リーチ1)」を、『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督が映画化。
『エクス・マキナ』(2015)はアンドロイドSFものとしては、視覚効果と映像センスが冴えた作品で、アレックス・ガーランド監督の才能を感じたが、新作『MEN 同じ顔の男たち』(2022)があまりに奇想天外で、私ごとき凡人の理解力を超越していた。
ならばその間にNETFLIX配信された本作はどうなのだろうと、気になって鑑賞してみた。
なお、観終わってから原作があることを知ったのだが、「全滅領域」から始まるジェフ・ヴァンダミアの「サザーン・リーチ」三部作は結構大部に渡る作品のようで、まだ手が出せていない。
本作の主人公はナタリー・ポートマンが演じる生物学者のレナ。どこかの場所から一人生還したと思しきレナが、アジア系の調査員(ベネディクト・ウォン)にあれこれ聴取を受けているシーンから始まる。物語はそこからの回想という構成になっているようだ。
この二人が対峙していると、『ドクター・ストレンジ』のマルチバースに『マイティー・ソー』が絡んできたようにみえる。
◇
レナの夫は極秘任務についたまま1年も行方不明だったが、彼女が部屋の壁を塗り直していると、突然、夫ケイン(オスカー・アイザック)が家に戻る。だが、どこか様子がおかしく、別人のようになった夫は、すぐに出血で緊急搬送されてしまう。
ナタリー・ポートマンとオスカー・アイザック、『スターウォーズ』のアミダラ姫とポー・ダメロンのシリーズを越えた共演だ。
謎の領域<シマ―>
特殊任務から戻ってきた夫が、まるで別人になっている話は、ちょっと懐かしいがジョニー・デップとシャーリーズ・セロンの『ノイズ』(1999)を思わせる。あれは宇宙人だったけど、こっちはどうなのか。
なんてことを考えていると、気がつけばレナは、夫が調査に訪れたと思しき謎の領域〈シマー〉に派遣される流れになっている。
◇
心理学者のヴェントレス(ジェニファー・ジェイソン・リー)、物理学者のジョシー・ラデック(テッサ・トンプソン)、人類学者のキャス・シェパード(ツヴァ・ノヴォトニー)、救急医療隊員のアニャ・ソレンセン(ジーナ・ロドリゲス)。
女性4人の調査隊が〈シマー〉に向かうことを知ったレナは、自ら参加を志願する。ちなみに、ラデックを演じるテッサ・トンプソンは、近作『ソー:ラブ&サンダー』では女傑ヴァルキリー役でナタリー・ポートマンと共演。
〈シマー〉は灯台を中心に突如として世界に出現した謎の領域。そこに足を踏み入れた者は、レナの夫を除き、誰も帰ってこない。虹色のカーテンに包まれたような空間には、生態系が異様な変化を遂げ、拡大を続けていた。
〈シマ―〉の謎めいた魅力が弱い
本作はこの〈シマー〉という未知の世界の探検が見せ場の映画である。ただ、いわゆる冒険活劇やSFスリラー的なエンタメを期待すると、ちょっと拍子抜けするかもしれない。現に私はそうだった。
虹色のカーテンに囲まれた世界はDisney+のMCU作品『ワンダヴィジョン』のハイレベルな特撮を見た後では、あまりパッとしない。
すぐそこにある外界と時間の流れが違ったり、通信ができなかったり、という設定は面白いが、我々は50年も前に『ウルトラセブン』の「空間X脱出」で既に洗礼を受けており、今更驚くに値しないし。
襲ってくる相手もワニだったりクマだったりで、動物パニック映画なのか。
極めつけは人間のカタチになって育っていく樹木。これは、〈シマー〉の中ではDNAを含むあらゆる情報がプリズム効果で歪められてしまう、という真相に気づくきっかけとなる、ビジュアル的にもキャッチ―なもの。
だが、日本人の目にはどうもお洒落な菊人形にしかみえない。『犬神家の一族』だよ、これじゃ。
<シマ―>はソラリスなのか
『アナイアレイション -全滅領域-』はそのタイトルから、ド派手なSFパニック映画を勝手に想像してしまったのだが、どうやら見当違いだったようだ。
もっと哲学的なSF映画、例えば『惑星ソラリス』のように、エンタメ路線の派手さのない、深く考えさせられる映画なのだろう。いわば、惑星シマリス!
少なくとも、ジェフ・ヴァンダミアの原作は、そういう雰囲気が濃厚らしい。映画はさすがに原作よりはエンタメ色を強めているようだが、それでも途中からは、考えながら観ないと、展開についていけない。
〈シマー〉を探検する女性たちは、ワニやクマに襲われたり、或いは仲間割れしたりで次第に数が減っていく。そしてレナは残されたビデオカメラの中に、手榴弾で自爆する夫ケインの姿をみつける。
死に際に、「〈シマー〉から出たらレナーを探せ」と彼が語りかけているのは、もう一人のケインだった。やはり、レナの前に戻ってきたのは、本物の夫ではなかったのか。
ラストシーンに観る既視感
探検隊のリーダー的存在の心理学者ヴェントレス。〈シマ―〉の現象は世界中に広がり、今あるものの全てを滅ぼすだろうと語ると、口から炎のようなものを吐き出して消滅してしまう。いよいよクライマックスに近づいたか。
この混沌から、すでに異様な世界に入っているが、今度はジャコメッティの彫像にありそうなひょろ長いヒト型が登場。レナの血液を取り込んで急激に細胞分裂を繰り返し、夫の時と同様に、レナの姿に擬態していく。
奇妙な生き物が誕生していくプロセスと意味不明な気色悪さは、『MEN 同じ顔の男たち』にも脈々と受け継がれているものだ。
ラストシーンでレナは、入院していた夫のケインと再会し、抱き合うのだが、この男性が本物のケインではないことは薄々認識している。
というか、話の流れからは違う生命体であることは周知の事実だが、それを抱き合うケインの瞳の虹彩の変化で表現しているように見える。
これも言わばマイケル・ジャクソンの『スリラー』(ジョン・ランディス監督!)のMV的な終わり方であり、どこか古臭さを感じる。
◇
全体を通じて思ったのは、この映画に面白味を感じられる人は、きっと原作読んだ方が満足できるのだろうなということ。私はその対象ではないのだけれど、そのうち原作を追いかけてみようと思う。