『父親たちの星条旗』
Flags of Our Fathers
クリント・イーストウッド監督が描く硫黄島二部作の第一弾。まずは米国から見た硫黄島。
公開:2006 年 時間:132分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: クリント・イーストウッド 脚本: ウィリアム・ブロイレス・Jr. ポール・ハギス 原作: ジェームズ・ブラッドリー ロン・パワーズ 『硫黄島の星条旗』 キャスト ジョン・ブラッドリー: ライアン・フィリップ レイニー・ギャグノン: ジェシー・ブラッドフォード アイラ・ヘイズ: アダム・ビーチ キース・ビーチ: ジョン・ベンジャミン・ヒッキー ハンク・ハンセン:ポール・ウォーカー バド・ガーバー:ジョン・スラッテリー マイク・ストランク:バリー・ペッパー
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
ポイント
- 俺たちが戦争でやったことは、人に言えるようなものではない。戦争礼賛映画でないことは伝わるが、運命を翻弄する一枚の写真というネタだけで一本の映画をひっぱるのは、やや無理があったのではないか。
- 話が拡散してしまった感も否めず、皮肉なことに、『硫黄島からの手紙』の方がまとまっている。
あらすじ
太平洋戦争末期、硫黄島に上陸したアメリカ軍は、予想を上回る日本軍の防戦に苦戦を強いられた。壮絶を極める戦闘の中、摺鉢山の頂上に翻った星条旗。その一枚の写真がアメリカ中を熱狂させ、六人の英雄を生み出した。
星条旗を掲げた六人の英雄のうち硫黄島から生還できたのは三人だけ・・・。衛生兵のドク、アメリカン・インディアンの出目を持つアイラ、伝令係のレイニー。
祖国に帰国した彼らは、戦費を調達するために、アメリカ全土を巡る戦時国債キャンペーンに駆り出される。どこへ行っても熱烈な喝采を浴び、国民的英雄として祭り上げられる3人。
しかし、英雄扱いされればされるほど、彼らの苦痛は深くなっていく。その写真の真実は、人々の熱狂とは程遠いものだった…。
今更レビュー(ネタバレあり)
日米それぞれの視点から二部作
第二次世界大戦の大きな転機となった悲劇的な硫黄島の戦いを、日米双方の視点から描いた硫黄島二部作の一作目にあたる。
ジェームズ・ブラッドリーとロン・パワーズ共著のノンフィクション『硫黄島の星条旗』を気に入ったクリント・イーストウッド監督が映画化を考えたが、すでにその権利はスティーブン・スピルバーグが押さえていた。
結果的に、スピルバーグの率いるドリームワークスらが制作、イーストウッド監督、更に脚本には『ミリオンダラー・ベイビー』以来のポール・ハギスが名を連ねる豪華な布陣で二部作が出来上がる。
本作は、米国側の視点の作品になる。もう一つの作品『硫黄島からの手紙』は日本人の視点で描かれ、当初は本作のDVDの特典映像にと考えていた低予算作だったようだ。それを二部作にして、興行的にも成功させてしまうのだから、イーストウッド監督も、なかなか強か者である。
本作は硫黄島の戦いを描いていながら、彼らの敵国である日本の兵士は殆ど登場しない。たまにゲリラ的に現れるが、顔すらはっきりしない。
上陸する米国兵をみつけては、隠れている日本兵が機関銃掃射で打撃を与える。映し出されるのは火を吹く銃口のみであり、姿を見せない日本兵が、彼らの恐怖心を煽る。相手の姿を見せずに戦争を描く手法は、2017年の『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン監督)に繋がっているようにも見える。
モノクロと見紛うような、彩度を落とした戦闘シーンに、戦火の色だけがかすかに色を添える。連合艦隊が硫黄島に襲来するシーンは圧巻ではあるが、けして派手な戦闘シーンを売り物にはしていない。
一枚の写真が兵士の人生を翻弄する
本作は、偶然に撮られた一枚の写真によって英雄に祀り上げられた、運命に翻弄された兵士たちの物語である。
六人の米兵が硫黄島の戦いの最中、摺鉢山の頂上に星条旗を立てる姿を撮影した一枚は、写真家ジョー・ローゼンタールによって撮られ、ピューリッツァー賞を受賞した。太平洋戦争のイメージを伝えるものとして有名な報道写真だ。
星条旗を掲げた六人の英雄のうち硫黄島から生還できた三人、衛生兵のドク(ライアン・フィリップ)、アメリカン・インディアンの出目を持つアイラ(アダム・ビーチ)、そして伝令係のレイニー(ジェシー・ブラッドフォード)。
勇敢に戦っている姿でも何でもなく、ただ上官に言われるままに星条旗を立てた写真。しかも、当初に立てた旗を別のものと取り替えるように言われ、指示に従っただけの作業をたまたま、写真家が撮った。
◇
そして、偶然にも出来の良かったその写真は、士気を高揚させ、国民に戦時国債を売りつける絶好の材料になると、大統領にも歓迎される。彼らは写真に登場した英雄として戦時国債の広告塔となり、パレードや野球の試合などさまざまな場所に借り出される。
まるでキャプテン・アメリカではないか。スティーブ・ロジャースもかつて『ザ・ファースト・アベンジャー』において、戦時国債の広告塔としてコスチュームを付けて全米各地を行脚した。あのエピソードの元ネタは、本作に出てきた三人だったのかもしれない。
戦争礼賛でないのは伝わるが
写真に写った尻の形だけで、これは我が子だと確信する母、息子を戦場に送り出した父、写真の英雄となったことを恥辱に思うアメリカン・インディアンの末裔、終戦とともに英雄から格下げになり就職先にも窮する男、そして衛生兵として立派に役目を果たした父親を誇りに思う息子。
悲喜こもごもの人生を、クリント・イーストウッド監督は、いつものタッチで淡々と描いていく。
「俺たちが戦争でやったことは、人に言えるようなものではない」
『グラントリノ』でイーストウッド演じる頑固親父がそう語ったように、本作も戦争礼賛映画ではない。それはわかる。だが、この映画で彼が伝えたかったメッセージは、今一つ見えにくい。これは、残りのもう一本を観るしかない。