『トップガン・マーヴェリック』
Top Gun: Maverick
36年ぶりにあの映画が帰ってきた。不老不死のトム・クルーズが今回も誰よりも激しくドッグファイト!
公開:2022年 時間:131分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ジョセフ・コシンスキー
キャスト
ピート・ミッチェル海軍大佐
(マーヴェリック): トム・クルーズ
ブラッドショウ海軍大尉
(ルースター): マイルズ・テラー
ペニー・ベンジャミン:
ジェニファー・コネリー
セレシン海軍大尉
(ハングマン): グレン・パウエル
トレース海軍大尉
(フェニックス): モニカ・バルバロ
フロイド海軍大尉
(ボブ): ルイス・プルマン
カザンスキー海軍大将
(アイスマン): ヴァル・キルマー
シンプソン海軍中将
(サイクロン): ジョン・ハム
ベイツ海軍少将
(ウォーロック):チャールズ・パーネル
コールマン海軍准
(ホンドー):バシール・サラフディン
ケイン海軍少将
(ハンマー): エド・ハリス
アメリア・ベンジャミン:
リリアーナ・レイ
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット、マーヴェリック(トム・クルーズ)が教官として帰ってきた。
空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。
その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)の姿もあった。ルースターはマーヴェリックを恨み、彼と対峙するが…。
レビュー(まずはネタバレなし)
36年ぶりに主役でアクションできる男
トム・クルーズをトップスターに押し上げた、トニー・スコット監督による大ヒット作『トップガン』(1986)から実に36年ぶりの続編。
だいぶ時間が経過してからヒット作の続編が撮られることは、近年割と多い。『ブレードランナー2049』 や『ゴーストバスターズ/アフターライフ』等々、『クリード チャンプを継ぐ男』もそうかもしれない。
同じ俳優が主演をやるケースも珍しくないが、基本的には、かつてのヒーローが枯れた後の物語になる。本作のように、還暦も近いトム・クルーズが、殆ど肉体の衰えを感じさせない驚異的なバイタリティで、ド迫力のアクションの中心にいるようなケースはおよそお目にかかったことがない。
◇
それにしてもトム・クルーズ、ここまで老けないと逆に怖い。これが食品なら、いつまでも賞味期限がこないので、中身を疑うレベルだ。この年齢で、あの爽やかさはどこから生まれるのだろう。しかも次作には『ミッション・インポッシブル:デッドレコニング』の公開が控えている。根っからの仕事人間。これが若さの秘訣か。
戦闘機乗りたちの時代も変わった
本作は劇場の大画面、大音量で堪能したい作品。冒頭いきなりの空母からの離着陸のシーンにおなじみケニー・ロギンスの「Danger Zone」。前作を知る者はノスタルジーに浸る瞬間。
ただ、本作はトム・クルーズが続編製作の権利を買い取ってまで撮った肝入りの作品であり、懐古主義に浸るつもりなどまるでない。
『オブリビオン』(2013)で組んだジョセフ・コシンスキー監督や撮影のクラウディオ・ミランダ、脚本には『ミッションインポッシブル・フォールアウト』のクリストファー・マッカリーなど、全幅の信頼を寄せるスタッフを結集。今の時代をしっかりと反映した作品に生まれ変わっている。
◇
その筆頭がパイロット不要の時代の流れだろう。前作のF14トムキャットの時代と異なり、第5世代と呼ばれるステルス性能を備えたジェット戦闘機が全盛、しかも無人機まで台頭している。
戦闘機乗りという天職にこだわり続けるマーヴェリック(トム・クルーズ)も、数年後には無人機全盛の時代が到来することを認めざるを得ない。だが “Not today” だと最後まで意地を張る。
◇
時代の反映という意味では、海軍の航空士官候補生たちを描いていながらあまりに戦争そのものには無頓着かつ男性主義的で、女なんてバーで口説けばいくらでも引っかかるような内容だった前作から、本作では幾分改められている。
トップガンのメンバーには女性パイロットもいるし、かつての行きつけのバーでは、「人の容姿を語ったり、カウンターにスマホを置いたりしたら、みんなに一杯振舞うこと」というシビアな店の掟まであるほど。
「教場」か「セッション」か
冒頭、戦闘機の開発予算が削られそうになり、前人未到のマッハ10を目指してテスト機で無茶をやるマーヴェリック。ヘルメット内部のLEDライトは、『ミッション:インポッシブル フォールアウト』で開発したアイテムだな、きっと。
この命令違反でケイン海軍少将(軍人といえばエド・ハリス、渋いぜ)にお灸をすえられたマーヴェリックを、拾ってくれたのが古巣のトップガン。前作のように漫然とした訓練ではなく、今回はならずもの国家の施設破壊という期限付きミッションがある。マーヴェリックは教官として教え子を育て、任務を遂行し生還させなければいけない。
レジェンドと呼ばれた男が、血気盛んで鼻っ柱の強い教え子たちに言うことを従わせ、鍛え上げていく。
「(実戦なら)そのミスで仲間が死んだぞ。ミスの理由は私でなく、遺族に説明しろ」
静かに厳しく語る姿は、キムタクのドラマ『教場』のよう(生徒の出来はトップガンに及ばないけど)。イマドキの若者たちを指導するには、マーヴェリック級のレジェンドが教官につかないといけないのか。
前作繋がりのキャラクター
前作からの繋がりキャラは何人かいるが、けして旧交を温めるだけのぬるいものではない。まずは教え子のひとり、ルースター(マイルズ・テラー)。前作で事故死した、マーヴェリックの親友グースの息子だ。マーヴェリックに責任はなかったとはいえ、息子は彼を恨んでいる。
前作でピアノ演奏に興じるグースのそばにいた幼い子が、今や亡父と同じような髭をたくわえ、同じ職に就き、同じようにバーでピアノを弾き語る。この二人の確執は、本作の人間ドラマの核となる。
『セッション』(デイミアン・チャゼル監督)で鬼教官のドラムレッスンのしごきに耐えたマイルズ・テラーだが、本作ではどうか。
そして前作ではマーヴェリックの最大のライバルだった、沈着冷静なアイスマンは、今やトップガンの中枢におり、提督に出世している。
咽頭がんを患い声が出せないというヴァル・キルマー本人の状況がそのまま映画の役でも引き継がれ、再会した二人がPCで筆談する姿は胸に沁みる。この二人は、互いの実力を認め合った者同士なのだ。若い頃の二人が喜び合う写真(前作のラストシーンか)も感動を誘う。
◇
みんなの行きつけのバーの店主ペニー・ベンジャミン(ジェニファー・コネリー)は、かつてのマーヴェリックの恋人だったようだ。前作に関連のあるキャラとなっているが、ジェニファー・コネリーはトム・クルーズと初共演だというし、どういうことか。
はじめは、前作の恋人役ケリー・マクギリスが彼女に交代したのかと思ったが、どうやら前作でマーヴェリックがちょっと付き合っていた「司令官の娘のベニー」というのが彼女のことのようだ。上官に絞られているシーンの会話でしか登場していないので、これなら分かりようがない。
ケリー・マクギリスや、ルースターの母親であるメグ・ライアンが登場するかと思ったが、そこまでやると、ただの同窓会映画になってしまうので、これは節度ある対応だったのだろう。
昔の恋人と基地のそばで再会して、再び深い仲になるという設定にある程度リアリティを持たせるとなると、今回のジェニファー・コネリーはなるほどの配役だと思う。
ドッグファイトはやはり圧巻!
さて、そのほかネタバレなしで語れる魅力はなんだろう。前作で最大の売りだった米国海軍前面協力のドッグファイトシーンは、本作でさらに磨きがかかった。トムのこだわりだろうが、当然CGは極力控えめで、IMAXカメラを6台も戦闘機に仕込んだ撮影のド迫力は、それだけでマニアならずとも垂涎もの。
◇
本作にも最後にクレジットが出るが、前作の監督である故トニー・スコットは、MVを思わせるスタイリッシュな映像と軽さが時代にマッチしてヒット作を量産し、さすがCM演出の世界から出てきた映画人らしい。だが、私は昔からお兄さんのリドリー・スコットびいきなので、このあっけらかんと能天気な作風は、ちょっと苦手だった。
本作は、マーヴェリック自身も年齢とともに苦労を重ね、人間としての深みがでている。体力に衰えはなくても、当然すぐにカッとなったり、女のケツを追いかけたりする若造ではなく(後者は今もか?)、教え子を父親目線で見られるだけの人間的な成長がある。それが、映画全体のドラマの厚みになっているのだろう。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
フォースを使え
そうはいっても、ネタバレするような材料はあまりない。与えられたミッションは相当難易度が高い。敵の施設に核兵器が装備される前に、破壊しなければいけない。
レーダーにとらえられないように、山間にある敵施設に、谷の部分をひたすら低空飛行で2分30秒以内に近づいていき、一機目が特定箇所を攻撃し、二機目がそこに爆弾を投下する。あとはすぐに崖を急浮上して逃げる作戦だが、周囲には敵の迎撃ミサイルが配置され、感知されれば発射されるはず。
このミッションには馴染みがあると思ったら、『スターウォーズ』1作目(episode4)でルークがデススターを破壊するのと同じ攻撃ではないか! とはいえ、全て特撮とフォースの力でミッションクリアした同作とは、まったく趣向は異なるが。
ミッションの行方がどうなるかはここでは書かないが、還暦間近のオッサンパイロットが、往年の名機トムキャットをみつけ、空を飛ぶ展開は泣かせる。007が古いアストンマーティンを操るかのようだ。
前作踏襲のパターンも織り込んで、アイスマンの役目を今回はハングマンが引き継ぐ(グレン・パウエル良かった)。更に臨場感を増量し疑似父子ドラマに発展させたのもいい。ラストに余計なエピソードを加えず、生還した空母のシーンでバシッと終わった方がインパクトあった気はしたけど。
「考えるな、行動せよ」か。ブルース・リーの教えとはちょっと違うけど、これもまたよし。