『キラーズ オブ ザ フラワームーン』考察とネタバレ|資産家インディアンにひれ伏す白人の社会

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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
 Killers of the Flower Moon

マーティン・スコセッシ監督がディカプリオとデ・ニーロで贈る珠玉の3時間半の西部劇。

公開:2023年 時間:206分
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:   マーティン・スコセッシ
脚本:          エリック・ロス
原作:        デヴィッド・グラン
『花殺し月の殺人

インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』
キャスト
アーネスト・バークハート:

        レオナルド・ディカプリオ
ウィリアム・ヘイル(キング):

          ロバート・デ・ニーロ
モリー・カイル:リリー・グラッドストーン
トム・ホワイト:  ジェシー・プレモンス
ハミルトン弁護士:ブレンダン・フレイザー
ビル・スミス:   ジェイソン・イズベル
ミニー(モリーの妹):ジリアン・ディオン
リタ(モリーの妹): ジャネー・コリンズ
アナ(モリーの姉):

      カーラ・ジェイド・メイヤーズ
ヘンリー・ローン(モリーの元夫):

           ウィリアム・ベロー

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

1920年代、オクラホマ州オセージ郡。先住民であるオセージ族は、石油の発掘によって一夜にして莫大な富を得た。

その財産に目をつけた白人たちは彼らを巧みに操り、脅し、ついには殺人にまで手を染める。

レビュー(まずはネタバレなし)

マーティン・スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオと6度目のタッグとなる、206分の超長編、Apple TV+の製作。

ディカプリオロバート・デ・ニーロという、スコセッシ新旧二枚看板の共演という贅沢さもあり、3時間26分は中弛みすることなく観られるが、途中トイレ休憩なしの劇場公開だったらつらかったかも。

スコセッシ監督の長いキャリアでは初となる西部劇という触れ込みだが、荒野で撃ち合いをするような内容ではなく、1920年代のオクラホマを舞台にした犯罪サスペンスの色合いが強い。

オクラホマの先住民であるオセージ族は、白人との共生をやむなく受け容れようとしていた矢先、「フラワームーン」の儀式の最中に大地から原油が噴出する。

その受益権を均等に分配されたオセージ族は超富裕となり、財産目当てにオセージ族の女性と結婚する白人の男たちが続出する。

白人に迫害された原住民というステレオタイプの構図がここでは通用しない。白人の男たちは、ゴールドラッシュならぬオイルマネーに、この町に群がってくる。

そこに、第一次大戦の復員兵のアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)が、おじのキングことウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を訪ねてくる。

キングは表向きオセージ族の良き後援者の立場を装うが、虎視眈々とその財産をねらっている。

アーネストをオセージ族の女性モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)の運転手に薦め、彼の思惑通りに二人は結婚し子供を授かる。

満面の笑みを湛えて好人物を装うキングが、手下を使いあの手この手で裏工作し、モリーの一族の財産を手に入れようと、相続人を次々と消していくのが怖い。

こういう役をやらせたら天下一品のデ・ニーロの演技が、本作でも冴えわたる。

一方、カネと女に目がないアーネストは、はじめのうちは強盗稼業に手を出したり、財産ねらいの政略結婚を成し遂げようと乗り気になる。

はじめは「財産目当てのショミカシ(コヨーテ)でしょ」と疑っていたモリーもついに心を許し、本当に愛し合う仲になる。ここから、長い時間をかけて、アーネストの葛藤が始まる。

オセージ族は統計的に早死にする。もともと飢餓への耐性が強く、エネルギーを蓄える体質のところに、西洋の食文化がやってきた。飽食に慣れていないため、病気にかかりやすく、モリーも糖尿病に苦しんでいる。

狡猾なキングはそこに目を付け、世界でもまだ貴重なインシュリンを手に入れ、毎日彼女に注射をするようにアーネストに渡す。

だが、やがてそこに秘かに毒が盛られるようになる。それを問いただすことも、不服従もできず、アーネストは妻に注射を続け、モリーは病状を悪化させていく。

気丈で誇り高いオセージ族のモリーが弱っていく様子が痛ましい。やがて彼女は、死ぬ運命の者が見ると母に聞く、幻のフクロウの姿をついに目にする。

ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』でのディカプリオのくたびれた中年オヤジぶりに驚いたが、本作の彼も、けして男らしく振舞う英雄キャラではない。

実際、終盤になってようやく家族の大切さに気付くまでは、カネのために悪行を重ねている卑劣漢の印象が強い。始終眉間に皺を寄せているアーネストの顔つきは、ディカプリオというより川谷拓三のようだ。

財産は持っていても無能力者扱いのモリーは、自分のカネを使うのにも、白人の許可がいる。まるで『ドラゴン・タトゥーの女』リスベットみたい。

許可を得てワシントンまでやってきたモリーは、「意地汚い白人のおかげで、一族が次々と変死を遂げており、捜査してほしい」と大統領に陳情する。

願いは聞き流されたように見えたが、後日、フーバーの指示で司法省捜査局のトム・ホワイト(ジェシー・プレモンス)らがオクラホマにやってきて、厳しい捜査を始める。

ジェシー・プレモンスは西部劇なら『パワー・オブ・ザ・ドッグ』スコセッシ監督作品なら『アイリッシュマン』の記憶から、あまり敏腕捜査官の印象はないが、ここではビシビシと真相を追求していく姿が頼もしい。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

結局、FBIのトム・ホワイトらの活躍により、キングもアーネストも逮捕される。

圧倒的なボスであるキングを裏切って、アーネストが犯罪の証言をするかどうかが焦点になるのだが、獄中で我が子が殺されたことを知ったアーネストは、ようやく自分にとって大切なものが何かに気づく。

3時間を超えるドラマの終盤で、証言後にアーネストはモリーと面会し、彼女に問われる。

「あの薬の中身は何だったの?」
射抜くような彼女の視線に、涙ながらにアーネストは答える。

「…、インシュリンだよ」
そのまま無言で立ち去るモリー。

これまでずっと慈愛に満ちた眼差しで夫を見ていた彼女だけに、この振る舞いは衝撃的だ。

リリー・グラッドストーンケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』でも、わずかな登場シーンながら記憶に残る女優だったが、本作では存在感が際立つ。

映画はそこから数年後、この事件の顛末がどうなったのかを、手作業の効果音や生バンドの演奏入りのラジオドラマで語るスタイルを取る。なかなか面白い試みだと思った。

俳優が演じるにはあまりに時間が足りないし、ナレーションだけでは味気ない。見応えのある206分。まだまだスコセッシ監督に衰えなし。