『ボーン・アルティメイタム』一気通貫レビュー③|踏み石を志願した男

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『ボーン・アルティメイタム』
 The Bourne Ultimatum

ジェイソン・ボーンのシリーズ三作目。小刻みの編集で冴えわたる緊迫アクション。

公開:2007年 時間:115分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:      ポール・グリーングラス
原案:         トニー・ギルロイ
原作:        ロバート・ラドラム
            『最後の暗殺者』

キャスト
ジェイソン・ボーン:  マット・デイモン
パメラ・ランディ:   ジョアン・アレン
ニッキー・パーソンズ:
          ジュリア・スタイルズ
ノア・ヴォーゼン:

        デヴィッド・ストラザーン
エズラ・クレイマー長官:スコット・グレン
ハーシュ博士:   アルバート・フィニー
サイモン・ロス:  パディ・コンシダイン
ニール・ダニエルズ:コリン・スティントン

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

CIAの極秘計画《トレッドストーン》のもと、過去の記憶を消された元諜報員ボーン(マット・デイモン)。計画の全容をつかんで首謀者に復讐するため、独自の調査を継続する。

そんな時、英国のある新聞にボーンの顔写真が載る。ボーンは記事を書いた記者サイモン・ロス(パディ・コンシダイン)に接触。《トレッドストーン》を発展させた計画《ブラックブライアー》があると知る。

CIAのヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)の部下が記者を殺したため、ボーンは記者の情報源がいるスペインのマドリードへ向かう。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

前作『ボーン・スプレマシー』と同じ、ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンの座組みで撮られた、ジェイソン・ボーンのシリーズ第3弾。

この後、スピンオフ的な作品『ボーン・レガシー』を挟んで、9年後に2016年に『ジェイソン・ボーン』が撮られるものの、実質的には本作が三部作の完結編のような位置づけ。

記憶を失くした殺人兵器のような男が、CIAを敵に回して自分探しの戦いを続けるプロットは当初から変わらず、またアクションにおいてもリアリティを重視する姿勢にもブレがない。

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

さすがに路線踏襲のまま三作目ともなれば、飽きが来るかと思いきや、むしろ回を追うごとに面白さが増しているような気さえする。

なお、二作目同様、ロバート・ラドラムの小説からはかけ離れたオリジナル脚本らしいので、もはや原作は読んでない。

前作で恋人マリーを殺されたボーンは、首謀者への復讐のために動き出すために、キエフから逃亡。ボーンの影に脅えるCIA。

対テロ極秘調査局を仕切るノア・ヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)は、ボーンを創り出したトレッドストーン計画のアップグレード版といえる、ブラックブライアー作戦に関与していた。

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

だが、エシュロンの盗聴網に作戦名が検出され、ヴォーゼンたちは、それが新聞記者のサイモン・ロス(パディ・コンシダイン)の電話だと割り出す。真相に近づいているロスを捕まえ、情報源を探ろうとするCIA。

一方、新聞記事を読んでロスの存在を知り、彼をCIAの魔の手から守ろうとするボーン。この攻防戦の見せ方が素晴らしい。

ロンドンの新聞社にいるロスはCIAにマークされているが、ボーンは盗聴されていない電話で彼をウォータールー駅に呼び出す。

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

次々とロスに意味不明な指示をするボーンだが、それが面白いようにCIAの裏をかいていく。そして駅の雑踏の中に紛れてロスを救い出そうとするのだが、間一髪で失敗し、ロスを死なせてしまう。

ここまでの一連の動きには、派手なスパイ・アクションがあるわけではない。

だが、短いショットを巧みに繋いだ編集の冴えとテンポの良さで、このロスをめぐるボーンとCIAの争奪戦は、ボンドイーサンのゴージャスなアクション映画を凌駕するような興奮をもたらしてくれる。

前作で執拗にボーンを追いかけたCIAエージェントのパメラ・ランディ(ジョアン・アレン)は今回も登場。ヴォーゼンの指示で再びボーンを追う。

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

「情報を横流しするのに、携帯を使うわけがない。その時間帯に携帯を使っていない職員が怪しいわ」

ロスに情報を流したのをマドリッド支局長ニール・ダニエルズ(コリン・スティントン)だとすぐに突き止める敏腕ぶり。

だが、彼女は、ボーンは自分の過去を知りたいだけだと思い始めており、本作においては、完全にボーン擁護派になっている。

情報を入手しようと一足先にマドリッドに向かったボーン。

追っ手のCIAを次々と返り討ちにするが、そこで偶然出くわしたのが、前作でも登場した、トレッドストーン作戦の元サポート担当ニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)

ボーンの過去を知っているからか、彼に協力するようになり、二人でダニエルズが雲隠れしたモロッコはタンジールへ。

ヴォーゼンがモロッコに送り込んだ刺客ディシュ(ジョーイ・アンサー)はダニエルズを爆死させ、ボーンとニッキ―も暗殺しようとする。

モロッコの家並みを舞台に死闘を繰り広げる場面は、相変わらずリアルを売り物にしており、やや中だるみの感はあるが、アクションのレベルは高い。

ディシュのほか、何人か刺客は登場するが、過去作に比べるとボーンを苦しめる相手のキャラが弱い。

(C)2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

本作で存在感があるのは、ヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)のほか、長官のエズラ・クレイマー(スコット・グレン)、ボーンの生みの親ハーシュ博士(アルバート・フィニー)など、CIAの伏魔殿に巣食う老獪な面々。

インテリ風な渋めダンディのヴォーゼンが、終盤でまんまとボーンに裏をかかれて、隠し撮りされた声でオフィスの金庫を開けられて、ブラックブライアー作戦の極秘書類が丸々盗まれてしまうのは間抜けで痛快だった。

一方、ボーンはパメラの協力でついに、自分を矯正した実験室で生みの親のハーシュ博士と対峙する。ただ、ここで完全に復讐を果たしたとも過去が解明したとも言い難く、完結編とよぶにはスッキリしないエンディングを迎える。

博士に撃たれて殺されたように見えたが、遺体が発見されないというTVニュースにニッキーがボーンの生存を確信して笑い、生き延びているボーンの姿でエンドロール。

こうしておかないと、続編が作れないからね。ブレずにリアリズム志向なのが素晴らしい。