『明日に向って撃て!』今更レビュー|ニューマン&レッドフォードの傑作①

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『明日に向って撃て!』
 Butch Cassidy and the Sundance Kid

ジョージ・ロイ・ヒル監督による、アメリカン・ニューシネマの爽やかな傑作

公開:1969年 時間:110分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:       ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:     ウィリアム・ゴールドマン


キャスト
ブッチ・キャシディ: ポール・ニューマン
サンダンス・キッド:
        ロバート・レッドフォード
エッタ・プレイス:   キャサリン・ロス
ハーヴェイ・ローガン:テッド・キャシディ
ウッドコック:    ジョージ・ファース
ブレッドソー保安官:  ジェフ・コーリー

勝手に評点:5.0
(何をおいても必見!)

あらすじ

19世紀末のアメリカ西部。強盗団「壁の穴」を率いて銀行や鉄道を襲撃し、お尋ね者として知られるブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)と相棒のサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)

ある日、ボスの座を狙う手下のハーヴェイ(テッド・キャシディ)に決闘を挑まれたブッチは、卑怯な手を使って勝利する。

さらに、ハーヴェイの考えた列車強盗を実行したものの、何度も被害に遭った鉄道会社がついに凄腕の追跡隊を雇い、ブッチとサンダンスは執拗に狙われる。

追われる身となった二人は、サンダンスの恋人で小学校教師のエッタ(キャサリン・ロス)を伴い、南米ボリビアへ逃亡。そこでも強盗を働き、たちまち悪名を響かせる。

今更レビュー(ネタバレあり)

アメリカン・ニューシネマと言われる作品は基本的に好みなのだが、中でも西部劇を現代風にアレンジした本作は、特に気に入っている一本だ。悪事を働いて西部にその名を轟かせる強盗団「壁の穴」(パスタ屋じゃないよ)。

そのボスの座にある切れ者で弁が立つブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)と、相棒で無口だが早撃ちの腕前は天下無双のサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)

このコンビが軽やかに悪事を働き、ひたすら逃げまくる西部劇。原題はそのものズバリの”Butch Cassidy and the Sundance Kid”

ロバート・レッドフォードは彼の知名度を一気に上げた、この役を気に入ったのだろう、その後自ら立ち上げた映画祭にもサンダンスの名を付ける。

邦題は数年前に流行った『俺たちに明日はない』にあやかったのだろうが、『明日に向って撃て!』これも悪くない。「向かって」じゃないのもコンパクトでいい。

やってることは荒っぽい銀行強盗や列車強盗なのだが、その手腕はスマートで、たまにドジも踏む。そしてブッチとサンダンスが終始、軽い毒舌を挟みながら軽妙な会話を繰り返しているところが、たまらなくカッコいい。

泥棒稼業という点では『ルパン三世』を思わせるし、ハードとソフトの対称キャラのコンビが軽口を叩きながらヤバい橋を渡るスタイルは『あぶ刑事』への影響を感じる。

(C)1969 Twentieth Century Fox Film Corporation

ただ強盗団の悪党を描いている訳では、勿論ない。

ジョージ・ロイ・ヒル監督が後年に撮る、ダイアン・レインのデビュー作『リトル・ロマンス』でも、確か映画館デートで観る映画で本作が登場し、そこで、いかにもタフそうなサンダンスが、崖から川に飛び込むのをためらう

この泳げないヒーローの映画に妙に惹かれた当時中坊の私は、そこからこの映画にたどり着き、大いに感銘を受けたのだ。

サンダンスには小学校教師のエッタ(キャサリン・ロス)という恋人がいる。彼女はブッチとも親しく、まるでアラン・ドロン『冒険者たち』のような男女2:1の関係

どういうことなのか、観客が悩みそうなタイミングに、いきなり本作の白眉といえるあの名シーンをもってくる。

これからは馬でなく自転車の時代だと聞いたブッチは、サンダンスと添い寝しているエッタを呼び出し、手に入れた自転車で二人乗りを楽しむ。そこにバート・バカラック「雨に濡れても」、歌はB・J・トーマス。ここは鳥肌ものだ。

こんなにいい曲があったら、同じ映画の中でアレンジを変えて何度か使い回ししたくなるが、この曲はここだけ。だから一層印象に残る。

(C)1969 Twentieth Century Fox Film Corporation

いつもは銀行強盗専門の「壁の穴」団だが、ブッチに代わりボスの座に就こうとし失敗したハーヴェイ(テッド・キャシディ)のアイデアを拝借し、列車強盗を企てる

それも、行きに襲われて、二度はないと安心しているから、帰りも襲うという作戦。襲った列車の金庫番ウッドコック(ジョージ・ファース)は堅物で、帰りの列車には頑丈な金庫。

ダイナマイトで爆破すると、札束はみな空高く散らばってしまい、そこに登場したのは、ユニオン・パシフィック鉄道の社長が雇った敏腕保安官たち。

ここからは、執拗に馬で山の中を追いかけてくる連中からの逃走劇が始まる。なかなかの長丁場だが、飽きさせることはない。

どうにか連中の手を逃れて、エッタの家に戻ったブッチとサンダンスは、もう危なくて米国にはいられないと、三人でボリビアへと向かう。

エッタに教わりスペイン語は猛勉強したものの、カンペを見ながらの銀行強盗。この国でも仕事はうまく回り始めるが、敏腕保安官が米国から追ってきたと知り、二人は目立たぬように給料運搬の護衛の仕事に就く。

泳げないサンダンスに、実は人を撃ったことのないブッチ。それぞれが、万事休すのタイミングで自分の弱味を打ち明ける。

(C)1969 Twentieth Century Fox Film Corporation

クライマックスは、ついに追っ手のボリビア警察隊に、自分たちの居場所がばれて、囲まれた二人。馬に積んだ弾薬をとりにいくブッチを、サンダンスが援護射撃するのだが、目標達成直前で二人とも銃撃をくらってしまう。

取り囲まれた二人だが、最後は拳銃を片手に、部屋から飛び出し連中に銃を向けて走り出す。ここでカット、そこに警察隊の発砲音が重なる。

『俺たちに明日はない』のラスト、ボニーとクライドには明日はなかったが、ブッチとサンダンスは明日に向って撃つところで終わるのだ。最後に静止画と発砲音で締める形式は、『ドラゴン怒りの鉄拳』に踏襲された気もする。

本作で生まれたポール・ニューマンロバート・レッドフォードの名コンビは、ジョージ・ロイ・ヒル監督のもとで4年後にもう一つの傑作『スティング』を生み出す。

なお、10年後の1979年には、ブッチとサンダンスの前日譚にあたる『新・明日に向って撃て!』が公開された。

監督はリチャード・レスター、主演はトム・ベレンジャーウィリアム・カットと、どこにも本作との繋がりが見えないので、がっかりしたのを覚えている。