『水の旅人 侍KIDS』今更レビュー|カラスのキョエちゃんに叱られる

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『水の旅人 侍KIDS』

大林宣彦監督がハイビジョンを駆使して撮った少年と水の妖精のファンタジー。

公開:1993年 時間:106分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        大林宣彦
原作:         谷真澄

            『雨の旅人』
キャスト
墨江少名彦:      山﨑努
楠林悟:        吉田亮
楠林千鶴子:      伊藤歩
村田先生:      原田知世
楠林優子:     風吹ジュン
楠林文博:      岸部一徳

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

あらすじ

小学生の悟(吉田亮)は、河原で一寸法師のように小さな老武士(山崎努)を発見した。

雷に打たれて動けなくなっていた老武士を悟が介抱すると、息を吹き返した老武士は、自分は水源地から来た水の精霊である墨江少名彦だと名乗った。

海を目指すという少名彦が元気になるまで部屋にかくまうことにした悟は、少名彦との交流を通じて多くのことを学んでいく。だが、きれいな水から離れた少名彦はしだいに衰弱していく。

今更レビュー(ネタバレあり)

少年を主人公とした大林宣彦監督作品は、男女ペアの『転校生』を除けば、『少年ケニヤ』『漂流教室』『青春デンデケデケデケ』『あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜』と、正直あまり私とは相性が良くない。

なので、本作も長年観るのを躊躇してきたが、いざ観てみると、なかなか楽しい作品だった。子供向け夏休み映画というポジションにふさわしく、特撮も楽しいし、水や自然の大切さも教えてくれる。

いつもなら、実験精神と遊び心が旺盛すぎて、映画が暴走してしまいがち大林監督だが、今回はタイトすぎるスケジュールのせいか、ハイビジョンという高価な玩具に夢中になっているせいか、羽目をはずしすぎることがない。

だから子供向けファンタジーとして、ちゃんと枠の中に収まっている。この映画に不満を持つ人がいるとすれば、お馴染みの型破りな演出がないためかもしれない。

小学2年生の楠林悟(吉田亮)が、姉・千鶴子(伊藤歩)に野球の球拾いに駆り出された川原で、身長17センチの小さな老武士の少名彦スクナヒコ(山崎努)を助ける。

老人は水源からやって来た水の精で、海を目指していると語る。小動物の世話をするように、家族の目を盗んで老人の面倒をみる悟。二人は次第に親交を深めていく。

全編の9割にハイビジョンが使われているという。主人公の山崎努が一寸法師なのだから、その登場シーンはすべてハイビジョン対応なのだ。

映画の合成など『HOUSE』の頃からお手の物の大林監督だが、背景とキャラを合成すると一定の太さの縁取りが生じるため、ゴジラのような巨大物ならよいが、小さい物だと不自然になる。

また、火や水といった柔らかいものも、境界線がつかみにくいため、合成には不向き。だから、本作のような題材は従来は合成に不向きだったが、ハイビジョンならそれができるというわけで、監督も乗り気になる。

大林監督はこの手の新技術にはすぐに飛びつくが、元来、手作りのアイデアで特撮や合成を仕上げてきた歴戦の職人であり、ハイテクで高画質を手に入れるだけでは満足しないのだろう。

だから、ハイビジョンで精緻な美しさを求めるのではなく、その性能を手持ちカメラの躍動感に振り向けているそうだ。

更に詳しく言えば、通常のドラマ部分はスーパー16で撮って画質を落とし、35ミリの下絵とブルーバックのハイビジョン撮影の合成カットとレベルを合わせるという、観ている側にはまるで分からない地道な努力で、本作は成り立っているらしい。

小さな山崎努が家の中で家電製品や飼い猫と格闘したり、近所を駆けずり回ったり、ヨーダのように刀を振り回してカラスと戦ったりと、めまぐるしく動く場面はどれも違和感なく滑らかだ。前後とのつながりもスムーズ。

『ふたり』中嶋朋子石田ひかりのマラソン大会のシーンの合成ショットとは、隔世の感がある。

とはいえ、明らかに合成と分かる手作り感は残っており、それが作品の味になっている。『アントマン』みたいに極小キャラのアクションが美しすぎる特撮でも、この親近感は出ない。

山崎努の撮影はすべてブルーバック合成のため、あとから一人での演技を別撮りしたという。言われてみればそうなるか。これは演者としては相当な苦労だろう。ただ、当の本人は演じたかった役柄だそうで、楽しんで演じている風にも見える。

小人の設定と少名彦スクナヒコという名前が、佐藤さとるの児童文学の傑作「コロボックル」シリーズを思わせる。少年の名前もさとるだし。

内向的で優等生タイプのを演じた吉田亮は、演技経験にまだ浅さを感じたが、芝居の相手が小さな人形とあっては、難しさがあったのだろう。

いつも不機嫌そうな優等生の姉役が伊藤歩だったのは驚いた。『スワロウテイル』が映画初出演かと思っていたら、本作がデビューだったのか。ただ、この映画では終始不機嫌な顔をしている。

この姉弟の両親が風吹ジュン岸部一徳。子どもたちにガミガミとうるさい小言しか言わない母親キャラは大林映画ではお馴染みだが、自由奔放なイメージの風吹ジュンにこの役は似合わないと思った。

水の妖精の存在を信じている学校の先生役に原田知世『天国にいちばん近い島』から9年ぶりの大林映画出演ということになるが、随分とリラックスした演技なのに驚かされる。

『わたしをスキーに連れてって』はじめホイチョイ映画2本を経て角川三人娘の重圧からも解放されたおかげだろうか。

本作で唯一、ドラマ部分で思いっきり羽目を外しそうになるのが、原田知世が演じる先生が、盗んだパトカーに子供たちをのせ、少名彦のために激走する場面。

ここって完全に『わたスキ』のノリだよね(姉の原田貴和子の役だけど)。フジの社員プロデューサー河井真也が、ホイチョイ作品も手掛けていた影響?

小さな山崎努がいつのまにかファミコンをマスターしていたり、ビデオカメラに写ってしまった映像が居間のテレビで再生されたり、飼い猫に乗ってクルマを追いかけたり。合成シーンには躍動感も遊びもあって、楽しめるのはよい。

だが、日に日に体が弱っていく少名彦を回復させようと悟がきれいな水のある水源を目指していき、地震と豪雨のために湖で悟が遭難してしまう話については、随分とドラマ展開が雑な印象。

運よく子供たちが救出されたから良かったものの、この部分は原田知世のコメディリリーフ抜きで、きちんと盛り上げるべきクライマックスではないかと思う。

最悪だったのは、少名彦がくちばしを斬ったカラスは、本当に切断して撮ったらしいこと(監督談)動物愛護団体が聞いたら卒倒するような話だ。こんな時にこそ、特撮を使うべきだろう。これを知った時には萎えた。

キョエちゃん(『チコちゃんに叱られる』のカラスです)にはとても言えない。

そして、最後に元気を取り戻した少名彦は、山崎努から尾上菊五郎に若返り、海に帰っていく。ここまで一人芝居で主演を張ってきた山崎努に、完投させてあげたい気もしたが、無情に選手交代。

この企画を持ち掛けた久石譲による美しいテーマ曲は本作と相性も良く、この曲で締めればよいのにと思ったが、エンドロールにはとってつけたような雰囲気の異なるポップな曲のイントロが流れる。

フジテレビの商法だからと諦めていたら、なんと耳に馴染みのある美しい声。これは中山美穂じゃないか。ああ、こんなところで巡り合うなんて。

結局、フルコーラス懐かしく聴かせてもらった。ミポリン、文句言ってすみません。