『007 消されたライセンス』
Licence to Kill
ティモシー・ダルトンがボンドを演じるシリーズ16作目。ボンドガールはキャリー・ローウェル、タリサ・ソト。
公開:1989年 時間:133分
製作国:イギリス
スタッフ
監督: ジョン・グレン
キャスト
ジェームズ・ボンド:ティモシー・ダルトン
フェリックス・ライター:
デヴィッド・ヘディソン
パメラ・ブービエ: キャリー・ローウェル
フランツ・サンチェス: ロバート・デヴィ
ルペ・ラモーラ: タリサ・ソト
ダリオ: ベニチオ・デル・トロ
ヘラー: ドン・ストラウド
シャーキー: フランク・マクレー
エド・キリファー:エヴェレット・マッギル
ミルトン・クレスト: アンソニー・ザーブ
ブッチャー博士: ウェイン・ニュートン
クワン: ケリー・ヒロユキ・タガワ
M: ロバート・ブラウン
Q: デスモンド・リュウェリン
マネーペニー: キャロライン・ブリス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
CIAの旧友フェリックス・ライター(デヴィッド・ヘディソン)に重傷を負わせ、その婚約者デラを死に至らしめた南米の麻薬王サンチェス(ロバート・デヴィ)に復讐を誓ったボンド。
しかし上司Mから「事件に手を出すな」と殺しのライセンスを奪われた彼は、たった一人で友の仇を討つ決心をする。
友人の協力でサンチェスの居場所を突き止めたボンドは、フェリックスの残した資料から女性パイロットのパメラ(キャリー・ローウェル)と接触し、彼女をパートナーとしてサンチェスの根城である大カジノへと乗り込む。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
ダルトンのボンド第二弾
ジョン・グレン監督によるティモシー・ダルトンのジェームズ・ボンド第二弾。
組織を超えた戦友といえるCIAの旧友フェリックス・ライター(デヴィッド・ヘディソン)の結婚式に参列するボンド。
その直前に麻薬王サンチェス(ロバート・デヴィ)が南米を離れ米国内に入ったという情報を得、ライターとボンドは空中ファイトで敵を捕獲。
アヴァンタイトルの空中戦は相当に見応えがある。技術進歩を考えれば、1989年の作品にして『ミッション・インポッシブル:ファイナル・レコニング』に見劣りしない空中アクションは、並大抵の覚悟では撮れないだろう。
だが、序盤で捕まった大物がすぐに敵に奪還されてしまうのは、前作『リビング・デイライツ』と同じパターン。
CIAのキリファー(エヴェレット・マッギル)を買収し、護送車ごと海に沈んで鮮やかに脱出を果たしたサンチェスは、ライターを拉致してはサメに片脚を食わせ、新婚初夜の新妻を殺害する。007シリーズにしては結構、凄惨な導入部分だ。
武器よさらば
敵の脱走を知ったボンドは、協力者シャーキー(フランク・マクレー)とともに、敵サンチェスの手下であるクレスト(アンソニー・ザーブ)が営む海洋生物研究所を見つけ出し、キリファーをサメの餌にする。
だが、「本件は米国事案であり、私情は無用だ、女王陛下のために別の任務につけ」と、M(ロバート・ブラウン)がボンドに言い渡す。
「では辞職します」と、即座に殺しのライセンスを剥奪され、銃を返すボンド。仲間に蹴りを入れて去っていく。

過去にも危機を救われた戦友が襲われたとあっては、他の仕事になど拘わっていられない。組織に対して、ここまで怒りを剥き出しにするボンドは珍しい。
仲間を見捨てないことで知られるイーサン・ハント(ミッション・インポッシブル)に比べると、協力者は大抵殺されてしまうボンド(特に男性は顕著)はドライな印象だが、ライターだけは別格なのだろう。
ここで仇討ちしないようなら、ただのプレイボーイになりはててしまう。
◇
今回は私情による復讐の物語であり、険しい表情でアクションをこなすティモシー・ダルトンには、とてもよく合っている。
前作で彼の演じるジェームズ・ボンドをとても気に入ってしまった私としては、本作を最後にショートリリーフのように交代してしまったのがとても惜しまれる。
二人のボンドガール
当時は、まだジョン・グレン監督にロジャー・ムーア時代の未練があったのか、必要以上にコミカルな演出を入れてくる。そうなると、強面のティモシー・ダルトンとは相性が悪い。
時代が、ダニエル・クレイグのようなシリアス路線のボンドを受容していれば、ダルトンはもっと続投できたんじゃないかと思う。
◇
ボンドに惚れてしまうサンチェスの愛人ルペ・ラモーラ(タリサ・ソト)と、ライターの協力者だったパイロットのパメラ・ブービエ(キャリー・ローウェル)の二人が、今回のボンド・ガール。
複数いることは珍しくないが、どちらがメインなのかが判然としない扱いで、しかも二人とも最後まで生きているのは割とレアかもしれない。
戦う女キャラのパメラの方が当然目立つし、戦闘モードと着飾る場面とのギャップの大きさがまた目を引く。
今回のストーリーを考えると、二人からモテてしまうボンドというのは必要ない設定に思えたが、復讐の最中にムラムラときてベッドインしてしまわないだけでも、良しとしよう。
アクションと火薬量が凄まじい
空中ファイトの迫力については前述したが、それ以外にも、アクションシーンは全般にかなり気合が入っている。この時代なら、CGによる合成処理で片付けることは少なく、スタントや火薬使用なども、役者やスタッフの安否を心配してしまうほど凄い。
ティモシー・ダルトン本人がどこまで参加しているのか分からないが、前任よりもだいぶ若返っているから、自身で演じているものも少なからずあるはず。

水中バトルやトレーラーの片輪走行、大爆破に炎上シーンなど、スペクタクルな場面が安っぽく見えるところは一つもない(忍者部隊は謎だったが)。
気圧室に閉じこめられて破裂してしまうクレストや、コンベアーから落ちて粉々に裁断されてしまうダリオ(映画デビューのベニチオ・デル・トロ!)など、死にざまがグロテスクなのも本作の特徴といえそう。
そういう路線でいくのなら、瞑想センターのブッチャー博士(ウェイン・ニュートン)や、今回やたら活躍するQ(デスモンド・リュウェリン)などのコメディ・リリーフとは馴染まなかった気もする。
◇
ボンドが最後にサンチェスを追い詰め、ライターからもらったライターでサンチェスを火だるまにして、爆死させる。
ド迫力の火薬量だが、これによって、ジョン・グレン監督の長期政権も吹っ飛び、ティモシー・ダルトンをはじめ、M、Q、マネーペニーらのメンバーも交代となる。
◇
順不同で追いかけてきた007シリーズのレビューも、本作でようやく全作クリアとなったのだが、最後にもってきたティモシー・ダルトンの二作品が、思わぬ掘り出し物だったのは、個人的に嬉しい収穫だった。