『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』今更レビュー|どっぷり浸る伊勢正三の世界

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『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』

大林宣彦監督が大分県臼杵市を舞台にした伊勢正三の名曲シリーズ第二弾。

公開:2007年 時間:119分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:       大林宣彦


キャスト
川野俊郎:      筧利夫
(青年期)    寺尾由布樹
田口花鈴:     鈴木聖奈
北島葉子:     中村美玲
相生:      細山田隆人
浅野浩之:     窪塚俊介
藤田有美:     清水美砂
有美に恋する男:   ヒロシ
松島専務:      峰岸徹
杉田部長:     三浦友和
やきとり屋甚平:  長門裕之
花鈴の父:     村田雄浩

勝手に評点:2.0
(悪くはないけど)

あらすじ

44歳のサラリーマン・川野俊郎(筧利夫)は、同僚の有美と煮え切らない関係を続けていた。

ある日彼は、コンビニで働く少女・花鈴(鈴木聖奈)が「22才の別れ」を口ずさんでいるのを聞き、ふと懐かしさを覚える。やがて花鈴と親しくなった俊郎は、彼女から驚くべき事実を告げられる。

今更レビュー(ネタバレあり)

『なごり雪』(2002)に続き、伊勢正三の名曲を題材にした作品で、同じく大分県臼杵市が舞台となっている。大林宣彦監督は、大分三部作をここ臼杵市で撮る予定だったが、結局本作のあとには続かなかった。

主演は大林組初参加のとなる筧利夫で、これまでの大林作品にない堅苦しい雰囲気を醸し出しているのが興味深い。

公開時以来、久々に観直した。2000年からこっち、独自の世界を突き進む大林監督の感性に、なかなか馴染めない作品が続いていたように思う。本作もその一つだった。

導入部分は美しい。筧利夫の低音の語りから入り、『22才の別れ』がインストで流れる。

『なごり雪』では冒頭から伊勢正三によるフルコーラスを流してしまい、盛り上げ方に難があったが、今回はきちんと、本人の弾き語りをエンディングまで温存している。そこは嬉しい。

また、臼杵市の伝統行事である、古い町並みで竹ぼんぼりに灯をともす<竹宵>を効果的に映画に採り入れている点も、とても良かった。

これは観光客誘致にも貢献しそうだが、古里映画を掲げる大林監督は、おそらく観光には関心がないはずだが、協力した臼杵市にとっては重要なことだろう。

だが、残念なことに、それ以外の見どころが私には見つからない。

冒頭で無精子症だと医師(岸部一徳)に宣告された主人公の独身40歳代男・川野俊郎(筧利夫)が、「遊び放題ってやつですね」と寒い自虐コメントを残し、薄暗いコンビニで「22才の別れ」を口ずさむレジ店員の花鈴(鈴木聖奈)と出会う。

川野は福岡支社勤めの有望な会社員で、専務(峰岸徹)から上海赴任を打診されるが、返答を躊躇っているところに、自宅前の公園で<竹宵>の真似事をして蝋燭に火をつける花鈴と再会する。

彼女は、援助交際目当てで川野を待っていたのだ。大林監督の古里映画に、援交えんこうこくる」とかのフレーズが出てくるのは、どうもしっくりこない。

その日は花鈴の21才の誕生日であり、また、自分を産んで死んだ母の命日でもあるという。

川野は運命的な出会いと気づいた。臼杵出身だという花鈴。その名前、出身地、そして同じ日に亡くなった母。彼女は、若い頃に川野が同棲していた葉子(中村美玲)の娘に違いなかった。

これを福岡の繁華街ならあり得る運命的な出会いというのか、ご都合主義というのかは、意見が分かれるところか。

ただ、花鈴のニット帽にボサボサヘアに丸眼鏡でダボダボの服装は、性的な要素を排除していて、カネに困って援交相手を探しているようには見えない。

まあ、これで川野が本当に花鈴をカネで囲い始めて、愛欲の日々が始まっても興ざめだが、かといって、そのまま彼女を上海に連れて行き結婚しようとする行動も共感しにくい。

これって結局、若い頃に好きだったが別れてしまった女によく似た娘に出会ったオッサンがのめり込んでいく『はるか、ノスタルジィ』的なパターンの話なのか。

この映画に説得力が乏しく感じてしまうのは、ヒロインの花鈴がただの風変りな身なりの女の子で終わってしまって、魅力が十分に引き出せていないことだろう。

母の葉子が高校時代に自転車のチェーンが外れて若き川野(寺尾由布樹)に修理してもらうシーンだけでなく、花鈴の風貌も『さびしんぼう』を意識したのかもしれない。だが、あれは富田靖子の才能あってこその一人二役での成功例。

本作は、花鈴役の鈴木聖奈葉子役の中村美玲も演技の経験は乏しいようだし、演技力の有無は分からないが、少なくともそれを引き出せるような場面があまりない。

なお、鈴木聖奈の近作は『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』。路線変更で我が道を切り開いて活躍中。

ヒロインの経験不足は相手役が補わなければ映画にならないが、尾美としのりのような頼れる存在がいないのが痛い。

本来なら筧利夫にその役割が期待されるべきだが、川野という主人公の、鉄道模型にしか心を許せないような内向的な40才男のキャラ設定が、それを封じてしまっている。

花鈴役と葉子役の二人とも、プロデューサーの娘やお抱えのタレントだったりで、古里映画としては起用せざるを得ない大人の事情があったのかもしれないが、その結果として映画に活気が失われてしまうようでは、本末転倒だ。

何せ、この映画で一番輝いて見えるのは、川野と結婚してもおかしくない秘書課の藤田有美を演じた清水美砂なのだから。

(C)DIAX,PSC,2006

3年以内に会社を辞めて結婚し子供を生んで公園デビューするのが夢よ」と明るく語り、無精子症の川野が身を引くきっかけを作るが、彼を気に掛ける姿や、慕ってくる後輩(常連になりつつある、ヒロシです)をうまくあしらう姿など、とても可愛らしい。

川野と並んでマッサージを受けながら、太ももを露わにして彼を蹴る場面など、ヒロインにはない健康的な大人の女の色気を、彼女ひとりでカバーしている。

 

花鈴は葉子を<あのひと>呼ばわりする。それも冷淡に思えるが、自分が生まれたと同時に母が死んだことを、ヒガンバナと重ねるのがあまりにくどい。

曼殊沙華からリコリス”葉見ず花見ず“と、すべて同じ花をさしており、それが映画の主題なのは分かるけど(だってタイトルにもあるし)、それを映画の中で何度も説明することはない。ただでさえ、会話の文体が高校の演劇風にデフォルメされているのに。

かつて自分の想いを伝えられず引き留めることさえできずに、東京で同棲していた葉子を臼杵に帰してしまった川野。

同じように花鈴と同棲していながら、川野と結婚して上海に行こうとする彼女に想いを告げられず身を引こうとしている若者・浅野浩之(窪塚俊介)の存在を知る。

この青年に自分の若き日の後悔を重ねたか、或いは、自分が出世競争で押し退けてしまった先輩の部長(三浦友和)のせいか、川野は上海赴任どころか会社も辞め、当然結婚も取りやめる。

そして花鈴とともに彼女の実家を訪ね、父親(村田雄浩)から葉子の話を聞く。

川野が葉子と別れた22才の誕生日を、今度は花鈴が迎えようとしている。曲がいいだけに、映画としてはきれいに収まったように感じるが、「自分は年収100万だから」と、同棲相手が中年男と結婚するのを指をくわえて見ている若者も情けない。

しかも、ウェブデザイナーの夢は簡単に諦めて、川野の馴染みの焼鳥屋で働きだすのだから、この青年にも喝を入れたい。

なお、夫婦で共演こそなかったが、その焼鳥屋の主人を演じた長門裕之と、大林監督のデビュー作『HOUSE』以来の付き合いで本作が遺作となった南田洋子が、ともに出演し、いい味を出しているのが救いではある。